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前世は水難で死んだはずだった

何をそんなに悩んでるのかわからないけどずっと暗くて狭い窓のない部屋をぐるぐる回ってる感じがする。だんだん部屋に水が溜まってきてもうすぐ首のところ。夜になると次の日がやってくるのが憂鬱で眠れなくなって気付いたらそのまま朝になる。何もないのに急に泣きそうになる。日の光と暖かい風を浴びているときだけ少しまともな人間に戻れるので、せっせと外を歩く。ほんとうはドロドロに溶けてしまいそうなのに、人間の形を保って生きていてえらい。

前世はきっと、水害で死んだのだとずっと思っていた。小さな頃からよく水に襲われる夢を見る。初めてタイタニックを見たときのトラウマは、恐怖の「覚醒」に近い感情としてこの歳になってもフェリーに乗るのを躊躇うほど深く爪痕を残している。生まれ育った街には、氾濫を繰り返す川(水神様)の怒りを鎮めるため人柱にされた娘の悲話「十五の森」という伝説が残っていて、初めて小学校で習ったときは「私の前世か、ご先祖さまかも」とドキドキしていた。
先週末、また洪水で大切なものが流され沈んでいってしまうのを咽び泣きながら見ているしかない、みたいな夢を見てしまった。目覚めの悪さよ。あまりにもつらかったので笑い話にしようと、職場で何気なく先輩に話してみたら「夢占いとか調べた?」と訊ねられた。もう20年近く、これは前世の呪縛から逃れられないせいだと結構本気で思い込んでいたので、夢占いなんて考えてもみなかった。

高いところから洪水を見ている夢

あなたが高台におり、そこから洪水を見ている夢を見た場合。身近な人にトラブルが起こっても、あなたが何もできないことを意味しています。手助けをすることができず、アドバイスを聞き入れてもらえないというモヤモヤに悩まされてしまうでしょう。
洪水で川が氾濫する夢

洪水によって川が氾濫する夢は、あなたの心の中にせき止めることができないほどの感情が溢れてくることを伝えています。もしも夢の中で怖さを覚えたのなら、思いもよらない災難に見舞われ、苦しい立場に追いやられることになるでしょう。そして怒りや悲しみの感情に襲われることでしょう。心の準備をしておきたいもの。

ちょっと笑ってしまう。「身近な人のトラブルに対して何もできず悩む」「せき止めることができないほどの感情が溢れてくる」こんなの、ただのわたしの(頻繁に起こる)心理状態そのものじゃないか!なんだ。20年間囚われていた前世の呪縛が、数秒の、親指たった一本のフリック入力だけでいとも簡単に解けてしまった。

形の見えない悩みごとはなにひとつ解決しておらず、私の内側は相変わらず濁流が轟々と渦巻いているけれど、心の状態を客観的に把握しようとする試行錯誤は好きだ。もう洪水の夢を見ても泣いて起きたりしないと思う。遠く長い記憶だと思い込んでいた恐怖は、案外近い時間軸で片付けられそうだ。追いかけてくるその水はわたしの感情たちだよ、無理やり逃げなくていいよ。でも、もし他にも「自分は前世おそらく水難で死んだんですよね」と主張する人たちがいたら話を聞いてみたい。水の夢、見ますか?

2021.3.2

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