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【ネタバレ感想】「すばらしき世界」西川美和監督〜その1〜

長文です、あしからず。

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2時間、完全に没入していた。特に後半は涙が止まらず、ぶわあっと泣いてしまった。

基本的には、テレビディレクターである津野田を狂言回しとしているが、
三上の視線でも語られており、待ちに待ったシャバの空気を楽しんだのも束の間、
前科者に対しての容赦ない偏見や、さらに極道だった過去から、
まともな仕事にもつけず、福祉のケースワーカーにも冷たく対応される始末。
三上の憤る姿は観る者の心を揺さぶるが、同時に締め出す側の気持ちも痛く理解できる。

そんな三上を追う津野田も局プロデューサーの女性に淡い下心をいだき、
そんな津野田の気持ちを利用する局P。
彼女は一見腹立たしい人間のようにも思えるが、
テレビ業界というなんだかんだで男社会の業界にあり、女性としてプロデューサーとして働くための
処世術として、使えるモノはなんでも使うというタフな精神の持ち主だ。

水面下で様々な思惑が進められる中、
三上にとって久しぶりの刑務所外での生活。
序盤に展開されるボロアパートでの食事のシーンは、一見幸せそうなシーンにも見えるが、
その後の展開をどうしても想起してしまう。

その後はもう、ご想像のとおりの偏見や迫害の嵐。
三上は前科者というだけではなく、組に所属していた過去もあるので、
スーパーに行けば万引きを疑われ、ケースワーカーにも「反社」には支援できません、と言われてしまう。
(三上は福祉課?の窓口で「反社?」と問い返していた記憶があるが、たしかに「反社」という言い方は最近になってからですよね・・)


仕事を得たいのに資格の取得もままならず、生活保護に頼るしかない生活。
だんだんと崩れていく、出所後の理想。
序盤で語られているように、そもそも三上は自分の罪を真正面から受け止めて反省をしていないため、
ここまで自分が世間から白い目で見られていることに対して納得もしていない。

そんな小さな絶望を積み重ねて、三上がかつての仲間(極道時代?)のもとへ戻りたいと思う気持ちは、
少しわかる。
だが、三上が思っている以上に、世間は反社会勢力に対しての制裁を強めており、
ヤクザの仕事では生きていけないのだと言う。
ここで登場する、キムラ緑子氏演じる、極妻はとてもよかった。
いろいろとわかっていて、それでもそこから抜けることはできない、やめることはできない諦め。
だからこそ、三上に戻って欲しくないという思う優しさ。

ここから後半に突入していくのだが、ここからはもう涙の嵐だった。
かつて自分が預けられていた児童養護施設を尋ねる三上がグラウンドで泣き崩れるシーン。

母親は自分を迎えにきていた、でも自分が先に外に出て行った、
だから未だに会えていないが、母親は自分を思っているはずだ。
三上がずっと信じていたこと、信じようとしていたこと。
三上だってきっとわかっていたはずなのに、それだけが心の支えだった。

でもきっとこの児童養護施設にて三上は何かを悟ったのだと思う。
事実、東京に戻ってからは念願の職も手に入れ、同僚やご近所さんとも良好な関係を気付き、
友人たちに言葉にも耳を傾けるようになっていった。

そうして、あの嵐の日。

ラストの解釈については、観客それぞれで意見は分かれるのだろうと思う。
バッドエンドととるか、ハッピーエンドととるか。

三上にとっては、あのまま生きていてももしかしたら辛いことだらけかもしれない。
かつてのままの自分だと全く世間に受け入れられない。
だから少しずつ自分を矯正して世間に慣らしていく。
慣らした結果が、あのアルバイト先での出来事。
これは三上にとっては本当に耐えがたいことではなかろうか。
もうなんか生きる気力を失ってしまったのではないか。
実際、畳に倒れた時に携帯電話を取り出そうとするしぐさもなかった。

「この世界は生きづらく、あたたかい。」
という本作のキャッチコピーのとおり、生きづらく風当たりも強いけど、
でも優しい人もいる。
”だけど、やっぱり冷たい世界である。”
と続くのではないだろうか。これで私が今作で1番強く感じたメッセージ。


西川監督は、タイトルを「すばらしき世界」と名付けた。
正直この意味はまだわからないので、これから西川監督の本を読んで解釈のヒントにできればと思っている。

そしてキャストがすごく良かったので、それはまた別の機会に。

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