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留学日記#80 24.3.22.

 日本人二人と旧市街で朝カフェ。誕生日なんだよと言ったら奢ってくれた。一人先に帰ってオンライン家庭教師をしていたら、二人からまた連絡をもらって、午後にも僕の部屋でお茶することになった。わざわざケーキを用意してくれていて、他にもマリアージュ・フレールのアールグレイ、パリのクッキー、スイスのちょっと高い赤ワインにジンとあまりにも贅沢な品揃え。どれも味わいに品があって、フォークを持つ手が自然とゆっくりになる。突き抜けるような快晴で、床に横たわると窓が一面水色に染まって見える。三人ほろ酔いでビルエヴァンスを聴いていたら、誰からともなくまだ帰国したくないと溢れ始めた。

全部おいしい

 夜に東アジアアソシエーションのパーティーがあった。たぶんパーティーは先学期序盤のウェルカムパーティーに行ったのが最後。言葉の壁に感じた疎外感が、いつしかパーティー自体への忌避感にすり替わっていた。会場に着くやいなや日本語の堪能なスイス人三人組に話しかけられてほっとする。一人は日系のハーフだが、あとの二人は一から勉強して話せるようになったみたい。そして驚いたことにそのうちの一人が恐るべく勉強家で、ドゥルーズやフーコーを巧みに引用したかと思えば、川端康成や三島由紀夫について僕なんかよりもずっと広く深い知見を披露してくる。1960年代に関心があり、文学や文献はほとんどすべて日本語で読んでいるらしい。卓越した優秀さに言葉を失った。同時に彼は留学で初めて出会った自分の関心に近い人間でもあった。周りの学生たちがピニャータやピンポンをカップに投げ入れるゲームに興じる中、マゾッホにおける性描写や60年代ウーマンリブについて話に花を咲かせた。三人ともと連絡先を交換してまた会う約束を交わした。あまりに楽しくて、もっと早く来ればよかったと後悔した。

 今朝なんて就活のせいでひどく落ち込んでいたのに。人の温かみに救われている。

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