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①リップの色を決めるのは誰か


アンジュルムらしさを語るときに「桃奈のリップの話」はその象徴的な出来事としてよく語られる。
これは当時15歳だった笠原桃奈が2018年1月12日のブログでスタッフやファンの評判として『メイクが濃い』と言われたことに触れ、『これからは年相応を目指します』書いたことに端を発するエピソードだ。それを見たファンからは『そんなこと言われるのはおかしい』といった意見がコメント欄にあふれた。

翌日のブログではこの件について多数のコメントが寄せられたこと、メンバーからも『自分の好きなようにすればよい』とアドバイスされたことに触れ、感謝の気持ちを綴った。

当時からアンジュルムを応援していた人にはわかるが、この話は桃奈が何の前触れもなく突然言い始めたわけではない。アイドルの在り方としてもっと自由に自分が見せたい自分のあるべき姿でステージに立ちたいというのは、アンジュルムの中ではそれ以前から語られてきたことだ。

アンジュルムに『自分らしさを大切にする』という視点をアンジュルムに最初に持ち込んだのは、当時リーダーだった和田彩花(あやちょ)だ。アイドルの在り方として『自己プロデュース』とか『メンバーの個性』という言い方で、お仕着せな作られたグループから自主的な考えに基づくグループにしたいという趣旨の発言が度々されていて、アンジュルムのファンの間ではこの時すでにそういうメンバーの在り方やグループの方向性はある程度理解されていた。しかしそう言った話をするのはライブハウスツアーのステージなど比較的限定された空間が多かったので、そのことは外向きに対してはあまり知られてはいなかった。

メンバーを子供扱いせず対等なメンバーとして認め、桃奈も自らメイクやスタイル、私服も含めて自分を追求していったが、メンバー自身がなりたい自分というものとスタッフや一部のファンが求めるものとの違いがこの桃奈の告白となったのだ。

その後、アンジュルムライブハウスツアー『十人十色』の中で、桃奈はなりたい自分についてこれからも追求していくことを宣言し、あやちょは「桃奈も自分の好きなリップを塗ればいい」と発言した。(出典 : アンジュルムDVDマガジンVOL.18)

36:15 桃奈『わたしはコンプレックスが多くて、先輩達のここに憧れてる、ここに憧れてるというのがたくさんあるので、なんかそういう気持ちなんですけど、なんかもう、ちょっとね、、その、、、大人に!、素敵な女性になれるようにこれからも頑張りたいなって思いました。』(2018年3月3日 横浜 Bay Hall)

1:01:00 桃奈『(デビュー以来のライブ回数が)100回目ということで、唇をちょっと赤めにしたんですよ。あと前髪をちょっと切りました。気合入ってます!』(2018年3月17日 仙台 darwin)
1:01:15 あやちょ『ああひとつこれ叶ったらいいなという夢が一個できました。それは、みんなが周りの目を気にせず好きなリップを使ったり出来ればいいなとすごく切実に思いました。わたしはやっぱりアイドルというのはいいとされる型があるわけではなく、そこにハマることが正しいわけでもないですし、これは色々誤解があるかもしれないし、またあやちょがそんなこと言ってるよとか言われるかもしれないけど、(中略)自分自身でいろんなものをプロデュースしてみんながいろんなことをできて行けたらいいなと。桃奈がね、また赤いリップとかつけてくれたらいいなと。』(2018年3月17日 仙台 darwin)

今でもこれがアンジュルムらしさをよく表すエピソードとして、アンジュルムを紹介する時や、インタビューなどでもよく取り上げられる。
リップを選ぶという行為が女性の自由の象徴だとすれば、男性または大人の理想や願望の象徴としてのアイドルという存在との対比が、とてもキャッチーだからだと思う。

ともあれ自分のリップの色を決めるのは私達であるということが、アンジュルムのアイデンティティとして『アイドルの自由』を確立した瞬間だった。


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