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留学日記#81 24.3.23.

 今日から就活をしようと思っていたのに何にも手をつけずに一日を終えてしまった。部屋から出るのが面倒で棚に置いていたりんごを三つすべて食べきった。マゾッホ紹介を読み返しながら批評と臨床について考える。あらゆる医学は結局言葉で書かれ説かれる。ドゥルーズが医学に文学性を見出す所以である。その点においてマゾッホ紹介とは、ドゥルーズが批評家としての医者に比肩し、マゾッホを彼なりに読み替えようとする試みだと言える。そこでは批評と臨床が接するわけだが、どうも僕にはここに粗が、穴があるように思える。masochismという単語に今一度目を向けねばばらない。それは本当に「マゾヒズム」か。「マゾッホ主義」ではなく?

 留学に来てまでマゾッホ紹介と就活についてばかり書き残している。けれどそれが僕の留学日記。読むのも面接を受けるのも、僕という肉と骨と皮とが身を置く出来事であり、その身体は今スイスにあるのだから。一挙手一投足は日本ではあり得ない機微を見せ、その些細な差異が僕の言葉を組み替えてゆく。日記はその足取りの跡だ。

 深夜に寮の近くの川に行った。以前昼に訪れた橋の裏は夜になると様子を全く変えていた。橋の両脇は電灯で明るく照らされているのに、その間に潜ると橋の影のぶんだけ真っ暗で、水のごうごうと流れる音がこもって響いていて、そこだけ周囲から切り取られているかのようだった。寮に帰ると玄関口で一組の男女に声をかけられた。女性のほうに「あなたはいつ結婚するの」と英語で尋ねられる。唐突な質問に言葉をつまらせていると、「結婚したら毎日奥さんと一緒に寝れる?」と言う。イエス、と適当に返事をすると、彼は嫌だって言うのよ、きっとあなたは良い旦那さんになるわねとのこと。知らんがな。

満月が綺麗

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