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禍話リライト「なぞなぞの家」

お化け屋敷に行こうとして行けなかった。そんな話だ。


つまるところ目的地は廃墟だった。しかも心霊スポットなら、行ってもろくなことがない。そもそも私有地なら不法侵入になってしまう。よかったじゃないですか、と言った。
「うーん、私のせいで行けなかったから……まあそれでよかったって話なんだけど」
Oさん――この話をしてくれた女性――はそう苦笑する。彼女はさっぱりとしていて気風のいい、つまり姉御肌、という感じの女性だった。そんな彼女の身に何が起こったのだろう、と思いながら、先を促した。

その家にどんな謂れがあったのかはよく覚えていない、という。
けれど、その周辺のヤンチャな若者たちの間では有名な場所だった。もう窓も全部破れてスカスカになってしまった二階建ての家で、肝試しのグループも怖くなかったな、と言って落書きをして帰る、そんな場所だったそうだ。後々調べてみると、そこに行く途中で事故にあったとかいう話もちらほら出て来たから、まんざら何もないというわけでもなかったらしい。
謂れ、というのも地元の人間に言わせれば根も葉もないことらしかった。精神を病んで家族を殺して自殺した女の子が出てくる……とかなんとか、他の地域の怖い話として聞いたことがあるような内容だった覚えがある。


そこに行こう、と誘われたのだそうだ。
もちろん不法侵入になるのでOさんは断った。けれど、家ももうボロボロだし外から見て怖がって帰る分にはいいんじゃないっすか、と言われて、それなら……と同行したのだという。
けれど、それが随分と遠い場所だった。
しかも途中で道に迷ったりして余計に時間を取ることになり、仕事の疲れからかOさんは寝入ってしまったのだという。


そこで夢を見た。
夢の中で、自分は森の中の一軒家に遊びに行っている。ドアを開けると、
『いらっしゃーい!』
と出迎えられた。お父さん、お母さん、娘さんらしい女の子の三人家族だ。自分はどうやら女の子の友達ということになっているらしい。導かれるままに食卓に着くと、豪華な料理が並べられたという。お金持ちの家は違うな、というようなことを思った。
『なぞなぞー!』
突然女の子がそう言った。
(あ、そっか。いつもなぞなぞしてたんだっけ)
夢の中でOさんはそう思った。
(そっかそっか、なぞなぞに答えられたらもっと美味しいものがもらえるルールの家だった……)
そんなふうに受け入れていたのだという。
そして出されたなぞなぞ、というのが、かなり長い問題だった。
『……が、……で、……だけど、……なのね。それで……して、……して、……なってしまいました。それはなぜでしょう!』
そう締めくくられたが、内容がずいぶんと込み入ったもので整理がつかない。話があちらこちらした上に登場人物がやたら多い。
正直に分からない、と言うと、家族はヒントを出してくれた。それでもわからなかった。
いつもならわからない、で済ませることだという気がする。けれど、それが妙にくやしくてたまらなかった。何か腑に落ちる答えがあるはずだ、そう思った。
家族はにこにこしながらOさんを見てくる。全員答えを知っているのだろう、という顔だった。ためしに何か答えを言ってみたが、ブッブー!と言われてしまう。
もう何も貰えなくてもいい、と思った。とにかく答えが知りたい。そう素直に伝える。すると、笑顔の女の子がこう言った。


『答えはね、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、だよ!』


……ものすごく怖い答えだ、と思った。確かにしっくりはくる。けれどとてつもなく怖い答えのなぞなぞだ、と思った。


と、そこでがたん、と体が揺れて目が覚めた。ああやばい寝てた、夢か、と思った時、運転手が、
「もうすぐ着きますよ」
と告げた。
夢のことはすぐに忘れてしまったが、何かなぞなぞを出されて、ものすごく怖い答えが返ってきた、ということだけは胸に残っていたのだという。
そのうち、車は話題の家に到着した。
「あれ、先客がいますよ」
おや、と仲間が示したほうへ視線を向ける。すると、見るからにチャラチャラした若いグループが「なんにも怖くなかったなあ~」などと言いながらやってくるところだった。このまま鉢合わせると面倒なことになるかもしれない。このまま車の中にいてやりすごしたほうがいいだろう、ということになった。
あちらのほうでもOさんのグループに気づいたらしく、チーっす!と軽い挨拶が飛んでくる。どんどんこちらに歩いてくる。


……何か変だ、と思った。
今近付いてきているあのグループは四人組なのか五人組なのか、それがわからないから変だ、と思ったのだ。
おかしい。何かがおかしい。彼らはもうかなり近づいてきている。おかしい。何かが――何がおかしいのか、わかった。


一人、首だけしかない人間がいる。


心霊写真でそんな「首が一つ多い」画像は見たことがある。けれどそれは静止画だから気付けるもので、こんなふうに見せかけることができるものだろうか? 首だけの精巧なぬいぐるみやマネキンか何かで?
違う。首だけの人間がちゃんと会話している。口元がちゃんと相槌を打つように動いている。夜闇の中、ひとかたまりになって歩いているからすぐには気づけないが、あれは――あれは女だ。


その瞬間だった。
ふっ、となぞなぞの答えを思い出した。


『答えはね、死人が一人紛れ込んでいるから多いように見えた、だよ!』


……今の状況と一致している!
例のグループはドアの向こう、ちょうど自分の横を通り過ぎていこうとしている。直視できずに下を向いた。
「怖くなかったなあ」
『ほんとぉ?』
「怖くなかったって」
『そうかなぁー?』
相槌が首だけの女だ、とわかる。怖い。とにかく早く通り過ぎて欲しい。だから下を向いていた。


今まさにグループが通り過ぎていくその時、ザッ、と窓に何かが貼りついた。
夢で見た女の子だった。


『おしえてあげなくていいの?』


女の子がそう言った。


……気が付くと、走る車の中だった。
車窓を流れる風景が、自分たちの家の方向へと来た道を帰っていることを知らせてくれる。
え?と思うか思わないかで、
「ああよかった元に戻ったぁ!」
という同行者たちの安堵の声が聞こえた。我に返ってみると顔じゅうが涎や涙でべちゃべちゃになっている。随分激しく泣いていたらしい。
何これ、と言うと全員がいやいやいや、と首を振る。
「もう行きませんよOさんあんなことになっちゃって!」
「すごかったんですから!」
確かに涎を垂らして泣きわめいて暴れたような感覚はある。私は何したの、と訊くと、メンバーが教えてくれた。


「いやOさん、いきなり後部座席でウーッ!て叫んで痙攣しだすから、どうしたんですか!って言ったら、急に駄々っ子みたいに『そんな救いようのない答えは嫌だ! そんな救いようのない答えは嫌だぁ!』って言い出すから、『答えって何すか!?』ってったら『結末と同じようなことだろうがぁ!!』って……泣き叫んで『そんな救いようのない答えは嫌だぁ!』って繰り返すからもう帰ろうって引き返してるんすよオレら……いやあよかったよかった元に戻って……」


いつもの頼れるOさんに戻って本当によかった、と彼らは繰り返す。Oさんもただただ怖かった。
だから結局その廃墟には行っていない、という。


「ただ、私たちの前に帰ってきてたグループ、あれはただじゃ済んでないですよ……」


Oさんはそう締めくくった。


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出典

禍ちゃんねる 怒りのワンオペスペシャル 2:20:23頃~ 
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/529558246


※著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」様にて過去配信されたエピソードを、読み物として再構成させていただいたものです。


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