もはや”電池”ではない~EV(電気自動車)普及を決定づける最後の”ピース”とは~


「電池というピースが埋まり、電動化への準備が整った」

12/18 トヨタ自動車の寺師茂樹副社長は、パナソニックとの提携を受け、こう強調した。(※1)
そして、この会見で改めて注目されたのが「全固体電池」だ。

断っておくが、もちろん、冒頭の"最後のピース"とは全固体電池ではない。
いや、電池ですらない。
EV普及の決め手が電池だった時代は過ぎ去った。その話の前に、まずは全固体電池について触れておこう。


”夢”の「全固体電池」

全固体電池とは、その名のとおり固体の電解質を採用した電池だ。
開発の第一人者、大阪府立大学の辰巳砂昌弘教授によれば、液体電解質に対する現状のメリットは以下のとおり。

<メリット>
①電極と液体が反応して劣化したり、液漏れしたりする危険性が少ない。(安全性)
②エネルギー密度を高くできる可能性がある。(持続性)
③充電時間の短縮(利便性)(※2)

実用化されれば、電池性能をあらゆる面で向上できる可能性のある全固体電池。その内製化に向けパナソニックと提携したニュースに「いよいよか」と感じた方も多いことだろう。(※3)


EVの存在意義とは?

“航続距離”という制約ゆえに普及しないEV。もっともらしい図式に見えるが、果たしてそうだろうか。
現在、日産の新型リーフの走行距離は、フル充電で約400kmと言われている。仮に、走行距離が倍の800kmまで伸びたとしよう。せいぜい、1週間に1度の充電作業が、2週間に1度になる程度の話だ。EVを維持する煩わしさは多少軽減するかもしれないが、EVを購入する動機付けには至らない。
EVトラックなどを
念頭においた長距離移動時の走行距離の議論もあるが、ドライバーが連続運転して良い時間は現行法制下では最大4時間まで。完全な自動運転技術が導入されない限り、”400km”という走行距離をクリアした時点でもはや航続距離が律速要素ではない。

そもそも、私たちはなぜ”EV化”を志向し始めたのか。
充電には時間がかかる。補助金を加味しても、ガソリン車の方がまだまだ安価だ。斬新なデザイン?ランニングコストの安さ?あるいは、電気で走るという目新しさだろうか?(※4)
デザインでいえば、ガソリン車の方が豊富で選択の自由度は高い。ランニングコストは確かに安いが、車体費用を加味すればまだまだ高い。電池の性能劣化も心配だ。むろん、一消費者にとって、動力源がガソリンか、電気かは取るに足らない話だ。動くことが大事なのであって、エンジンがどのような仕組みで動いているかに思いを馳せる物好きな消費者は少ないだろう。(※5)

EVの存在意義(価値)はただ1つ。エコであることだ。走行時にCO2を全く排出しない究極のエコカー。EVの真価はこの1点に集約される。しかし、EVはこの唯一の存在意義すら、現時点で確立できていない。

確かにEVは走行中CO2を排出しない。しかし、CO2の排出量は「Well to Wheel」という概念で比較されなければならない。2014年時点で、日本の電源構成の9割は化石燃料。巨大なタービンと、内燃機関のエネルギー変換効率に差はあれど、電気を作るためにCO2が発生している事実は残る。エコカーが真にエコカー足り得るには、その動力源は自然エネルギーでなければならない。これこそ、EV化の出発点だ。(※6)


EV化最後の”ピース”

EVには車の定義を変え、エネルギーの在り方を変える確かなポテンシャルがある。
他の車にはないEVの価値。それは、EVが充放電可能な大型電池であるということだ。EVの可能性は、電池機能そのものにある。EVはモビリティとは別の次元において価値を発揮できるのだ。
EV・自然エネルギー・電池。これら3つの要素をつなぐ最後のピースこそ「スマートシティ化(※7)」だ。断言しても良いが、EVは、スマートシティ化と同じ程度に普及していく。

自然エネルギーを活用する最大のネックは、供給サイドの自由度が極端に低いことだ。現時点で最も身近な自然エネルギーである太陽光発電等、まずもって夜間に発電することができない。しかし、EVはこの需給を緩和する機能の一端を担うことができる。
自然エネルギー由来の電気で走行できれば、「Well to Wheel」の議論から解き放たれる。自宅や会社で発電された電気を充電することで、"定期的にガスステーションスに行く"という行為そのものが不要になる。
電池はいずれ取り外しできるようになるだろう。電池ステーションで充電された電池と、使用済の電池とを交換して、充電時間なしで長距離の走行も可能、ということが起こるかもしれない。信じられないことだが、台湾の電動スクーター”ゴゴロ”では既に実用化されている仕組みだ。

各家庭で電気を作り、余剰電力を融通しあう社会。
EVは”発電所”という定義すら変えてしまうだろう。中央集権的な発電事業は、各家庭単位で担うことになる。電力会社がなすべきことは、スマートシティ化の推進であり、受送電の管理と天候不順時に備えたバッファ電源の運営くらいだろう。
かつて”電力会社”といえば、安定した大企業の象徴であった。しかし、現在は激しい競争の時代に突入しつつある。今後、この波はうねりとなって、電力会社を飲み込んでいくはずだ。

私は、2030年のEVの新車販売台数に占める割合は約50%に達するとみている。どうぞ、ご笑覧いただいて結構だ。現時点での最も楽観的な見通しでさえ、その割合は50%の1/3程度なのだから。
「スマートシティ化」というピースに、EMSのEV生産参入という触媒が作用することが上記割合を想定する理由なのだが、この点についてはまた別の機会に記すことにしたい。12年後の答え合わせが今からとても楽しみだ。


※1 トヨタ副社長「異次元への挑戦を加速」、電池での提携で準備整う(ロイター)
※2 EV向け本命「全固体電池」5年で実用化へ  開発第一人者、大阪府立大・辰巳砂教授に聞く(2017/10/30)
※3 液状電解質が必ずしも固体電解質に劣ると確定しているわけではない点に注意。全固体電池が実用化されていない一方、リチウムイオン濃度を通常の3倍にした電解質や、難燃性を有す電解質等、液状電解質の研究・開発も進んでいる。
次世代電池 革新のパワー リチウムを超えろ
“火を消す”高性能電解液を開発 -絶対に発火しない長寿命電池の実現へ-
※4 電気自動車の歴史
※5 日産リーフQ&A
※6 走行時に排出されるCO2だけでなく、車体・動力源の製造段階から排出されるCO2を比較する必要がある、という考え方。
※7 スマートシティ化の取り組み例

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