見出し画像

遺族年金のしくみと手続~詳細版|#9 死亡後に障害厚生年金の受給権を行使して遺族厚生年金の受給要件を満たす

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は、会社員の夫が肺がんで亡くなり、夫の死亡後に障害厚生年金の受給権を行使して、妻が遺族厚生年金を請求する事例です。夫は会社勤務中に肺がんが見つかり、体調が悪化して退職し、その後に亡くなりました。年金加入期間が25年に満たないので、一見すると遺族厚生年金を請求できないように思われます。しかし、本事例は「障害等級2級以上に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が死亡した場合」という短期要件を満たすとして、遺族厚生年金を請求しました。同時に、障害厚生年金も未支給分を請求しました。

【事例概要】
請求者:A子さん(昭和55年5月10日生まれ:41歳 専業主婦)
・令和3年12月20日、年金事務所に来所
死亡者:B夫さん(昭和54年7月20日生まれ:42歳 会社員)
・平成10年4月、入社
・平成27年4月、会社の健康診断で肺がんが見つかる
・ 同年 10月、体調不良のため会社を退職
・令和3年11月、肺がんが原因で死亡

夫の年金加入期間は25年に満たない

夫が死亡したとのことで、A子さんが遺族年金の相談にみえました。A子さんの話では、夫婦には子どもがなく、B夫さんは高校卒業後、厚生年金被保険者として会社に勤務し、平成27年4月に会社の健康診断で肺がんが見つかりました。治療をしながら仕事を続けていましたが、体調不良が続き、同年10月に退職して、入退院を繰り返していました。6年が経過した令和3年11月に肺がんが原因で死亡しました。

B夫さんの年金加入歴を確認すると、厚生年金保険の被保険者期間は17年6カ月です。退職後は国民年金被保険者となり、保険料を4年間納付後、最近2年ほどは未納となっていました。この結果、B夫さんの被保険者期間は、厚生年金保険が17年6カ月、国民年金保険料納付期間が4年で、合計21年6カ月です。長期要件の遺族厚生年金の受給資格期間の25年を満たしません。

なお、厚生年金保険法第59条によれば、第1項第4号(長期要件)に該当しない場合は、次の短期要件のいずれかに該当し、かつ、保険料納付要件を満たせば、遺族厚生年金が支給されることとなっています。

【短期要件】厚生年金保険法第59条第1項
第1号(被保険者が、死亡したとき)
第2号(被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して5年を経過する日前に死亡したとき)
第3号(障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき)

そこで、B夫さんについて受給要件を順に確認していくと、上記の第1号については、厚生年金被保険者資格喪失後の死亡なので該当しないことは明らかです。第2号は、初診日(会社に勤務中の健康診断)から6年以上経過しているので該当しません。

では、第3号はどうでしょうか? 確かに、B夫さんは死亡時点において障害厚生年金の受給権者ではなく、すでに亡くなっています。しかし、本人が死亡後であっても、障害厚生年金を請求する権利を行使することは可能です。

なお、A子さんとB夫さんは戸籍上の夫婦で、同一住所に居住していました。マイナンバーカードで確認したA子さんの年収は多少のパート収入のみで、夫婦の生計維持関係に問題はありません。

つまり、B夫さんが死亡時に障害等級2級以上に該当すると認定されれば、上記の第3号に該当し、遺族厚生年金の受給要件を満たすこととなります。そこで、A子さんにB夫さんの生前の状況を詳しく確認することにしました。

ここから先は

1,909字 / 1画像

¥ 100

社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。