夢の中
思い返すと、ぜんぶ夢だったんじゃないかって思う。
「おはよう、今日もかわいいね。」
しなやかに、凛と立とうとするあなた。ワイン片手に話し込んだり、チャミスル片手に酔っぱらったり。何度も見透かされ、救われた。
「またパスタ?芸がないなあ。」
自分の好きに夢中で、いつも淡々と青い炎燃やしてて、きっと、私の話をいちばん聞いてくれたあなた。海を越えた遠いところでは、パスタ以外も食べてるのかな。
「あ!春だ。春の、風。」
料理できるの、隠してたよね。あなたの感性から繰り出される言葉、絶品ごはんに何度助けられたことか。
「お花買ってきたの!どこに飾ろっかな〜」
たっぷりの愛とお酒を注いでくれたあなた。お部屋での時間、思い出すとうふふってなる。しあわせになりたいね。
「愛って、触れるって、なんだろうね。」
あなたとの時間は、まさに哲学対話だった。じぶんのことでも、あなたのことでもなく、ただただあるテーマについて話す時間が心地よかった。
「へぇ、そんな本読んでるんだ。一緒に読みたい!」
晴読雨読、音とダンス、なあなた。私はあなたの音を、待ってるよ。
「ワイン飲もうよー!」
あなたほどかわいくって、かしこくって、自分の感覚を上手に言葉にできる人を知らないよ。また、わかるー!って言いながら夜通しお話したいな。
「夜の公園チャット、行っちゃう?」
わたしにとってのあなたは、なんだか姉妹のような、戦友のようなかんじ。
影響を与えたいと動くしたたかさも、果敢に挑む強さも、とても輝いて見えてた。
あなたとここで一緒に過ごした時間が、交わした言葉たちが、リフレインする。
もらった手紙、ドライフラワーになったお花、フィルムカメラの写真。
ほんとうに私の身に起こったことなのだろうか?
夏の終わりに、ゆるやかに時間が分断され、役割が変わった。
夢と現との境が曖昧になっている。
きっとそこにあったのは、みんなが「いつも」から離れた世界線で生きていたあの頃限定の
甘く、愛に溢れた毎日
私を私にしてくれたこの場が、どうかそのままであってほしい
変わらないものなんてないのに
叶わない望みを抱いてしまった私は、大好きだったこの場所を守らなきゃ、と必死だった
守るどころか、生き物のようにどんどん様変わりしていくこの場所に、心が、身体がついていかなかった
そしていつしか、ゆたかに暮らす私ではなく、息を詰まらせながら働く私だけがそこに存在するようになった
守りたかったのは、特殊な磁場によって愛の器が満たされ、自信がつき、変われたと思っていた小さな自分自身だったのかもしれない
怖かったのは、ほんとうは私はなんにも変わってなんかなくて、環境による変化を成長だと勘違いしているんじゃ、って感覚なのかもしれない
ここはほんとうは、東京
街を歩くと、誰もが足早に、必死に生きているように映る
まじめな人ほど損をし、繊細な人ほど傷つく
ついたと思った自信は、新しい職場、はじめてばかりのチャレンジングな業務、板挟みによるストレス、人間関係の変化によって、尽く崩れ去った
私に刺激を与えてくれる人、機会をくれる人、支えになる言葉をくれる人
今まわりにいてくれる人の笑顔が、激励の声が、ぬくもりが、あたたかく心を包んでいる
手を伸ばしてくれる人がいるのなら、必ず掴みたい
それでも、どこまで行っても、結局ひとりなのだ
きっとそれが人生、それが自由
自分の身を、信念を守るため
ほんとうはこうありたいという姿に向かうため
またこれまでのように、自分の足で立ち、
ひとりでも戦う勇気をもたなければならない
夢から醒めるのに、ずいぶんと時間がかかってしまった
ここで一緒に暮らした甘美な時間が消えてなくなるわけではないから
次にあなたに会えるのはきっと、この場所じゃなくても大丈夫
さようなら、愛しき日々よ
これからどこへ向かおうか
受けた愛を胸に抱いて、新しい日常を生きていくよ
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