ネマタの「裏」麻雀本レビュー第39回『麻雀強者の流儀』編その2

押しの流儀1

 まずは上記の押し引き表をご覧下さい。子のリーチへの放銃平均点(赤有りルール)は非一発なら約5200点、一発なら約7400点(『勝つための現代麻雀技術論』講座29に記載)というところ。つまり一発目に放銃率10%程度の牌を切る場合は、押し側に−220点ほどの負荷がかかることになります。

 押し引き表が赤色のところは押し側が+500点以上有利なので、一発目に危険牌を切るとしても判断が変わるほどではありませんが、橙色や黄色の部分であれば押すかどうか微妙〜降り有利に転じることも十分に考えられます。

 押し引き表はテンパイおよび1シャンテンにのみ対応しているので、例題の2シャンテンの牌姿は後回しにして練習問題を先に見ていきましょう。どちらも無スジを切って「完全」1シャンテンに受けるか、安牌を切って「良良」1シャンテンに受けるかの比較。押し引き表では、タンピン+2翻「完全」1シャンテンで中盤に無スジ2378相当の危険牌切りは「橙」ですが、タンピン+2翻「良良」1シャンテンで中盤にスジ2378相当の危険牌切りは「赤」。実はどちらを切ってもそこそこ押せる1シャンテンであれば、受け入れは狭くなるも一旦安全度の高い牌を切った方がよいケース自体は少なくありません。

 「鉄押しの条件」では無スジを切ってドラドラ「完全」1シャンテンと、安牌を切ってドラドラ「良良」1シャンテンの比較で、天鳳位諸氏はいずれも安牌切りを選択。先に危険牌を通すことでテンパイしても安牌周辺の待ちが特に警戒されやすいということにも言及されています。

 それなら練習問題も安牌切りが正解…ではありませんね。こちらは「完全」に受けた場合にのみ三色の受け入れが残りますし、問1は通っている牌が少ない、問2は1pが通っていて6pの出が早いという理由で、無スジとはいえ切る牌が比較的通りやすいという要素もあります。打点差が無く、「完全」側の切る牌が通常の無スジと同程度の危険牌という条件で、「難しいが一旦安牌を切るのが無難」という結論に至ったのですから、今回の条件なら危険牌を勝負した方がよいでしょう。

 それを踏まえて例題の牌姿を考察。2シャンテンとはいえ、浮き牌へのくっつきで手が進むうえに、手が進んだ1シャンテンのほとんどが「押し有利」相当。打2sとしていれば5mを残していれば2457pツモで打8s。先に安牌を切った時と比較して5m36sツモでもテンパイするのですから、単純な「完全」と「良良」1シャンテン以上の差がつきます。切る牌が現物と無スジの比較ならまだしも、現物と、「通っている牌が少ない段階のスジ」の比較ですから、2sくらいは勝負した方がよいと言えそうです。

 麻雀はとかく打ち手の実力が分かりにくいゲームですが、著者の鈴木氏が実戦譜のプロ雀士よりも実力者である可能性は高いとみてよいでしょう。麻雀プロとはいえ、押し引き判断が「②リスクを恐れる人」止まりの打ち手は多いもの。本項目の内容は、②の段階の人が、「③リスクを恐れない人」になるための恰好の題材と言えましょう。

 しかしそこから、「④リスクを知る人」を目指すとなると、「危険牌を勝負するのがリーチ一発目である」であることの負荷も、案外無視できないものであると気付かされます。今回題材となったのはノーテンの牌姿としては相当に価値が高いもの。今回のような手で迷わず押せる人は、「一発目という理由で危険牌を切らない方がよい」ギリギリの局面に出くわすことも少なくないのではないでしょうか。

押しの流儀2

 正直な話、流儀1を読み終わった段階では「流石は最強位、下手な麻雀プロの本よりずっと為になる」。と思っていたのですが、いきなり怪しいセオリーの話が出てきます。アガリに遠い段階という断り書きがあるとはいえ、133479sからあえて1sを切らずに9sを切れというのです。

 その理由は、①2を引いた時に12334の形が残って強い ②3を2枚持っているので1が安牌になりやすい ③1から切ると将来危険になってから3を切り出すことになる というものです。

 ①は、12334は自分で3を2枚使っているので、単純に34と持っている場合よりアガリやすいという理屈かもしれません。しかし少し形が異なりますが、23345と23で実戦巧者の多くが体感で前者がアガリやすいと感じたにも関わらず、データのうえでは後者がアガリ率で勝るとなった例がありました。

 この結果を受けて、23側は2や3を先切りして出アガリしやすくなっている例が含まれているのではないかという異論を挟まれている方もいらっしゃいました。逆に今回のケースは、1を切って25待ちが残るケースは1→安牌→3の順で切るので25待ちが想定されやすく、相対的に12334に劣るという要素を無意識のうちに勘案したうえでの評価かもしれませんが、一般論として12334が34に比べてアガリやすいとは言えないでしょう。

 ②については、3を2枚持っている1は9よりは安全になりやすいということは確かに言えます。しかし、1334と残ったまま他家からリーチが入ろうものならほぼベタオリすることになる手。「9ではなく1を残していたおかげで放銃せずに済んだ」ケースが果たしてどれほどあるでしょうか。仮にそうなったとしても、そもそもその場合は安牌の持ち方に問題があった可能性がありそうです。

 そして③についてですが、将来3を切り出すリスクを強く見積もるなら、そもそも3を早めに先切りすればいいのではないかという話になります。何なら133479sの段階で3sを切っても258sでメンツができるのですから、9sから切るよりも手広いうえに、将来の放銃リスクも低いと言えます。

 目先の受け入れにこだわるがあまり、133479sから1sを切った後、「25sを引くまでは絶対に3sを切らない」と決めつけて打つ人よりは、97sを落としつつ安牌を意識しながら打てる人の方が強いかもしれませんが、だからといってあえて9sから切ることはないですね。1sから切ったうえで、然るべき時に3sを切ればよいだけの話です。

 なお、この打ち方は配牌をみてアガリ率が10%ぐらいの手の場合とありますが、133479sから何を切るかを選択している時点でメンツ候補オーバーですから1メンツも無くとも3シャンテン。『おしえて!科学する麻雀』に記載されている「MJ4」の打ち筋データ分析によると、配牌の段階で最低の6シャンテンですら、アガリ率は何と10%を超えています! 6シャンテンということはトイツすらない(トイツが1つでもあればチートイツ5シャンテン)のですから、役牌トイツをポンして進められる手すら含まれていないのにこの値です。

 もちろんこれは配牌の段階であるため。配牌の段階で6シャンテンでも、あれよあれよと有効牌を引いてアガれてしまうことは案外多いということです(そしてそのような時は往々にして配牌が6シャンテンであったことなど忘れてしまうもの。)。5〜6巡もして1メンツも無く、ターツも悪形ばかりの手となれば、3シャンテンだとしてもアガリ率は10%も無いでしょう。

 本題からは外れますが、人間には確率の低い事象は過大評価し、確率の高い事象は過小評価する傾向があることについて、改めて意識しておかなければならないと思わされます。

 もし今回の選択が5〜6巡目の3シャンテンで、133479s以外には切るものが無い(浮き牌無しか、有っても比較的安牌という理由で残したい)のであれば、個人的には打3sを選びそうです。

 「打Aが素直で正着の可能性が高いが、打Bを選ぶ人にむしろ実力者が多い」「打Aでも打Bでもない打Cが実は有力だが、打Cを選べる人は必ずしも実力者ではない」こういうことは麻雀では珍しくありません。今回の問題なら、打A=1s、打B=9s、打C=3sというところ。「ルールを覚えたての人でも打1sを選ぶことはできるし、むしろ打1s以外を選べない人が多い」「打3sは流儀1の手牌から現物を切る人が選びがちな打牌」という理由で説明がつきます。

 しかし、「打1sしか選べない初心の打ち手」「打3sを選びがちなリスクを恐れる打ち手」がいくら居たからといって、打9sが正着になるかと言えば決してそんなことはありません。打9s自体はやはり、「厳密には下位互換ではない」というだけの損な打牌でありましょう。

 まだ流儀44つのうち2つ目にも関わらずだいぶ長文になってしまいました。次回以降は巻きで進めますが、「麻雀強者の流儀は、流儀という名の拘りであり、拘りはハンデに過ぎない。」「しかし強者はハンデがあっても弱者に勝つ。弱者は能力で劣るうえに、弱者は弱者で拘りを抱えているため。」「拘りから脱却して真摯に麻雀を学ぶ縁に恵まれれば、能力で劣っても拘りを抱えたままの『強者』よりは強くなれる。」このことだけは予めお伝えしておきたいですね。

 

 

  


 

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