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留学日記#59 24.2.24.

 オンライン家庭教師をしていると、生徒が問題を解いている間どうも手持ち無沙汰になってしまう。日記を読み返したときに買い損ねていたことを思い出した、山崎ナオコーラ「人のセックスを笑うな」を買う。授業の隙間時間と授業後の昼食の時間を合わせて一気に読み終えた。若々しい恋愛を描いた表題作は、渇きと湿り気とが切り口になっている点は良いがいかんせんテーマに乗り切れない節もある。読むのがもう少し早ければ。と思った瞬間に題名を思い出してハッとさせられた。表題作も良かったが、付属の短編はより好みだった。

「持って帰りますか?」
と、歯医者さんは笑顔で、抜いた歯を脱脂綿に乗せて、私の方に差し出す。覗くとそれは、血だらけで固そうで、真に気持ちが悪かった。持ち帰りは断った。歯はゴミになった。

山崎ナオコーラ/虫歯と優しさ

 ジュネーブ駅のすぐ隣の美容院に行く。予約はしていない。来国以来一度も切らず、首元まで野暮ったく伸びていたこのショートボブを、月曜の面接までに急いで整えなければならなかった。三人ほど先客を待ち、アップバングにセットした男性の画像を見せて指示する。ヨーロッパの理髪は適当だと聞いていたので、たとえぶっきらぼうでも何度も確認してもらえたのは驚きだった。いざ切ってもらうと、「ちょきん、ちょきん」ではなく「じゃぎん! じゃぎん!」と殺意のある音で抜刀みたい。それでも指示に忠実だった。結局10cmほど切った。受付の女性が25フランだと言うので「学生ですけどそれでもですか?」と確認したら20フランの間違いだった。ジュネーブで切ろうとすると50フランくらい平気でかかる。圧倒的格安。腕も悪くないし間違いなく穴場。

あらゆる人間に切れと言われてきた

 寮に帰ったらキッチンで日本人と台湾人の子がカレーを食べていた。台湾人の子はアメリカからこちらに来たらしく、英語だけでなくフランス語もかなり堪能。アジア系の学生は英語しか話せないことが多いので、嬉しくなって話に混ぜてもらった。途中でもう一人同じ階の日本人が来て、髪を切りすぎて人相が変わったのを大笑いされた。拗ねた。

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