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下心が功を奏した日
今日は夏日らしく、私はポロシャツに短パンという出立ちで外に出た。今日は土曜日だが、大学の授業があるので学校に向かっていた。道中に見かける学生たちは、まだ長袖を羽織っていたりパンツスタイルだったりと自分だけが、さながら夏を待ち侘びる小学生みたいで若干気恥ずかしくなった。
日傘を傾けてふと前を見ると、かっこいい人が角を曲がるところだった。後ろ姿しかわからないけれど、少し背の高い猫背気味の青年。天パとも思える髪の毛と、紺色長袖にチノパン、ヘッドフォンといったイカしたスタイルである。
最高気温30度の今日にその格好は流石に暑いんじゃないか、とツッコミながら、方向は同じなので後ろをついていった。
心惹かれちゃったし、話しかけることができたらなあ〜なんていう妄想をして、でもそんな勇気はないしナンパのようなこともしたことがないから、とほぼ諦めた気持ちでとぼとぼ歩いていた。
すると、前方を歩いていた青年が不自然な格好で立ち止まった。
顔を手で覆っている。見るからに何かあったに違いない。
足早に駆け寄ると、しゃがみこんで手から血を流して困惑していた。
わ、大丈夫ですか!
よく見ると、大量の鼻血を出している。そういえば、どっかでもらったティッシュがあったはず、いつも以上の動きの速さでティッシュを差し出した。
ああ、ありがとうございまず、、。止まらない血と颯爽と現れた救世主に当惑しつつ、心底申し訳なさそうな表情を見せた。あら、かっこいい。こんな時にそんなこと考えるなよと思ったが、心は正直である。
最近よく鼻血を出すんです、、ティッシュなくて、、ありがとうございます
暑いですもんね、ティッシュ全部使ってください
下心より心配が勝ち、「ちょっと、上向いた方がいいかも」とアドバイスしつつ、数分そばにいた。
正直、私は鼻血を出したことがないからどうしていいのかわからなかったが、なんとなく上向く?みたいな曖昧な知識で言ってしまったが、まあいいだろう。
授業に大幅に遅れるわけにはいかないので、しばらく安静にしてくださいね、とだけ言い残しその場を去った。水でも買ってあげたらよかったのかなと思ったけれど、鼻血を出した後に水を飲むのかわからなくて結局何もしなかった。
家に帰ってから、どうしても鼻血の対処法が果たしてあっていたのか気になって調べると、鼻血が出たら上を向くというのは間違いで、座って前傾姿勢で血を吐き出すというのが正しかったらしい。
彼は合っていた。そりゃあ、最近よく鼻血が出るのなら私より対処できるだろうに余計なことを言ってしまった、と今更ながら恥ずかしくなった。ただ、そのおかげで、正しい知識を得られたから良しとしよう。
結局、気になって見ていた青年を思わぬ形で話しかけて、助けられたけど、青年との接点は何もなく終わった。彼の鼻血の記憶に登場した人ぐらいの印象だろう。
「魚心あれば水心あり」この場合、私の魚心は下心だったのが良くなかったのかも知れない。
おしまい。
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