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空を眺める

シルキーな雲が、遠くの山を包んでいる。
白く柔らかな風合いが、そのまま綿菓子の様だ。
こうして文字にしている合間にも、その姿はどんどん変化している。
それこそ、砂糖菓子のそれではないか。

鋭い日差しを覆い隠し、空間の流れがスローになる。
暖かな空気もいいが、少し寒い程度のこの空気もいい。
呼吸をする度に肺がわずかに痺れて、暖かな空気を吐き出そうとする。
ズボンのポケットにあたたか〜い缶コーヒーを忍ばせれば、心も温まる。
そうして、冷たい世界を感じながら過ごす。
いいじゃないか。とても、いいじゃないか。

空は、わずかな変化ですら表情と印象が変わる。
そんな変化を見守る事は、普段の生活では不可能と言える程に難しい。
空なんて、いつでも見れる。空を見ても、首が痛いだけ。
そんな思考が先走り、空よりも手元の書類に溜息をかける方が多い。
そうして、空を見る事が無くなっていった。

空を見た。
暖かなコーヒーの香りと仄かな苦味をゆっくりと味わいながら、その緩やかな時間の流れを楽しむ。
素敵だ。
頭のノイズをキャンセリングする必要はない。
ただ、今日を迎えられ、この時間を楽しめる事。これを、楽しもう。

今日の特売とか、明日の提出物とか、数日後の病院だとか、その内飛んでくる怒鳴り声とか、誰かの視線とか、気をつけなきゃいけない事とか、そんな事を気にするなんて、この時間には必要ない。
今はただ、この流れる時間に身を委ねよう。

今日も、空は曇ってばかりだ。
しかし、私はその空を眺めた。
そんな日があってもいいじゃないか。
さあ、明日はどんな空を見れるのだろうか。
明日も、空を眺める事はできるのだろうか。
忘れないでいたいと思う、そんな日だった。

おやすみなさい。

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