Cadre小噺:戦線の続行、経過観察

主観:リア

どう足掻こうが戦えば必ず穢れが蓄積する。
知識が無いものが無茶して何度も戦い続け、
体調を崩し、心を病んで、挙句の果てには汚染死が確認されることもある。
体調悪化も容態によっては数週間寝込む奴もいるんだよ。
どこまで続行が可能かってマニュアルが無いからだ。

そこで交代せずに担当を続行するとどうなるか実験してもらう。
…まあ、1番わかりやすいのは一応普通の人間であるルーベン君か、ラルス君かな。
さすがに私も鬼ではない、2人同時に行動させる。

実験について言うと彼らは当然驚き、
ラルス君は『またかよ』って顔をして
「…今後に役立つなら従うけど。」と応えた。

よくある事で、手軽に数回いけそうなのは…各世界で問題を起こしてるB級シャドウの討伐、軽度の発生源の掃討くらいか。

とりあえず、経過観察をしてみると、
1回目…問題なし。
2回目…少しずつ顔色が悪くなる。
3回目…頭痛と幻覚症状が現れる。
4回目…ふらつき、思考が鈍くなる。
5回目…途中で倒れたので私が自ら回収。
ここで実験はやめておく。

腕章から発せられる信号を頼りに行った。
発信場所はアスファレスの路地裏…に行く前に敵は潰しておく。
C級だったが、そんなに大した敵でもない。

ラルス君は壁にもたれてへたり込み、周囲を警戒していた。
ルーベン君はぐったりと地面に倒れていた。回復体位で。

2人とも過呼吸気味で、顔から黒い膿が流れ始めていた。
時々口から黒い液体を吐き出す。
瞳は黒く濁り、目の光が薄らいでいる。

何とか安全な場所に運んでいたらしいが、
ラルス君は私を見るなり顔を真っ青にして、心底疲れた顔で錯乱していた。
「うっ…ホンット…もうやめてくれ!いい加減にしてくれ!」
と声を荒げる。

これは私がどう見えているんだと視界を覗いたが、
これはひどいの一言で済むかな、これ。
全体的に激しいブロックノイズが入り、全ての配色が禍々しく、黒く染まっている。
全ての物体から視線を感じる。無論、空の太陽からも。
人は体が黒く溶け、崩れかけてシャドウのように見える。
周囲から囁き声が聞こえる。
仲間はちゃんと認識できているようだが、
私は悪魔のような表情をしている…。そりゃそうか。

そんな感じで目の前の全てが混沌としていた。
一方でルーベン君は…正直地獄。
何も見えない暗闇の中で、四方八方から滅茶苦茶なノイズを常に浴びせられている感じだ。

とにかく休息せねば精神的にもすり減っていく。
「拠点で休もうか。」と声をかけ、
まずは目を塞いで視界の情報を遮る。
手持ちは…包帯等でいいか。
耳栓なんかしたら逆効果だろう。
声をかけることで落ち着かせる。

2人を搬送したが、ルーク君に怒られた。当然だ。
「先生!なんて危険なことをさせるんですか!
下手をすれば、死にますよ?
ラルス君を先生の所為で瀕死にさせたの、2度目なのでしょう?」ってね。
研究のためとはいえ…ね。

まあ、あとは何をやらかすか不安だ。
私の監視下で安静にさせる。
大人しく寝ている間に腕に血液浄化の装置を取り付ける。
血液治療は週に3回で1回6時間以上。

普段の睡眠時間に合わせて始める。

2週間目に落ち着いてから目隠しは取ったが、2人ともあまりにも酷い魘されっぷりだった。
だが魘され方を見比べると異なる。
ラルス君は単純に身体を蝕む苦痛で、顔を歪ませているが、
ルーベン君は演技性の多重人格故に…自我が迷子になっている。「誰、誰?」って呟く。

だが2人ともいい子だから、問題を一切起こさずに…
予定より1週間早めに汚染障害は回復した。

まあ、後遺症というか…ルーベン君は精神面に悪影響が出た。
元々弱い人格だ。頭が混乱している。
これは更にケアが必要だな…。