【第16回】2020年1月11日

 卵をふたつ、ウインナーを5つ焼く。お味噌汁はいつもインスタント。お湯を電気ケトルで沸かして、注いでかき混ぜるだけ。一口コンロのキッチンでは、お味噌汁を作るのが難しい。ごはんは昨晩、恋人が炊いてくれた。目玉焼きとウインナーをお皿に移し、お茶碗にごはんを盛って、お箸を出した。狭い部屋に合わせた小さいローテーブルは食器でぎゅうぎゅうになる。おなかを空かせていた私たちは、ごはんを目の前にして焦るように手を合わせる。「いただきます!」と言って朝ごはんを食べた。目玉焼きにはソースをかける。私がソース派だから。

 朝ごはんを食べ終えると、恋人の家に移動した。家が近いから、行ったり来たりが楽だ。恋人の家にはシーシャがある。恋人にセッティングをしてもらい、炭を焼いて準備を手伝う。フレーバーを10分ほど蒸らして吸い始めると、水が入ったガラス瓶の中に煙がもわもわと立ち現れて白く曇る。何度か吸っているとだんだんと味がはっきりと出てくる。美味しい。ミルクの優しい香り。
 シーシャを吸っている間は、読書をしていた。去年、自分へのクリスマスプレゼントとして買った本。『掃除婦のための手引き書』著ルシア・ベルリン、訳岸本佐知子。これは著者の作品集で、彼女の体験に基づいた短編小説が集められている。ユーモア溢れる作品が多く、読みながらクスクス笑ってしまった。人生の中の物語を掴み、飾り気なく生きた言葉で語る。すべてがノンフィクションではないと思うが、人の日記を盗み見ているような楽しさが味わえる。
 2時間くらいしてシーシャの味が無くなってくると、お片付けをした。
 お散歩がしたくて恋人とふたりで外へ出た。近くの川のそばをひたすらまっすぐ歩く。ちょっと雲が多かったけれど、時々青空が覗いた。少し寒かった。手をつないだ。歩いている間は、ぽつぽつ喋った。川の流れや風景を眺めた。私は家でも会社でもパソコンを見ているので、広い視界が久しぶりだった。何も考えず、ぼんやりと過ごした。恋人の話は前にも聞いたことがある話だった。でも、初めて聞いた振りをした。こういうのは嘘に含まれるのかな。極論を言ってしまえば、恋人の話の内容はどうでもよくて、会話の間ずっと恋人の声を聴いている。私が話を聞いていないことを恋人は知っている。それで良いらしい。
 1時間弱お散歩をして、帰宅。疲れたので恋人の部屋で寝る。毛布がぬくぬくする。ねことだいたい同じ。私が先に起きた。おなかが空いてしまったので、まだねむる恋人をやや強引に起こした。

 ご飯を食べて、恋人とボードゲームをして遊んだ。勝ったり負けたりする。付き合う前も、こうしてボードゲームで遊んだなあと思う。ボードゲームに飽きて、私が絵を描きたいと言い出す。いらない紙の裏にボールペンで落書きをする。恋人にも描かせる。恋人は「絵は描けないよ」と言いながらも、一生懸命ねこの絵を描いた。何匹も描いた。下手だ、難しい、線がうまく書けないと言いながらもペンを投げ出さずに絵を描き続けるので、絵を描くのは実は好きなんじゃないかと思う。恋人の描く歪なねこの絵が好きなので、こうして時々描かせている。私自身は、小・中学生のころは絵を描くのに熱中していたから絵を描くことは好きなのだけど、明らかに下手くそになっていた。しょんぼり。当時は文章書くよりも絵を描く方が得意だった。それこそイラストレーターになりたいと言っていた。(同時に小説家にもなりたがっていた、こっそりと誰にも言わず)高校生になって私より絵が上手な人に出会ってその夢は砕かれた。

 遊ぶのに満足して、私は家に帰る。気づいたらすっかり夜になっていた。完璧な休日だった。家に帰ってからも、楽しい時間を過せた充実感心がホクホクしていた。気持ちよくねむれた。リラックスできたよい1日でした。


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