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ニッチなテーマ別映画紹介① 「エベレスト」映画5選


「最高峰」(文字通りの意味)の映画を紹介していく。


※映画紹介は一部ネタバレ含むため、避けたい方は目次だけ確認して気になる映画を鑑賞し終えてから本文を読むといいかもしれない。ネタバレしない映画紹介の書き方を心得ていなかった、面目ない。

やたらと長い前書き
(エベレスト映画の紹介だけみたい人は読み飛ばしてください)


映画の感想や解釈や紹介を書きたいと思いはじめてから、かるく5年くらい経ったような気がする。映画はそれなりにいろいろみた。でも文はというと、まだ一編も書いていない。

映画を解釈して文章を書くほどの知識も文才もないなということに気づいてしまった。いたしかたない。

世界にはすごい人々が多すぎる。たとえばものすごく難解な映画を鑑賞して、こんなの一体誰が理解できるのか….と思っても、ネットでちょっと検索すればすごいボリューム&クオリティーの解説記事が大量に転がっている。そう、この世界には知識人が多すぎる。

とはいえ2023年になったし、嘆いてばかりいてもしかたがない。やりたいと思ったことはやらないよりはやった方がいい。というわけで、映画解説はまだまだ書けないけど、映画紹介のようなものを書くことにした。

せっかくだから何編か書きたいと思いテーマ別にしてみた。自分への圧力も込めての「①」である。まだひとつも何も書いていないのに欲張りすぎるというつっこみはごもっともすぎる。自分でもそう思う。②以降がいつ出るかはわからない。もしもこのまま永遠に出なかったら笑ってほしい。

記念すべき①で扱うテーマは「エベレスト」だ。(またはチョモランマ<チベット語>、またはサガルマータ<ネパール語>)言わずとも知れた世界最高峰である。

8848mという高さを誇り、入山料だけで100万円を超えるという世界最高峰エベレスト。今世はきっと登れないだろうが(体力的にも金銭的にも)、エベレストを扱った映画をみて最高峰に思いを馳せ、ロマンを味わうことくらいは許されるだろう、ということでこのテーマにする。

全部で5作紹介する。順位はつけない。けど、文章的に私の好みとかは一瞬でばれそう。順位とかは、観た人が個々人の好みで判断するといいと思う。みたらぜひ、エベレストについてともに語り合おう。

※スラッシュ右側は原題

「エベレスト3D/Everest」

エベレスト登山の「商業化」がもたらした悲劇を描く、実話にもとづく超傑作。

本作は1996年にエベレストで実際に起こった大量遭難事故をベースに制作された映画で、登場する俳優たちは皆実在の人物を演じている。

冒頭からラストまで「圧巻」「大迫力」という表現がふさわしい映像が流れ観る者を魅了し、登ってもいないけど気持ちだけはエベレストの頂へと誘ってくれる、まさに誰も彼もが求めていたエベレスト映画といっても過言ではないだろう。

エベレスト自体の映像は言うまでもないが、エベレストへ辿り着くまでのネパールの街並みの映像なんかも素晴らしい。まるでネパール旅行へ行ったような気分になれる。流行りのウイルスのせいで旅もままならないこのご時世、実に得難い貴重な気分である。

ここまで書くと非の打ち所がない必見の映画のように思えるが、鑑賞するにあたって1つだけ注意しておきたい点がある。それは、もう既に薄々勘づいている方もいるかもしれないが実はこの映画、人が大量に死ぬ

大遭難事故をベースにしているためしかたのないことではあるが、少しも暗い気分になりたくない日の鑑賞はあまりおすすめしない。そんな日は黙って「ヘアスプレー」もしくは「ラッシュアワー」あたりをみることをおすすめする。本作ではメインの登場人物のほとんどがエベレストで散るので、そのくらいのダメージは受けてたつぞという覚悟ができている日に鑑賞した方がいいだろう。

鑑賞後はいろいろと考えることが多い。そもそもなぜこんなに悲しい出来事がおこってしまったのか。本来は熟練の登山家にしか許されなかった世界最高峰に挑むという行為が商業化され、誰でもお金さえ払えば素晴らしいガイドをつけて頂上の景色を自らの目で見られるようになったというのは、果たしてよいことなのか、それともよくないことなのか。鑑賞後の余韻、思考まで楽しみたい作品である。

私はこの映画をみた後すっかりエベレストに取り憑かれてWikipediaとかで「エベレスト」の項目や「1996年のエベレスト大量遭難」とかの項目を読み漁り、しばらく友人にも兄弟にも恋人にもそしてSNSにもエベレストのことばかり語った。

家族と蕎麦屋に蕎麦を食べに行った時でさえも、たまたまテーブルに置いてあった「ヒマラヤ岩塩」をみて、家族にエベレストとその商業登山の闇について熱く語った。私の熱弁の後で父は、「1996年かあ。君の妹が生まれた年だね。」とだけ言って、母はただヒマラヤ岩塩をかけて天ぷらそばを食べていた。彼らは少しでもエベレストに取り憑かれた私の話を聞いていたのだろうか。そういえば母は「入山料が100万円というが、100万円支払うのではなく100万円を貰えるのだとしても、絶対に行きたくない」と言っていた気がする。いまのところ、同感である。100万円ではとても挑めない。5億円くらいもらえるのであれば考える。

書くという行為が久しぶりすぎてどうでもいい話をしてしまった。とにかく言いたかったのは、この映画はエベレストにハマりそして思いを馳せるのにはもってこいの素晴らしい作品なので、もしも機会があればぜひみてみてほしいという一点に尽きる。というわけで、本作に関しては以上である。トレーラーも素晴らしいので見てほしい。


「神々の山嶺/le sommet des dieux」

孤高の日本人クライマーの軌跡と、エベレスト初登頂の謎を絡めた究極の冒険ミステリー。

エベレストの初登頂が達成されたのは1953年の5月29日、ニュージーランドの登山家エドモンド・ヒラリー卿とシェルパ族※のテンジン・ノルゲイ氏によってである。しかし、彼ら以前にも挑戦者はいた。

(※テンジン・ノルゲイ氏の出自には諸説あり)

1924年にエベレストに挑戦し、そこで帰らぬ人となってしまったイギリスの伝説的な登山家ジョージ・マロリー氏は、エベレストに挑む前に「なぜエベレストに登るのか」と聞かれ「Because it's there. (そこにあるから)」と答えたという。

このマロリーの言葉だが、なぜか「そこに山があるから」という日本語訳が有名になり、登山の動機を問われた際の回答かのように扱われている。しかしもうお気づきの通り「そこに山があるから」というのは誤訳だ。どの山でもいいわけではない。必ず「エベレスト」でなければだめなのだ。マロリーの「Because it's there. 」は、「そこにエベレストがあるから」と訳すべき言葉なのである。

誤訳に対する憤りが高まって無駄に長い前置きを書いてしまったが、もはや収束がつかない。なんとか本筋に戻して映画の話をするので、申し訳ないがこのままもうすこし付き合ってほしい。

エベレストで消息を絶ち、悲願の登頂を遂げることなくして亡くなってしまったマロリーだが、もしかしたら実はエベレスト登頂を果たしていたのかもしれない。命を落としたのは登りきった後で、マロリーは本当は登頂に成功していて、最高峰の山嶺(いただき)からの景色をその目で見ていたのかもしれない・・・。

本作は、現実世界にも存在するミステリー「マロリーのエベレスト初登頂をめぐる謎」をひとつの主軸として繰り広げられる架空の登場人物たちの物語で、なんとも不思議な形式で展開する心惹かれる作品である。

マロリーはエベレストに「カメラ」を持っていったという。ではそのカメラが見つかれば、エベレストの山頂の写真が残っているかどうかで謎が解けるのではないか。

主人公の深町誠は雑誌カメラマンを生業としていて、仕事で訪れた先のネパールのカトマンズで偶然マロリーの遺品かもしれない「カメラ」を目にする。そのカメラを持っていたのは何年も前に消息不明になっていた孤高の登山家、羽生丈二。深町はマロリーの謎を解くべく、羽生に接近しようとするが…。

実はこの映画は日本の小説家、夢枕獏の小説「神々の山嶺」を谷口ジローが漫画化した同題の漫画作品をフランスでアニメーション映画化したものである。したがって登場人物の描写もエベレストの風景もすべて絵で楽しむ作品なのだが、これがまた、実写に負けないほどの迫力と趣をもっている。

前人未踏の「冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂」に挑もうとする孤高のクライマー羽生。そんな羽生に魅了され、彼の挑戦を見届けて写真に残すために同行する深町。羽生の登頂は成功するのか、そしてマロリーのカメラの謎は解けるのか。

たった94分の映画なので、原作の小説やマンガと比べるとどうしてもストーリーが圧縮されてしまうという弱点はあるものの、映画には映画ならではのよさがあるように思う。

人はなぜ山(エベレスト)に登るのか。この問に対する納得のいく答えが見つかるかはわからないが、みてみれば何かインスピレーションを得られるかもしれない。あるいは私のように(登らないくせに)山に取り憑かれるだけかもしれない。

ちなみに阿部寛が主演をつとめる「エヴェレスト 神々の山嶺」も同じ夢枕獏の小説をベースにした映画である。阿部氏の演じる孤高の天才クライマー羽生丈二がなかなかの迫力なので、こちらもよかったらぜひ。


「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁/冰峰暴」

機密文書をめぐる陰謀を阻止すべく戦う救助隊の勇姿を描く、愛すべきエベレスト・アクション映画。

そう。これはエベレストという壮大な舞台で繰り広げられる、陰謀を企てる悪者たちと正義のヒーローらが戦う、スペクタルエンターテインメント・アクションだ。

ああっ、待って待って。どうかここで読むのをやめないでほしい。

いままで山に魅了された登山家たちの挑戦や人生を描いたシリアスな作品が2つ続いたから、そろそろポップコーンとジュースを片手に、皆でわいわいとつっこみながら鑑賞できるエベレスト映画がほしい頃ではないだろうか。

本作のいいところはなんといっても日中合作ということで豪華な製作陣が関わっているだけあって、作品全体としてかなり壮大なスケールに仕上がっているという点だ。ヘリコプターを使ったアクションが何回も出てくるのも非常にスリリングだし、ストーリー的にも「国際平和の鍵をにぎる機密文書」とかいう、エベレスト登山には1ミリも関係なさそうなやたら規模のでかい概念のものが登場してきて、他のエベレスト映画にはないユニークさがあっていい。

ユニークといえば、これはそもそもエベレストの頂上を目指す登山家たちのストーリーではなく、ヒマラヤ地帯で救助活動を行う救助隊の物語である。そして物語の中心となるヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」を率いる「ヒマラヤの鬼」という異名をもつ一流クライマーのジアン隊長を演じているのは、我らが役所広司だ。

ある日チームウィングスに、エベレスト南部の通称「デスゾーン」とよばれる場所に墜落した飛行機に積まれていた機密文書を探してほしいという依頼が舞い込む。チームウィングスは人命救助を主な仕事としているのと、デスゾーンでのミッションは危険すぎるため、元「ヒマラヤの鬼」ことジアン隊長は渋るが、チームはちょうど資金繰りに悩んでいたため、高額の報酬金目当てに依頼を受けることになる。

これが物語の発端なわけだが、この後いろいろなことが発覚し、エベレストのデスゾーンを舞台にした機密文書をめぐるドタバタ劇場が繰り広げられる。最初から最後まで、とにかくつっこみどころが多い映画である。

個人的には、まず物語の設定的なところにつっこみたい。

「ヒマラヤの周辺国家が地域の平和のために国際会議を開催することになったが、その会議が行われる前になんと地域の平和に関わる重大機密文書を積んだ飛行機がエベレストの頂上付近に落下してしまった!」という設定がもうおもしろい。

なぜ飛行機はそんなところを飛んでいたのか。仮に積んでいたのが会議で必要な文書とかだったとしても、会議が行われるのはカトマンズだと作中でいっていたのでおかしい。あとアクションに関しても1点だけつっこみたい。登山の大事な用具であるピッケルを武器にするな。たしかに武器として使いやすそうな見た目だけど。

まあこれくらいにしておこう。いいアクション映画なのでアクションシーンを楽しんでほしい。このヘリを使った救助シーンなんてとてもいい。


「クライマーズ/攀登者」

最高峰の跨るもう1つの国中国が送る、北陵からのチョモランマ登頂の物語を描く超大作。

4作目、少しシリアスめの路線に戻る。本作も史実を下じきにした映画である。

1960年、中国の登山隊が世界初の北陵ルート(チベット側)からのチョモランマ登頂に成功する。しかし証拠となる映像記録がなかったため、この登頂は国際的に認められずに世界から黙殺される。中国は雪辱を果たすために15年後となる1975年に2度目の登頂に挑む登山隊を結成し、再び北陵ルートに挑む。

以上が映画のベースとなっている実話である。

ところで、当初は西側諸国から長らく疑いの目を向けられていたこ1960年の登頂功績だが、いろいろと調べてみたら現在ではほぼ認定されているらしい。また、証拠写真がない理由についても調べてみたが「夜間に登頂したため」というのが理由のようである。

ただし映画の中では、隊員のうちのひとりが雪崩による滑落の危機に遭い、証拠写真を撮影するためのカメラを持っていた別の隊員が仲間の命を優先して仕方なくカメラを手放す、という描写が登場する。カメラ、というか「登頂の証拠」と引き換えに命を救ってもらった隊員はその後も自分を責め、そして助けてくれた仲間も責め続け自暴自棄になるという描写も出てくる。実際にこんなことがあったかはわからないし、おそらくなかったとは思うが、ストーリーの味付けとしてはなかなかいいのかなと個人的に思う。私はドラマ性のある映画や物語や人生が好きなので。

もしも同じような状況に遭遇したら、自分もやっぱりカメラを捨てるかなと思う。というかこの状況で仲間よりもカメラをとれる人なんているのかな。

全体的な感想としては、なんというか、何かと想像をかきたてられる作品だと思う。自分だったらどうするかなとかもそうだし、あとたとえば1960年当時に北陵ルートの登頂を成功させたのに世界から認められなかった隊の気持ちを思うと、きっとものすごく悔しかっただろうなと感じる。

個人的には好きな作品だが、この映画、始終プロパガンダっぽさがあるせいか特に日本語レビューを読むとけっこう酷評が目立つ。

たしかに言われてみればスーパーアクションみたいなシーンも多いし、それ以外にもたとえば、まるで兵役のような登山訓練の様子、山の中でオーバーめの効果音とともに一斉に点灯されるライト、整然と並んだベースキャンプのテント、ものすごい大部隊での集団登山。とまあなんというか、どのシーンをとっても、いい意味でも悪い意味でも中国っぽいなとは思う。

予告編にも出てくる、「我们自己的山・・・登上去・・・」(俺たちの山に・・・登頂するんだ)などのセリフにも中国らしさというか国策映画らしさを感じる。

登場人物の名前も実在の人物名から改変されているのは、もしかしたらいろいろと脚色を加えたかったからなのかなという想像も働いてしまう。とにかく、実話ベースの映画ではあるものの決してドキュメンタリー調の映画ではないということだけ言っておく。

このリストの中だと最初に紹介した「エベレスト3D」が強いていうならドキュメンタリーの雰囲気に一番近いかなと思う。それから今回のリストにはいれていないが、エドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイ両氏による初登頂を描く「ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂」という非常に素晴らしい映画もある。これこそ本当にドキュメンタリーみたいで淡々としていていいかもしれない。

そういえば映画「クライマーズ」をみるまでは単独で山に登った人たちは誰に登頂したことを証明してもらうのだろうか、という素朴な疑問を抱えていた。しかし今回、単独で登ろうが集団で登ろうが、登頂記録として公式な認定を受けるためには山頂の写真等が必要ということがわかってすっきりした。

プロパガンダっぽい山岳映画ってどんなのだろうと気になっている方はぜひこの予告編を。たぶん私の言っていたことが少しだけ伝わると思う。

まあ、普通にいい予告編だとは思う。山岳映画に欲しいなと思う要素は全部盛り込まれている感じ。さすが押さえるべきところをしっかり押さえてきていると思う。誰目線だよって感じのコメントで申し訳ない。

あとこれは余談だが、私のお気に入りの俳優の一人であるジャッキー・チェンが友情出演しているのは個人的にポイントが高い。

そしてもうひとつかなり余談だが、NHKのサイトの放送用語解説によると、放送では「エベレスト」「チョモランマ」は適宜使い分けられているらしい。

登山関係のニュースや番組では、中国側からのルートで登った場合は「チョモランマ」を使っています。表記は分かりやすくするため、「エベレスト(チョモランマ)」「チョモランマ(エベレスト)」などとすることもあります。

出典:NHK放送文化研究所
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/086.html#pageTop

だそうである。なるほど大変勉強になる。

「ヒマラヤ 地上8000メートルの絆/히말라야」

頂を目指すためではなく山に眠る仲間を連れて帰るために登る、名誉も栄光もない登山。涙と感動の実話。

最後は韓国の映画を紹介する。これも実話をもとにした作品である。描かれているのは実在の登山家オム・ホンギル氏と彼の仲間たちの物語だ。オム・ホンギル氏という人物はなんと、ヒマラヤ8000m14座を世界で9番目に制覇した韓国の凄腕登山家で、標高上位16峰を初めて制覇した人物でもある。

この映画は彼の登山の物語だが、先ほど紹介したような国威発揚のために挑む登山とはうってかわって、まさかの仲間の遺体の回収のためにエベレストに登る物語だ。険しい山を登ったという記録はおろか、その事実さえも意味をなさない、山で亡くなった仲間たちと亡くなった者を待つ家族のためだけに登る話である。

エベレストには100体以上もの遺体が残されているというのは有名な話である。8000mを超えるデスゾーンの過酷な環境で遭難して命を落としてしまう登山者は後を絶たないが、そこで亡くなってしまうと、遺体を回収して山からおろすということが困難を極めるからだ。たしかに、8000mなんて登るだけでもきっとものすごく大変なのに、遺体を持って山を降りるなんて考えただけでも至難の業である。とても常人のなせるわざではないだろう。おまけに山頂付近は空気が薄く、ヘリコプターも使えない。

また、回収が難しいという話とは別に、山で死亡した登山者たちは山の一部としてそのまま山に残しておくべきだ、という意見もあるそうだ。

このようにさまざまな理由から、エベレストの標高の高いところで亡くなった登山者の遺体は通常回収されない。しかし遺体の収容を強く望む遺族もいる。回収には高い費用がかかるが、その理由はもちろん前述の通り困難で危険な仕事だからだ。

エベレストに眠る遭難遺体には以上のような背景があるわけだが、それにもかかわらずオム・ホンギル氏は2005年、エベレスト北面ルートで遭難した彼の大切な後輩で相棒でもあるパク・ムテク氏の遺体を回収するために「ヒューマン遠征隊」を結成し、なんと決死の捜索を77日間続ける。本作ヒマラヤ 地上8000メートルの絆」はオム・ホンギル氏はじめ、ヒューマン遠征隊の過酷な77日間を描いた壮絶な映画なのである。

オム・ホンギル氏のことはこの映画を見るまで恥ずかしながら存じ上げていなかったが、韓国国内でよく名の知れた登山家なのではなかろうかと想像する。というのもこの映画、韓国で堂々の観客数800万人を動員したメガヒット作品で、同日上映開始作品の中には「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」などそうそうたるタイトルもあったにもかかわらず、それらを抑えて初週の興行成績トップに輝いたらしい。初速がすごい。ものすごい宣伝を打ったのか、あるいはオム・ホンギル氏と彼のエピソードが元々有名だったのか、もしくはその両方なのだろう。

輝かしい業績や評判に負けていない映画だと思う。中にはオーバーな演出もあるが、山に眠る友のために登るエベレストなのだから、淡々とやるよりはこれくらいした方が情熱や登場人物たちの内面が伝わっていいと思う。オーバーな演出が気になる人もいるかもしれないが、「クライマーズ」や「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」をみてきた私はもう向かうところ敵なしである。これくらいのオーバーなど気にもならない。

オーバーな演出は主に映画の後半に多く出てくる。ヒューマン遠征隊による捜索がはじまってからクライマックスまで、手に汗を握る描写や感動の描写が続く。ただ映画全体としては、後半のドラマチックな描写は前半のコメディータッチな進行でいくらか中和されているように感じる。前半はホンギル氏とムテク氏が出会い良きパートナーとなってテンポ良く山を登る、ただの愉快なバディーものとして楽しめるのでぜひ。

めっちゃ短いあとがき
(セルフプレッシャー次回予告)

読んでくれて本当にありがとう。次回はアニマルパニックあたりのテーマを扱いたい。







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