【第18回】 ひとり暮らし

 住んでいる部屋の賃貸契約を結んでから1年が経とうとしている。あっという間だった。料理も掃除も大してやったことのない私だったが、今ではすっかりひとり暮らしを楽しんでいる。
 初めから楽しくひとりで暮らせていたわけではない。
 引っ越して初めての夜のこと。まだベッドが届いておらず、床に布団を敷いて眠ろうとした。テレビがなく、WiFiもまだなかった。家でやれることと言えば、編み物、妄想、読書くらい。それで十分だと思った。本を読んで過ごした。だんだんとあくびが出てきた。ねむい。私は照明を落として目をつぶった。
 ……が、眠れなかった。頭の中でぐるぐると考えが巡る。もし窓を割られて家に強盗が入ってきたら?私はここでひとりぼっちなんだ!誰もたすけてくれない!私は枕元のぬいぐるみを抱き寄せて、涙を落とす。常夜灯の橙色の明かりが妙に孤独感を刺激した。家の前に車が走る音や、隣の家の生活音が耳障りに響いてきて、寂しさに押しつぶされそうになる。新築のやたら真っ白な壁紙も、まだ慣れない使い始めの布団も私には見知らぬ他人のように冷たい。私の私物がごろごろしていても、生活をまだ知らない無表情な部屋。怖くて怖くてその晩私は子どものように泣きじゃくってしまったのだった。
 泣き疲れた私は、知らぬ間にねむっていたらしい。チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえる。布団から出て洗面台の鏡で自分の顔を見ると、目がぱんぱんに腫れていた。「不細工だなあ」と指さして笑った。
 それからは何かに吹っ切れたように、すんなりとねむれるようになった。あの晩だけ、とても部屋が怖く思えた。部屋に脅かされたのかもしれない。なんてね。
 部屋は今では良い相棒だ。特に朝のこの部屋は好きだ。朝日を浴びて壁や机、布団が優しい色になる。もう泣かない。今日も私はこの部屋でひとりねむる。そして朝を迎える。

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