ネマタの「裏」麻雀本レビュー第41回『麻雀強者の流儀』その4

押しの流儀5

 「ワンチャンスは打ってよし」という言葉が出て来ますが、ワンチャンスほどあてにならないものもないと考える人も多いと思います。私も文言だけみて突っ込みを入れたくなりましたが、どのような局面を踏まえた「格言」なのかを意識しておく必要がありましょう。

 「ワンチャンスはあてにならない」は、降りている際の安牌選びとしては、ワンチャンスは頼りない情報であり、大概他の理由でより通しやすい牌を選べるものという意味合いで使われることが多いですが、本書では降りている場合の話ではなく、押すことを考える場合の話です。

 押し引き表からも分かる通り、1シャンテンから押すことを考える場合は切る牌の放銃率によって判断が大きく変わります。「1シャンテンからは多くの場合降り」というのは、切る牌が通常無スジと同程度の放銃率を想定した格言。ワンチャンスが頼りない情報といっても、場合によっては通常スジ程度までには放銃率が下がるので、「ワンチャンス程度は押す」となること自体はそれなりにあると言えそうです。

 「ワンチャンスは打ってよし」のもう一つの理由は本書にある通り、止めていてもアガられやすい待ちであるということ。いずれにせよアガられるなら、放銃したとしても損失は少ないという考えです。

 ここまで読んで、「ワンチャンスは打ってよし」の格言が、昔から言われる押し引き判断の代表的セオリーである、「アンコやアンコスジは危険」と対になっていることに気付かされました。

 昨今、「アンコ持ちの牌を切る放銃率は気にしなくてよい」とされるのは、降りたいけど安牌が無い場合の話。次巡以降も降りるからこそ、通ってない牌を複数切るくらいならアンコを落とした方がよいのです。

 一方で押すことを考える場合は、待ちの薄い牌を切ってロンされたり、チーされた結果アガられてしまえば自分のアガリも無くなってしまうのですから、「押し方が複数考えられるので、その中でアンコスジの牌を切る選択は避ける」ケースは少なくないのではないでしょうか。

 麻雀に限らず、格言というものは、「どんな時にどうである(どうすべき)」の「どんな時に」が抜けがち。省略しても文章として通じてしまうのが厄介ですね。

押しの流儀6

 前項目とは「格言」つながりでもあります。筆者は、「昭和の麻雀格言を侮るな」という主張ですが、私個人としては、「昭和に限らず、読み手が意図を汲み取る必要がある格言を(少なくとも書き手に回る側は)安易に用いるべきでない」という立場を取ります。

 将棋にも様々な格言がありますが、言葉通りに解釈すれば「明らかに間違い」としか言い様のないものも沢山あります。しかし将棋に関しては、格言を言葉通りに受け取る人はまず見受けないのでさほど問題になりません。麻雀では何故そうならないかについては上の記事でも書きましたが、麻雀の勝率を高めるためには定量的な判断…(筆者に期待値特化の頭でっかちと言われようと)期待値の追求が必要だからということでも説明がつきます。数字で局面を評価をする必要がある麻雀で、数字を大げさに盛る慣用表現は邪魔にしかなりません。

 また、麻雀は打牌比較のゲームですから、「何と比較して」が抜けている表現も誤解の元です。「早い6切りに7は切るな」とありますが、これは7はペンチャンに当たる可能性があるので、「8に比べれば早い6切りでも7は当たる」の意味なのですが、言葉通りに受け取れば、「早い6切りの7は、6が切られてない場合の7より当たる可能性が高い」と解釈するのが自然ではないでしょうか。無論、いくら7が当たる可能性があると言っても、6が切られていない場合よりは通りやすいので、言葉通りに受け取るなら、やはりこの格言は誤りと言えましょう。

 発話者の意図を汲み取り、意味が正しく通るように解釈する能力は、我々が日常を営むうえで大切なものです。そうした能力に長ける人が、麻雀も上手くなる素質があるということも言えるかもしれません。しかしそれはあくまで読み手の立場の話。書き手の立場であれば、読み手の素質に依らない表現をなるべく心がける必要があると改めて気付かされるのでありました。

押しの流儀7

 「場に4枚目の牌は通りやすい」「宣言牌の裏スジは通りやすい」。「宣言牌の裏スジは通りやすい」については、「最近そういう主張をよく見かけるが…」という旨の文言が入った否定的見解を何度となく見受けました。

 これも結局のところ、「ワンチャンス」「アンコスジ」関連の格言同様、「安全な牌から切ることが求められる降りの段階では信用度が低いが、押すかどうか微妙な段階ではそれなりに信用することもある」という話に終始します。

 筆者は自他ともに認める「押し」型の打ち手。押し型の強豪がベタオリは滅多にしないと豪語する例を少なからず見受けますが、「引き」型の打ち手にとっては、テンパイ料も取れないので最も安全な牌を切る行為もベタオリの範疇。この辺りの表現が噛み合ってなかったのが違和感の正体かもしれませんね。


宜しければサポートお願いします。サポートは全てラーメンのトッピングに使わせていただきます。ラーメンと麻雀は世界を救う!