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お話をこどもとたのしむ vol.7

松岡享子さんありがとうございました

松岡享子さんが亡くなったー先週金曜日、お話の仲間からの訃報を皮切りに、別のお話の仲間からも、昔話の再話研究会の仲間からも、つぎつぎに同じ知らせが飛び込んできました。どの知らせにも一様に、先導者を亡くした悲しみが綴られていました。
わたしが、松岡享子さんと直にお会いしたのは、講演会を含めて3回ほど。そのうちの一回は「姫路おはなしの会」で平成17年の2月に松岡さんをお招きした内輪の勉強会でした。「三びきのクマの話」や「ちいちゃい、ちいちゃい」など『イギリスとアイルランドの昔話』(福音館書店)の中のお話のほか、当時未発表だった「中国のフェアリーテール」を語ってくださいました。松岡さんの「とぅてもおっきなクマ」という声、そのときの表情は今も鮮やかに蘇ってきます。
お話(=ストーリーテリング)を始めたばかりの頃、私が貪り読んだのは、東京子ども図書館の小冊子「たのしいお話」のシリーズです。このシリーズは改訂を加えながら「レクチャーブックス」として形を変えて読み継がれていますが、お話の経験を積めば積むほど、松岡さんの言葉のひとつひとつに深く納得でき、今もバイブルのように大切にしています。
もう一つ、松岡さんからいただいた宝物は、松岡さんが翻訳された数々の英米の児童文学です。特に、ベバリィ・クリアリーの「ラモーナ」シリーズは、私の娘が小学生の低学年の頃「ラモーナはわたし」と言って、本の中に自分の分身を見出す喜びと最初に出会った本でした。私自身、ヘンリーくんや、ラモーナ、ラモーナのお姉ちゃんのビーザスたちは親戚の子どものように親しく思っていたし、物語に登場する大人たちの振る舞いを通して、子育てのヒントをたくさんもらいました。奇しくも、今月届いた東京子ども図書館の季刊誌「こどもとしょかん」の冬号はクリアリーの特集で、懐かしく読んだところでした。
松岡享子さんがしてくださったことは、どんなに言葉を尽くしても言い尽くせないほど大きなことでした。そして、松岡さんは、あとに続く私たちが道に迷わないように、著書の中にたくさんのことばを残してくださっています。
『レクチャーブックス 松岡享子の本2 ことばの贈り物』には、松岡さんがアメリカで児童図書館員になられたときに、館長さんから言われて「ショックを受けた」ことばとしてつぎのように書かれています。
「私たちは(わたしたちというのは、図書館員のことです)、本はよいものだと信じる人のグループに属しています。私たちの仕事は、できるだけ多くの人をこのグループに招き入れることですー」(p55)
松岡さんが、ご自身の図書館員としての生活の、道標とし、杖ともされていたこのことばを、いま、わたし自身の道標とし杖ともして、子どもたちにお話を語り、本を手渡していきたいと思います。
松岡享子さん、ほんとうにありがとうございました。




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