ネマタの「裏」麻雀本レビュー第42回『麻雀強者の流儀』編その5

押しの流儀8

 本書では「情報をもらさず見抜く集中力」と表現されていますが、麻雀に限らず、正しく観察する能力が重要であることは言うまでもありません。前提となる情報を正しく把握できなければ、正しい判断が出来るはずもありません。『勝つための現代麻雀技術論』コラムでは情報の観察を「認知」と表現しました。本書の記述と、最強位を獲得するに至った闘牌を拝見するに、筆者の観察力は人並み以上であることは間違いないでしょう。

 自身の観察力にあまり自信のない方は、筆者のような才気ある方の語りより、上記事のような、元々観察が苦手だった人がどのように克服しているかを参考にされることをお勧めします。(上記事で出てくる、「とある強者のホンネ」とは、実は私の発言です。お世辞にも強者とは言えませんが、同程度の戦績を出している人の中では、私ほど観察力に劣る人間も居ないでしょう。)

 しかし、情報を正確に認知することができればそれだけで正しい打牌を選べるとは限りません。むしろ情報過多であるが故に誤った判断を下してしまうこともあります。認知した情報から正しい打牌を選び取る。『勝つための現代麻雀技術論』では「判断」と表現しました。

 そのうえで、「これ切りがよい」と判断した牌を実際に切る必要があります。出来て当然と思いがちですが、判断に自信が持てなくて結局他の牌を切ってしまうことや、オンライン麻雀における時間切れツモ切り、あるいは時間に追われて予定と違う牌を切ってしまうこと。肉体的、精神的疲労からくる誤打など、誰しも少なからず経験があるはずです。自動車学校の教材をヒントにしたので、「操作」と表現しましたが、麻雀なら「決断」という言葉がふさわしいですね。麻雀で勝つための能力を三つ挙げるなら、「認知力」「判断力」「決断力」です。

 前回、「麻雀格言」のお話をしました。格言を知ることは「判断」のためですが、当時の麻雀格言は文字通り解釈すれば誤りとしか言い様がないものが数多くありました。当時の環境で「判断力」を身につけるのは、よほど麻雀というゲームに対してセンスがある打ち手でもなければ難しかったのではないでしょうか。

 「判断力」がおしなべて低いなら、勝つのは「認知力」「決断力」が高い打ち手。筆者が所属していた雀鬼会の掟である、「第一打に字牌を切るな」「ドラはテンパイまで切るな」は、麻雀格言としては誤りの部類ですが、当時はいずれにせよ正しい判断を学ぶことは困難。それなら禁止事項を設けたうえで、「打牌はできるだけ速く行う、長考厳禁。」とすることで、打牌を速く行うための「認知力」を身につけさせ、長考を禁じることによって「決断力」を身につけさせるスタンスが有効に働いたとも考えられます。

 筆者に限らず、「認知力」「決断力」の高い昔からの強豪が、昨今のデータ研究に基づく打法を、「期待値特化の頭でっかち麻雀」などと揶揄する風潮があることが残念でなりません。頭でっかちな麻雀に陥っている打ち手がいることは否めませんが、「認知力」「決断力」に劣り、従来の環境では初心者の域を抜けることが出来なかった打ち手が、「判断力」を身につけることができるようになったことでようやく、「お世辞にも強者とは言えないが、判断のための座学を怠った凡庸な打ち手よりは強くなれるようになった。」というのが実態ではないでしょうか。

 麻雀に限らず対戦ゲームは総合力勝負。実戦経験を積んで「認知」「決断」に自信がある打ち手ほど、「判断」のための座学を学べるように、元々座学に熱心な打ち手ほど、実戦経験を踏まえたうえで、認知力、決断力を身につけられるように。麻雀観の異なる打ち手が対立するのではなく、良いところを共有できる環境が整って欲しいですね。

押しの流儀9

 本書ではフリテンテンパイながらダマで6p(両無スジだが、8pの出が早く5p3枚見えなので放銃率は片無スジ程度か)を押すことを推奨していますが、すぐにベタオリするより楽な道である追っかけリーチはどうでしょうか。

 今回は平和ドラ1ですが、供託が3本あるので平和ドラ2時の判断に近いところ。上記サイトで考察されているように、リーチに分があると考えられます。

 供託無しでも、押し引き表のうえではカンチャンリーチドラ1でさえ概ね押し寄りなのですから、カンチャンよりアガリ率で劣るとはいえ、打点ではリーチドラ1に明確で勝る平和ドラ1なら追っかけに分があるのではないでしょうか。ダマにしても出アガリが利かないのですから、通常リーチ以上にダマのメリットが薄く、局収支で降りるより追いかけリーチが十分勝るのであれば、途中で降りる権利を残す必要はないと考えます。

 本書でフリテンリーチに一切言及されておらず、上記サイトのコメント欄でも異論が出ているのは、「プロスペクト理論」でも説明がつきそうですが、実戦で後手を引いてからフリテンでテンパイした場合、理論上のアガリ率よりは低いものになりやすいということも言えるかもしれません。

 その理由を、「悪形追いかけリーチの是非」で取り上げましたが、フリテンの場合はこれに加えて、「認知力に劣る打ち手のミス(自分で切った牌を見落とす程度の打ち手が残すフリテンターツは場況が考慮されてないのでなおのことアガリにくい)」。「自分で切っている1枚だけでなく、複数枚場に切れて事実上『悪形かつフリテン』になっている場合もある」ということも考えられます。私自身、フリテンリャンメンであることを認知したうえで、それでも追っかけリーチを打ったことは数えるほどしかなく、実戦でそのようなテンパイになった場合は、本書で取り上げられている情報から想定される条件よりも分の悪い勝負になっていることが多く、降りざるを得なかったことが多かったものです。


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