新麻雀徒然草第35回「下手だからこそ上手になれることもある麻雀という不思議なゲーム」

ケース①

選択A 123が出れば勝ち 456が出れば負け 

選択B 12が出れば勝ち 3456が出れば負け 

ケース②

選択A 123が出れば勝ち 456が出れば負け 

選択B 1234が出れば負け 56が出れば勝ち 

 勝率が高い方の選択を「正着」とするなら、どちらも選択Aが正着であることは言うまでもありません。しかしケース②については、「選択Aを選んだせいで負け、選択Bを選んでいれば勝っていた」ということも有り得ます。よってケース②ほどミスに気付きづらく、悪い場合はミスを正着と思い込んでしまうことさえ有り得ます。

 お察しの方も多いかと思いますが、麻雀というゲームはとにかく「ケース②」のような選択を何度となく迫られます。その最たるものが押し引き判断。押した方が勝率が高い手牌であっても結果的に放銃すれば負けですしその逆も然り。「ケース①」だけなら起こり得ない、「上手いからこそ負ける」ことがしょっちゅう起こるのが麻雀なのです。

 以前書いた記事を縁として先日、「MTG」プレイヤーのコミュニティに参加させていただいたのですが、麻雀もカードゲームも運要素の絡む戦略ゲームということもあってか、こちらでも麻雀のことが度々話題になっているようでした。

 思えばあの時も会場に居たMTGプレイヤーが「麻雀格闘倶楽部」の話をしていたのがきっかけで再開することになったのでした。その後MTGを(ゲームとして好きなのは変わらなかったにも関わらず)引退した理由は以前書いた通りですが、もう一つ付け加えるのであれば、「他のゲームはいくらやっても下手の横好きだった私が、麻雀だけははっきり強くなることができた。」ためです。

 当時のプロツアーは1日目に7戦して上位64名が2日目に勝ち残り、2日目にもう7戦して上位8名が最終日に進出。最終日は3回戦のトーナメントで優勝者を決めるというもの。もちろん引き運や当たり運が悪ければどんなに強い人でも簡単に負けてしまうのですが、何回も最終日に残るトッププレイヤーが多数出現する程度には実力差が出やすいゲーム。参加者が全員予選通過者か予選免除者のみという選抜された卓上で、最大でも20戦も対局されないにも関わらずこのような結果になることは麻雀ではとても考えられないことです。

 実力差がつきやすい要因は色々考えられますが、先述の「ケース①」「ケース②」の話に着目します。自分のデッキを作って対戦するカードゲームにおいて勝率を高めるために特に大事なのは、「勝率が高くなるようなデッキ構築を考える」「引いた時に勝てるカードが増えるようなプレイングを心がける」こと。麻雀の押し引きのような、「選択Aと選択Bで勝ちにつながる展開が真逆」になることが起こりにくいので、「ケース①」のような選択をすることが大半です。

 ケース①については、各事象がどの程度の確率で起きるかが分からなくても、「選択Aなら3が出たときも勝ち」であることに気付きさえすれば正着を選ぶことが出来ます。こう聞くと簡単ですが、局面が複雑になれば判断自体は簡単でも認知するのは難しくなりますし、何度も選択を実行することになればミスも増えがち。ケース①主体のゲームは運要素があったとしても、認知力にも実行力にも長けている熟練者がなおのこと勝ちやすいゲームであると言えましょう。

 一方ケース②については、「123が出る確率が56が出る確率よりも本当に高いのか」まで分かっていなければ、選択Aが正着であるとは言えなくなります。ただでさえミスを正解と誤解しやすいケース②ですが、もし「実は56が出る確率の方が高いので選択Bが正着」となればどうでしょう。「123が出れば勝ち、56が出れば負け」であることまでは気付ける認知力の高いプレイヤーだからこそ、Aを選んでしまう判断ミスを犯してしまうということさえ有り得るのではないでしょうか。どんなに「認知」「実行」に長けた打ち手であっても、確率的「判断」を先天的に正しく行えるほどの才能を持ち合わせていることはほとんどありません。

 私が何故麻雀だけは強くなることが出来たのか。それは、「ケース②」でどちらを選択すべきかについて、データを用いた麻雀研究の成果を一早く取り入れることが出来たからです。先述の通り「ケース②」のような選択が先天的に上手い打ち手というのは少ないもの。むしろ「ケース①」で高い正解率を誇る打ち手ほど研究内容に懐疑的になり、わざわざ取り入れるまでもないと思いがちになってしまうのではないでしょうか。

 逆に言えば、「ケース①」でミスが多い打ち手ほど、「ケース②」の正答率が上昇することで実力が飛躍的に向上するのですから、益々研究内容が正しいと確信することができます。ところが「ケース①」についてはまだまだ甘い選択が多い(多少は改善されたと思いますが、未だにこの手のミスが後を絶えない私)のですから、「ケース①」の正答率が高い熟練者は、「あいつはたまたま運が良いだけ」「やはりデータ研究に頼っているような奴はダメ」という考えをなおのこと強固なものにしてしまうかもしれません。逆に、「ケース②」の正答率こそ高いものの、「ケース①」については勉強が不十分な打ち手が、見識の狭さから昔ながらの熟練者を揶揄する例も少なからず見受けられます。

 私が他のプレイヤーを差し置いて、上3名の名前を『現麻本実践編』で取り上げたのは、「ケース①②」両方において高い精度を誇る稀有なプレーヤーであった為です。(更に言えば下2名の名前をここで取り上げたのは、ややもすれば昔ながらの熟練者を揶揄するばかりの打ち手になっていたであろう私が、そうならずに済んだという点で大いに影響を受けたからです。本来であれば麻雀研究家の名前も取り上げて然るべきなのですが、そちらは多くの方が名前を挙げていたので敢えて他の人と被らないようにしました。)  

 謙遜抜きに、私は下手だったからこそ麻雀で上手くなることができました。下手であるが故に、「ケース①②」両方を体系的に学ぶことの必要性に気付き、たまたま運良く環境も整っていたからです。もし今後麻雀を学ぶ環境が整備されれば、元からゲームが上手い人はますます強くなり、私などではとても太刀打ち出来なくなってしまうでしょう。しかしながら、それこそがまさに私の望む世界。全く歯が立たないレベルの強さの麻雀に痺れ、好きな雀士を応援する傍らで自らのヘボ麻雀を楽しむ。そんな日が一日も早く来て欲しいと願ってやみません。

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