【第6回】 公園


 深夜1時の雲がかかる空の下、公園に2人の子どもが遊んでいた。熱帯夜、昼間の熱気が残ったままでじとじとと汗ばむ。街灯がぼんやりと光る薄暗い中、4、5歳ほどの子どもは、砂場で何かを作っていた。中央にはすでに大きな山ができている。1人は小さな黄色いバケツに砂を詰めては、固めて、その山に積み上げる。もう1人は、山にトンネルを作ろうとせっせとオレンジ色のスコップで掘り出している。小さな4つの手でぺたぺたと触られて、山はだんだんとお城の形になっていった。2人は会話をしないが、時折見つめあう。会議をしているようだった。しばらく手を止めて、互いの瞳を覗き込む。そして3回まばたきをして、再びお城を作る。水をくんで砂を扱いやすくし、トンネルによって崩れないように何度も補強する。いつも砂場の近くで休んでいる野良猫たちは、2人の小さな人間を遠くから見守っていた。猫がにゃんと一鳴きしても子どもたちは猫を見向きもせずに自分の作業に打ち込んでいる。子ども2人と野良猫以外は誰もおらず、雲が風に流されていくだけ。近くのマンションももう明かりがついている部屋はない。寝静まった町、この公園だけが目を醒ましている。子どもたちが来ている水色のスモックはすっかり砂で汚れてしまった。膝も泥だらけで、顔から汗が流れ続けている。
 お城は絵本に出てくるような形をして、子どもの身長と同じくらいの高さがある。プリンセスが囚われる塔があり、勇者が戦いを挑む門がある。妖精が翼を休める庭園があり、殿下がパーティを開く大広間がある。近衛兵が行進するトンネルに、いつでも敵を倒せるように槍や剣を飾った。子ども2人はその一つ一つをあっという間に精巧に作り上げた。魔法のように砂を自由自在に操って、自分の目の前に小さな世界を構築する。子どもがせっせと手を動かし続けていると、静かな公園にざわざわと人々の声が聞こえてきた。それはお城の中から聞こえるのだった。2人はお城だけではなく、そこに人間までをも生み出した。子どもは絢爛華麗な舞踏会が開かれる様子を、小さな丸窓から覗き込んでいる。首を小さく縦に動かしてワルツのリズムを楽しんでいる。1人の子どもが立ち上がり、もう1人に手を差し伸べた。2人は出来上がったお城の周りでダンスを踊った。いち、に、さん、と足を動かしてオルゴールのからくり人形のようにくるくると回る。スモックの裾がひらひらと舞う。砂のお城から、美しい音楽と笑い声が響く。
 踊り明かすと、子どもはポケットからガラスの欠片を取り出した。ひとつは半透明の青色をしている。もうひとつは、赤茶色だ。割れた瓶の破片が、海を漂って角が取れたのだろう。きらきらとするそれを、塔の最上部と門にくっつけた。するとガラスは強く発光し、お城全体を白い光に包んだかと思うと、一瞬のうちに光は消えた。先ほどまでただの「砂」だったお城に色がついた。模倣されたものではない、木や鳥、人々のドレスや指先の宝石まで色鮮やかに本物となった。お城の壁は新雪のように柔らかい白色をして、いたるところに金が施されている。美しいお城が完成した。子どもはお城の完成を喜んで、手を繋ぎ抱擁をした。頬にキスをして互いを褒めあった。お城に住む人々も同様に歓声を挙げて、自分たちの世界が出来上がったことを祝福する。シャンパンを開ける音が次々と聞こえてきた。
 雲が流れる。静まり返った町の公園で、砂場だけが爛々と光っている。ずっと子どもたちの動きを見ていた1匹の茶色い野良猫が大あくびをした。その一瞬のうちに、忽然と子どもたちは消えた。砂場には大きい山だけが残っている。猫たちは不思議そうに目を丸くした。砂場に近寄って、にゃんと一鳴きしたが、誰も返事をしなかった。公園は暗闇を取り戻し、時計の針は2時を指している。



清水優輝

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