ネマタの「裏」麻雀本レビュー第47回『麻雀強者の流儀』編その10

第三章 最終形の流儀

 過去のことを悔いても仕方ないので、前向きに捉えた方が精神衛生上よいという意味でのみ同意します。ピンフドラ1はリーチしましょう。もしダマにした方が有利なのであれば、「勝てる気がしない」という印象論ではなく、ダマ有利であることの理由をもっと具体的に説明できてしかるべきです。

 データに基づく麻雀研究が盛んになる前によく聞いたのが、「最終形はリーチ」というもの。最終形とは、これ以上手変わりが見込めない手牌のことを指します。

 麻雀には誤ったセオリーが多々ありますが、「最終形はリーチ」は、様々な誤ったセオリーを包括したものと言ってよいでしょう。そのうえで何となく正しい気がしてしまうのが厄介なもの。89ページ程度の手牌でも基本は即リーチされることをお勧めします。

 誤ったセオリーが氾濫した理由は検証不足という面が大きいですが、もう一つ挙げるとすれば、「判断としては誤りでも、認知力をつける為には役に立たないこともない」ため。いわゆる麻雀初心者は、最終形を見据える力も無ければ、危険牌を止める発想も無かったりするものですから、たとえ誤りだとしても、そのセオリーのおかげで必要な情報に目が向くようになるのですね。

練習問題

 筆者が言うところの期待値特化の頭でっかち麻雀でもむしろリーチしそうなもの。結局のところこの手の「レッテル」は単なる先入観で語られているものだということなのでしょうか。

 データ研究によってそれまで言われていた「シャンポンよりカンチャン」説が覆されたのですが、これについてはありとあらゆるところから異論が出ました。これについては何もオカルト派や、古い打ち筋を好む打ち手から出されたのではありません。『科学する麻雀』のデータに真っ先に異論を投げかけたのは何と、『おしえて!科学する麻雀』に登場する小林剛プロ。同書の編者である福地誠氏も、『科学する麻雀』以降に掲載された近代麻雀のコラムで、カンチャン受けが基本であるという旨の記事を書かれていました(現在では両者とも訂正されています)。

 それから15年以上経った今となっても、本書のような記述が見受けられる。それくらい根強い「誤ったセオリー」なのですが、どうしてここまで広まったのかについては、上記に考察記事を書いたので御参照下さい。『現代麻雀最新セオリー』では、どのようなケースならカンチャン有利になるかについても細かい記述があります。

 結局のところ、「認知力」と「決断力」が高い人が強い、しかしながらその過程で、「判断力」は疎かにされがちということがこのことからも言えるのではないでしょうか。これから麻雀を学ばれる方は、どちらかばかりに偏らないように注意しましょう。

 「シュンツ場」「トイツ場」についての私の見解については上記リンク先で取り上げました。概念としては誤りではありませんが、「場」という全体ではなく、「牌」という部分に着目した方がより高い精度で読みを入れることができるでしょう。

 もちろん場に安い待ちが残る方が望ましいですが、どちらにせよピンフのみはリーチします。分かりやすいところに基準を置きたがるというのは誰しも少なからずありますが、A>BであるものがB有利な条件が加わったからといってB>Aになるとは限りません。

 平和リーチのアガリ時打点は3500点ほど、場に安い色か高い色かでアガリ率に5%差がつくので、局収支では少なくとも175点ほどの差がつくことになります(非和了時の支出込みだと200点程度か)。

 しかし平和リーチとダマの局収支差は8巡目にして約900点。(『統計学のマージャン戦術』p23参照) 場に高い安い程度の曖昧な差で優劣が覆ることは考えにくいですね。

 高め安めの打点差が更に極端な平和純チャン三色の場合は、「ダマで安目でもアガる」以外は面白いくらいに横一線。他家の挙動によってどれが最善か結構変わりそうです。高めタンピン三色のケースも似たような傾向を示しそうですが、高めの打点が下がっている分やや消極策寄りというところでしょうか。

 前項目は思った以上にリーチの恩恵が大きい「平和のみテンパイ」だったからこそリーチが局収支で圧倒的に優勢になりましたが、実際は「局収支上どちらの選択も微妙」となることは多々あります。そのような時はまさに場況なり点数状況なり、手牌以外の状況で判断を決めるのが有力になるのです。

 「状況次第」とは、座学を怠っている人の言い訳として使われてきた言葉でもあります。しかし座学に熱心な人であれば、「この手牌は◯切り一択」のように決めつけずに、どんな状況なら判断が変わるかも考えてみることをお勧めします。

 101ページの手牌は高めが存在することもあり、ツモアガらずにフリテンリーチに分があるとみます。アガリ率はフリテン3メンチャン>数牌タンキ、字牌タンキの場合は打点はあまり上がっていません。よりよい手変わりと呼べるものはさほど残ってない可能性が高いとみるので、ダマから更に手変わりを待つのは損とみます。

 待ちの数が半分になっても和了率は半分までにはならないので、基本的に打点が2倍になればリャンメンをシャンポンにするのが有力です。今回はドラ6s引きがあるとはいえ、「リャンメンでアガる前に残り3枚の牌を引く」ことはさほど多くなく、少なくともドラ切りを「悪手」と断定するまでには至らないとみます。

 ただし今回のような、「安めを受け入れた先の高め変化」は何かと見落としやすいので注意しておきたいですね。

7 

 「最終形はリーチ」の最たるものとして、筆者が所属していた雀鬼会会長の、「指が15本折れてもリーチ」(場ゾロの2翻込みで、ダマでも数え役満になる手のこと)というものがあります。創作物の中の台詞なので、本当に本人が発言したものなのかは不明ですが、筆者のメンチン三倍満確定をリーチするというのもそれを受けての発言と思われます。良い子は真似しないことをお勧めしますが、そもそも真似出来る機会が滅多にないためか、冗談交じりで使われることはあっても、「誤ったセオリー」として批判されている例をみません。104ページの高め平和純チャン三色判断については、項目5で取り上げたリンク先を御参照下さい。

123m4599p123s西西西 ドラ6p 

 筆者はこの手をダマにして三色やチャンタを狙うと言われていますが、「冗談はよしてくれ」と言わざるを得ません。前述の「高め平和純チャン三色」と異なり、こちらはチャンタ三色としてみた場合は2シャンテンでしかありません。「人は確率の高い事象を過小評価、低い事象を過大評価する」とはいえ余りにも極端です。

 あまり考えたくないのですが、筆者がわざと損な選択を推奨している可能性が否定できません。この手牌は筆者の打ったのではなく、最強戦に参加された別の打ち手のもの。自分が打ったわけではないから、いくらでも出まかせが言えるというものです。

 しかし、筆者が悪意をもって嘘をついているというのも信じ難い話。「実戦譜が最強位戦のものに限定されるので、何とかテーマに沿った例題を取り上げようとするあまり嘘や大げさが混じってしまう」というのが理由でありましょうか。

 昨今の戦術書で良書と評価されるものは、ネット麻雀で打たれた膨大な実戦譜を元にしたデータに基づくもの、もしくはそれらの実戦譜からテーマに沿った適切な例題が出題されているものがほとんどです。私自身ネット麻雀という環境が無ければ、たとえどれほど雀力、文才に富んでいたとしても、『現代麻雀技術論』を書く事はできなかったでしょうね。


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