【第11回】 ぬいぐるみ

週末、ぬいぐるみを購入した。2匹。「ねこ」と「ふくろう」。


金曜日の夜、私はひどく疲れていてだらだらとツイッターを見ていた。誰かがいいねしたミッフィー情報サイトのツイートが目に留まった。10月4日から「Bruna Fair」が開催される。開催予定店舗では1000円以上お買い上げのお客様に特別なショッピングバックをプレゼント……。そんな言葉と共に画像が添付されている。目が黄色い紺色の猫とおなじみのミッフィーがプリントされた青地のショッピングバッグ、そして手のひらサイズでちょこんと座る猫とミッフィーのぬいぐるみ……。
あえて、言うまでもない。間違いない。誰が見ても明らかだ。

かわいい!!

私はそこに映し出された猫に一目惚れしてしまった。ミッフィーはもちろん好きだが、熱狂的なファンではない。こんなかわいらしい猫のキャラクターが存在していたことを初めて知った。私はすぐに開催店舗を調べ、翌日ドキドキと浅草へと向かった。

浅草には「Flower Miffy」というお店がある。 地下鉄の出口からすぐそばで、2019年6月にオープンしたばかりである。目の前を何度か通り過ぎたことがあったが、この日初めてお店へ足を踏み入れた。フラワーと言う通り、お花屋さんだ。ミッフィーをモチーフにしたブーケや花瓶、フラワーアレンジなどなど、だれかにプレゼントしたくなるような素敵なお花が揃っている。それだけではなく、ミッフィーのグッズも売っている。スマフォケースや文房具、ぬいぐるみはもちろんネックレスなどのアクセサリーもある。10月だから新しい年のカレンダーとスケジュール帳も展開されていた。

そんな中、レジの前のメインとなる棚にお目当てである猫が座っていた。私の目は猫に釘付けだった。手に取ってタグを確認したところ、この子の名前は「ねこ」だった。ねこは中くらいの大きさのものと、手のひらに収まる大きさのものがいた。最初は小さいほうを購入するつもりで来たのだが、大きい子の方がイケメンだった。値段を比べ、いろんな個体の顔を見つめ、考える。どちらにするか決められない。私は一度ねこを手放し、店内を見渡した。

足元にもぬいぐるみが置いてあった。私は驚いた。見たことのない黄色い目をした生き物(※ぬいぐるみです)がいたのだ!それはそれは衝撃的な出会いだった。思わずしゃがみこんでまじまじとそいつの様子を伺ってしまう。かわいいとも、こわいとも言い難い、なんとも言えない顔をしている。オレンジのくちばし。灰色の顔。黒い頭。足が嘘みたいに2本生えている。こいつのタグには「ふくろう」と書かれていた。ぜひ、「ミッフィー ふくろう」で画像検索していただきたい。私のこの気持ちが伝わると思う。一体なんなんだこいつは……と思いながら、どこか惹かれている心を見ない振りしてふくろうから離れた。

店内を一周した。ミッフィーのグッズはどれも可愛らしく、物欲がむらむらした。私がもっとお金を持っていたら大人買いをしていただろう。特にブローチがよかった。かわいらしさと品の良さを兼ね備えていてすごく気に入ったのだけど、入社1年目のOLには高かった。

ウィンドウショッピングに満足して、私はねこの棚に戻ってきた。ここ最近で一番悩んだかもしれない。うーん、と眉間にしわを寄せて私は大きいのと小さいのを見比べた。どれくらいそうしていただろうか。観光客の外国人が ”Oh! I love miffy!!” などと猫撫で声で言いながら店の前を通り過ぎて行く。子連れのお客さんが私を邪魔そうに見ている。私の後ろでレジに立つ店員さんもきっと私がどちらを選ぶかはらはらと見守っていたに違いない。私は大きいねこを購入することに決めた。値段よりも持ち歩きやすさよりも、顔と触り心地を選んだ。レジで会計をし、ポイントカードを作ってもらい、ツイッターで見た通りのショッピングバッグを頂いて店を出た。


☆☆☆


浅草を満喫したころには、18時が近づいていた。そろそろ帰る時間だ。私は、駅に近づくごとに胸が騒いだ。

「あのふくろうのことが忘れられない……」

なんてことでしょう!私はふくろうのことを知らぬ間に想ってしまっていたのです!!他のぬいぐるみは棚に何体かストックが置いてあったが、ふくろうだけは一匹だった。ああ、ふくろう。今頃もうだれかの手に渡ってしまっただろうか。それともあんなかわいい空間の中で異色の存在感を放つふくろうは、みんなが売れて一人取り残されているかもしれない……。そんなことを考えると居ても立っても居られず、どうせ駅のそばにあるんだからと自分の中で言い訳をしミッフィーのお花屋さんにまた立ち寄った。昼間に比べて客は少なかった。

ふくろうはさっきと同じ場所、足元のあまり目につかない場所でひっそりとしていた。感動の再開!興奮した私は掴みかかるようにふくろうを手にした。実際にボールのようなサイズとフォルムをしているので握りつぶせてしまう。まだ自分の物ではないのに、鷲掴みしてしまう。ふくろうは柔らかくて弾力があった。とても気持ちいい。これは買わないといけない、この子は私の子になるのよとふくろうの目を見つめて確信。ふくろうをレジに持っていく。興奮しすぎてポイントカードを出し忘れた。また1000円以上の購入となったので、同じショッピングバッグを手に入れた。かわいい。

こうして私は目的であったねこと、偶然出会ってしまったふくろうの2匹をおうちに連れて帰った。ねことふくろうを並べると二匹はなかよしそう。ふくろうはおしゃべりで「ホッホーホッホ―」と鳴いているけれど、ねこはクールでおひげをシャンと伸ばしている。見ているだけで幸せな気持ちになれた。うちにいるほかのぬいぐるみと挨拶をさせた。ちょっと他のぬいぐるみが妬いているが、きっと大丈夫。すぐに慣れるよ。

みんななかよく、みんなで寝ようね。


清水優輝


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