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禍話リライト「河童の鳴き声の話」

【注意】当リライトは怖い話ツイキャス「禍話」様宛に筆者が投稿し、「元祖!禍話」第十三夜にてご紹介いただいたメッセージを一部編集したものになります。


こんばんは。
いつも楽しく禍話を拝聴させていただいております。

(略)

「元祖!禍話」第十二夜にてお話しされていた「葉に乗った思い出」(※下記参照)、非常に興味深く聞かせていただきました。
というのも、最近施設に入ったうちの祖母にも同様の症状がありまして……うちの祖母も、「自分が体験したのではないことを、自分が体験したと思い込む」ことが多くありました。
他人が取った電話を自分が取ったと言う、私しか行っていない旅行に自分も行ったと言う、そんなことに始まり、果てには、南極に行ってタロとジロを置いてきて可哀想だった、と言い出し、ついには宇宙もののドキュメンタリーを見ながら「行ったことがある」と言うまでになりました。最初こそ閉口していましたが、こうなってしまってはもうすべらないネタとして使わせてもらっています。

それはさて置き……この「自分が体験したのではないことを、自分が体験したと思い込む」という話で、ふと思い至ることがあったのでDMを差し上げました。とは言っても血も凍る大怖話ではないので恐縮ですが。

大正生まれの私の祖父(上記祖母の夫)は、亡くなってからもう十年以上経ちます。いわゆる「昔の男」的な所がある人でしたが、私のことは非常にかわいがってくれていました。
祖父の生前から私は幽霊や妖怪の出てくる怖い話が好きでしたが、それを知った祖父はこんなことを話してくれました。

「河童ち言うんはな、〇〇ち鳴くんじゃ」

……実際に祖父が聞いたのかはわかりません。ただ祖父は、民話や伝承などといった類の話を本を読んだりしてまで摂取しようという人ではなかったので、かなり実感を持ってそういう話をしたのだろうという気がします。祖父自身の体験ではなくとも、祖父は日常の中でそういう話をする時代を生きたのだろうな、と感じられるというか……満州でオオカミの声を聞いた、とかいう話と同列に語られたエピソードだったので、もしかすると実際に河童の声を聞いたこともあったのかもしれませんが。
それから祖父が亡くなって時が経ち、禍話と出会ったころでしょうか。ちょうど「怪談手帖」がらみで河童の話を聞いたころと思うのですが、関連して祖父の「河童の声」の話を思い出しました。
……が、「〇〇ち鳴くんじゃ」の部分、どんな鳴き声で鳴くのか、の部分をすっかり忘れてしまっていたことに気が付いたのです。あれ、何だったっけかな、と思いながらも、その時はその疑問を疑問のままにして、すっかり忘れてしまっていました。

それが何だったのか思い出したのは、小野不由美先生の『営繕かるかや怪異譚』(角川文庫)を読んでいた時でした。
詳細は省きますが、この小説の中にも河童に関する「屋根裏に」という一編があります。その中に、河童の鳴き声を次のように表現している部分がありました。

「ヒュッって鳴くのよ。(略)下手な口笛みたいに。ヒュッ、ヒュッって」

小野不由美『営繕かるかや怪異譚』より「屋根裏に」

……読んだ瞬間、祖父のあの話の欠落部分が蘇って、ゾッとしたような奇妙な興奮が走ったのを覚えています。
祖父は、

「河童ち言うんはな、ヒュルヒュル、ヒュルヒュルち鳴くんじゃ」

と話していたのです。
「下手な口笛みたい」な声。小説の別のところでは「短い口笛のようでもあり、鳥の声のようでもあった」や「音の掠れた口笛」と表現される声……祖父の真似した、甲高く平坦で、空気の勝った「ヒュルヒュル」という音と、かなり近いのではないか、と思ったのです。

私がゾッとしたような気持になったのにはもう一つ理由があります。
祖父の話の欠落部分が蘇るのとほぼ同時に、

「私もその声を聞いたことがある」

という強烈な実感に襲われたからでした。
どこで聞いた、という記憶はないのです。けれど、確かに私はその声を聞いたことがある、と、思い出したのです。

……これは、「葉に乗った思い出」の話のように、「自分が体験したのではないことを、自分が体験したと思い込む」現象の一例なのでしょうか。想像力の働きか何かで、祖父の話を思い出した拍子に自分の体験として構成し直してしまったのでしょうか。
私の郷里は川や農業用水などの水辺が多い土地です。そういった場所で自然現象的に発生する音が河童に関連付けられているのかもしれませんし、祖父も私もそんな音を聞いていたのかもしれません。
しかし、あの時蘇った私の記憶の中のその声……コロコロ、チョロチョロ、というような水音の響きに近い揺らぎのある、けれどかなり呼気を含んで高く、静かに、とぎれとぎれに聞こえてくるその音を、今でもかなりリアルに思い出せるのですが……これは一体何なのでしょうか?
そして、なぜ私は祖父の話の鳴き声の部分と自分が聞いた声の両方を忘れてしまっていたのでしょうか?

もしあの「河童の声」が思い込みの作り出した記憶なのだとしたら、ものすごくリアルな記憶が捏造されてしまうものなんだな……と思った次第です。

以上になります。

(略)

長くなってしまいました。
この夏も禍話には色んなことが起きる!ということでとてもワクワクしております。
かぁなっきさんをはじめ禍話ファミリーの皆様の益々のご発展をお祈り申し上げて結びとさせていただきます。
それでは。


※「葉に乗った思い出」……お年寄りから聞き取り調査をしている方が、特定の世代から「大きな蓮の葉に乗ったことがある」というエピソードを聞くことがあった。が、そんな蓮は日本には自生していない。ある時期に海外の子供がオオオニバスの葉に乗るCMが放映されていたことがあり、それを自分の記憶と誤認してしまっているのではないか、という話。(元祖!禍話 第十二夜 31:10頃~)https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/738709258

参考

小野不由美『営繕かるかや怪異譚』(角川文庫/平成30年6月25日初版)

出典

元祖!禍話 第十三夜 1:11:17頃~ 

※猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて過去配信されたエピソードを、読み物として再構成させていただいたものです。

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