新麻雀徒然草第30回「麻雀プロ試験は難しいのか?」

 司法試験の合格率は約3割だけどプロ雀士の合格率は1割未満のような話が流れてきましたが、もちろんこれはあらゆる「カラクリ」が混ざった、「嘘ではないだけのミスリード」に過ぎません。

 日本で受けられる試験で最も難しいとされてきたのが、2011年頃まで存在した旧司法試験。一次試験から四次試験まであり、一次試験は年齢、学歴、国籍不問で誰でも受けることが可能で、大学二年程度の単位を習得していれば免除。合格率は最も高い時でも4%、最も低い時で1%と極めて狭き門でした。

 現在の新司法試験は、法科大学院を修了したか、予備試験を合格した人のみが受験資格を与えられる仕組み。平成30年度の合格率は過去最大で29.1%と約3割。冒頭の「司法試験の合格率は約3割」というのはここから来ています。

 試験の合格率は、合格に要求される能力と、実際の受験者の能力の違いによって変わることは言うまでもありません。旧司法試験の合格率が低かったのは、合格するために必要な学習量もさることながら、「誰でも受けることができた」ため。新司法試験の合格率がここまで高くなったのは、受験者が選抜されたうえに、法科大学院という形で、試験に合格するための学習を行う環境が整備されたためであります。

 誰でも受けることが可能な予備試験については、合格率は約3%と旧司法試験並みの低さですが、予備試験を合格した人の司法試験合格率は、平成30年度は89.36%と実に約9割。非常に難しいとされる試験でも、そもそも受験可能な人に極めて優秀な人しかいなければ合格率が大幅に上がるというのがよく分かります。

 日本で最も難しい試験が司法試験であれば、最も易しい試験なのが普通乗用車の運転免許試験。少なくとも広く知られている試験の中ではかなり易しい部類で、最も多くの合格者がいる試験であることは間違いないでしょう。

 しかし、教習所に通わずに直接試験を受ける、いわゆる「一発受験」の合格率となると実に5%未満。運転免許を習得するのが易しいのは、試験に合格するための環境が整備されているため。試験そのものは決して易しい部類のものではありません。全体の合格率は60〜70%と言われていますが、合格するまで何度も受けられるのでほとんどの人が免許を習得することができます。免許合宿では最終的に98%以上の人が合格するそうです。

 麻雀で勝つ為には、「どういう時に、どう打つべきか」を知ることが肝心です。選択の一連の手順は、「どういう時か」を情報から正しく把握する「認知」、認知した情報から、「どう打つべきか」を考える「判断」。判断した通りの打牌を行う「操作」の3つの段階に分けられます。 (『勝つための現代麻雀技術論』コラム)

余談1 運転免許の話になったので余談を一つ二つ。私が何度となく用いている「麻雀の選択の手順」は、自動車教習所の教科書が元になっています。麻雀なら「操作」より「決断」がふさわしいのではという話も以前しましたが、決断しても最終的に実行が必要ですから、「実行」がよさそうですね。今後は「認知」「判断」「実行」と表現することにいたします。

余談2 私は筆記試験こそ一発で合格したものの、仮免で4回、本免で1回と実に5回も試験に落ちてしまいました。試験に一発で通る程度には、どうすればよいかという「判断力」こそあれ、「認知力」「実行力」が致命的に足りなかったのであります。最後に通った時も、試験官の先生がものすごく優しくて下駄を履かせてもらったようなものでした。最も易しい試験と言われますが、私にとっては東大入試よりよほど難しかったです(笑)

余談3 運転免許の筆記試験と言えば、「夜の道は危険なので、気をつけて運転しなければならない。× 昼夜問わず、常に気をつけなければならない。」という「悪問」が有名ですが、私はこの手の問題を一度も見ることがありませんでした。実際の問題の画像を挙げている例が出てこないのも気になります。

 私も実際に遭遇したとしたら理不尽な問題だと思ってしまいそうですが、「 4の平方根は2である。× −2も平方根である。」なら数学の問題としては適切。この違いがどこから来るのかは気になりますね。運転免許は非常に多くの人が受けるからこそ、この手のエピソードが尾ひれをつけて残ってしまっているのかもしれません。

 麻雀プロ試験の話に入りましょう。プロ雀士の合格率が1割未満とありますが、今期の日本プロ麻雀連盟のテストは受験者121名中正規合格者33名、育成会合格44名。正規の合格率でも3割以上、育成会を含めれば7割以上が合格しています。

 これでは実体とまるで合っていませんが、麻雀界には様々なプロを名乗る団体があります。「合格率1割未満」はおそらく、経済評論家の勝間和代さんが最高位戦の試験に合格された時のコメントから来ているものと思われます。

 昨年最高位戦を受験した麻雀仲間から試験問題を見させていただきました。私は2010年前後のプロ試験の問題を一通り解いたことがありましたが、当時より難化していたように思われます。「攤牌」の読みを答える問題が出題されたのが印象的。正解は「タンパイ」ですが、一般的な麻雀愛好家であれば正答率10%どころか1%も無いのではないでしょうか。

 麻雀界は試験に合格するための学習環境が整っているとは言い難く、必ずしも麻雀の知識に富む人がプロ試験を受けるわけでもない。運転免許の一発受験のようなものだと思えば、試験が難しく採点が厳しい団体なら合格率1割未満の時期があったとしても妥当なとこではあると思います。

 しかしこのことをもって麻雀界を知らない視聴者に、あたかもプロ雀士になるのが司法試験に合格するより難しいかのような印象を与えたのであれば、悪質なミスリードであるとしか言いようがありません。司法試験に合格した人にはもちろん、真摯に麻雀に向きあう競技プレーヤーにも失礼です。

 今回の件を、演出側の問題であり麻雀界の咎ではないとみる意見も見受けました。私もどちらかと言えば演出側にこそ非があるとの立場をとります。既存メディアが悪質なイメージ操作を行ってきたのは今に始まった話ではありません。麻雀も「悪魔の手先」から度々槍玉に挙げられてきました。

 しかしだからこそ、昨今麻雀界の一部がメディアに不当に持ち上げられていることに対して、拭えない違和感を覚えます。麻雀のイメージアップのために悪魔に魂を売るくらいなら、ずっと悪役のままでありたいものです。

…非難ばかりでは寂しいので提案も一つ。自動車の免許合宿みたいに麻雀合宿をやりましょう。座学の時間以外はひたすら麻雀漬け。免許合宿同様14日間もあれば、一から麻雀を覚える人でもプロ試験を合格できるほどの水準まで知識を身に付けさせることは難しくないでしょう。

 初心者が熟練者と気軽に卓を囲めるのも麻雀の利点ですが、麻雀に関わる分野は実に多種多様。麻雀にまつわる文化や歴史。熟練者にとっても興味深い話を講義に盛り込むことも十分可能です。参加者がそれぞれ麻雀の魅力を発見、確認してゆけるものになれば、麻雀のイメージアップにもつながること間違いありません。


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