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【経営】内製か、アウトソースか(make or buy)


最近、オープンイノベーションや、垂直統合、事業シナジー等、よく耳にしますよね。言い換えると、これは「内製か、アウトソースか(make or buy)」の経営判断の話ととらえることができます。make or buy はいつも経営者を悩ませる判断ですが、今日はそれに関する私なりの意見を記載します。
最初に結論を書くと、「自社が提供する価値のベストチューニングをするのに必要であれば内製、そうでなければアウトソース」というのが一つの答えと思っています。


リソース分配とmake or buy

なぜ、これほどmake or buy が問われるのでしょうか。それは、make or buy とはすなわち、リソース分配を考えることに他ならないからです。
リソース分配は経営者の仕事の中でも特に重要です。なぜなら、何にどれだけリソースを分配するかは、「事業において何を優先して取り組むか」を意味します。
そして、リソース分配の中でもmake or buyは重要な位置を占めます。なぜなら、長い年月と多額の投資判断を伴うものだからです。

例えば、一度アウトソーシングを選んでしまうと社内における技術やノウハウは失われてしまいます。一方で、内製化すると逆にアウトソースすることができなくなり、社内の技術が他社よりも優れていないと、事業の重荷になります。内製化は、雇用や設備投資の問題があるため、基本的には10年単位の長い年月に絡む投資判断でしょう。

つまり、make or buy が重要な理由は、リソース分配の中でも「長い年月と投資判断に関わるところだから」です

日本企業の垂直統合と分業化の流れ

かつての日本企業が絶好調だった時代には、大企業は可能な限りの垂直統合を目指していたように思います。

しかし、今は違います。半導体はわかりやすい事例でしょう。かつて垂直統合で、設計から製造まで実施していたのが、今や上流(設計)と下流(製造)に分業が進んでいます。これは、TSMCを代表とするファウンドリが台頭してきたからです。TSMCが台頭してきた理由は、まず最初は低コストが挙げられます。低コストで市場に参入したのち、今や最先端の半導体の受託生産を行っております。

このように、垂直統合・自社で内製すると、低コスト化・高品質化が望めるわけではないということです。

make or buy はどのように判断するのか

では、何を内製化して、何をアウトソース化すればよいのでしょうか。
答えは、「自社が提供する価値のトレードオフのベストチューニングをするのに、必要であれば内製、そうでなければアウトソース」というのが一つの答えと思っています。

ポーターの競争戦略において、全ての価値はトレードオフのどこを狙うかが重要と言われています。例えば、自動車であれば、コストとデザイン(ラグジュアリーさ)はおおよそトレードオフになっていると思います。

勿論、企業はこのトレードオフを押し上げる(つまり、低コストかつ良いデザイン)を目指して日々努力していますが、ポーターの理論においては戦略ではなく「業務効果」と呼ばれています

業務効果に関わるものは競合他社に模倣されるリスクが大きいです。どんな技術も、どんなデザインも、特許で守ってもなんだかんだ模倣されてしまうでしょう。実際、日本の技術は、後から参入してきた中国メーカーにシェアを奪われてしまっている市場が多数あります。

一方で、価値のトレードオフに最適化されたバリューチェーンは簡単にまねされません。例えば、自動車でいえば、トヨタ生産方式によって徹底的に鍛え上げられた生産工程や、系列企業やそれ以外の企業を競争させる仕組みによって安価で高品質な部品を提供するサプライヤーを育てる仕組みといった、街乗り用のエンジン車(ハイブリッド含む)を必要十分な品質で最低コストで製造する方法は、圧倒的な優位性を誇り、世界のトップメーカーに君臨しています。

逆にトヨタは、高級車を売り上げの中心にはおいていません。BMWやベンツといった高級車メーカーが今でも生き残っているのは、コストよりもラグジュアリーさを売りにしたブランドなので、トヨタほど低コストで自動車を製造する必要がないからでしょう。
つまり、トヨタは「ラグジュアリーさはそこそこ・低コスト」、BMWは「ラグジュアリー優先・コストはできれば安く」ぐらいの位置づけと考えます。

このように、自社が提供する価値のトレードオフを決めるのは重要な経営戦略です。そして、「そのトレードオフを決めると、それに最適化されたバリューチェーンを組む必要がある」とポーターは指摘しています。

話を戻しましょう。内製か、アウトソースかは、この最適化されたバリューチェーンを組む上で、内製化しなければトレードオフをチューニングできない場合に限ると思います。それ以外は、可能な限りアウトソースすべきです。

例えば、サプライヤーが高級品しか取り扱っておらず、もう少し品質を落としてコストも落としたいといった要望があったとしましょう。その場合、自社で内製化するしかありません。逆に自社でなくとも同じものを提供しているメーカーがあれば、内製化する必然性はありません。なぜなら、内製化には大きなデメリットがあるからです。

内製化の無視できないデメリット

では、内製化の大きなデメリットとは何か。それは、リソースが分散することです。例えば100億円の資本のあるA社とB社があるとしましょう。A社はテレビを作るために、液晶パネルもスピーカーも内製し、組立も自社で実施するとします。一方で、B社はテレビの組み立てのみに注力して組立工程をひたすらに低コストで実現するとします。どちらの方が安くテレビを作れるでしょうか。
内製化している液晶パネルやスピーカーが、汎用品と比較して(顧客にとって)同品質・同コストなら、組立のみに注力した会社の方が安く作れます。そうなると、A社の競争優位性は何になるのでしょうか?液晶も汎用品程度、スピーカーも汎用品程度、組立も他社と差がつかない。。。こうなると、何かに特化せざるを得なくなります。特化するということは、取り残された部門は不採算部門となり、経営状況は悪化します。

このようにして、分業が進んでいくと考えます。先述した、TSMCのファウンドリビジネスは、その一例と言えます。


まとめ

  • make or buy は10年単位の長い年月かつ多額の投資判断であるため、重要な経営判断である。

  • 内製化のメリットは、バリューチェーンを自社向けにチューニングできることであり、アウトソースのメリットは会社の事業を軽くして、自社の強みに集中できることにある。

  • したがって、バリューチェーンの最適化に、内製が必要であれば実施すべきであり、そうでなければアウトソースとする方が賢明である。


以上です!ではではー。





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