ネマタの「裏」麻雀本レビュー第45回『麻雀強者の流儀』編その8

第二章 手順の流儀

156m3p889s東南西西白白中 ドラ6p 

 ホンイツはできるだけ目立たない捨て牌を心がけるといっても、それができる手牌、局面になることは少ないもの。オーラスハネ満ツモ条件のラス目(3着でもよいなら1300−2600条件)。筆者はソーズホンイツに絞り、河を目立たなくする打1mを提唱していますが、マンズホンイツを見切る訳にはいかないでしょう。打ち手同様3pから切ります。

289m344778p24568s ドラ6p (下家が3p56mと切っている、自分で1sを切っている)

 筆者はオーラストップ目。クイタン本線で進めるつもりも下家の河を受けてペン7mが強いと判断。「成る程妥当なところ、2sを切ったのだろう」と、初見では読み飛ばしてしまったのですが、筆者が切ったのは9mでも2sでもなくなんと7p。37sをチーしてソーズで2メンツ作るメリットを高く見積もったと思われますが、7pを切って69pに固定してしまうとクイタンにはしにくい。筆者は789の鳴き三色も考慮しているようですがそれは打2sでも同じ。あえて2sより先に切ることはありません。

2345m117p1233789s ドラ西

 拙著『勝つための現代麻雀技術論』は、イーペーコーを見過ぎであると各所から突っ込みを受けましたが、これは平面上の判断と実戦感覚の差と言えましょう。

 残り3枚のカンチャン待ちでも1枚切れのものと、自分で1枚使っているものでは、確かに後者の方がアガリ率が低くなっていますがそれほど大きな差はついていません。残り4枚のカンチャン待ちとのアガリ率の差を踏まえても、今回のようなドラ無しの手牌であれば、イーペーコーの1翻を覆すほどではありません。

 ただし、実戦ではいつも4枚vs3枚の比較とは限らず、極端な話1枚vs0枚なら0枚が不利なのは言うまでもありません。本書のまとめ通り同じ牌は4枚しかないのですから、実戦では4枚vs3枚より枚数が少ない側が不利な比較をすることはあっても、逆は有りません。実戦感覚で自分で使っている待ちの評価が低いのは至って自然なことです。

 実戦感覚でイーペーコーの価値が低くなるのは打点面からも言えます。今回の手牌はドラ無しですが、仮にドラが3枚あったらどうでしょうか。更に言えばオーラスアガリトップだったらどうでしょうか。それならなおのこと1枚差が優先されることになります。

 『勝つための現代麻雀技術論』手組の章は、意図的にほとんどの手牌をドラ1枚以下に揃えました。アガリ率と打点両者を踏まえた手組を取り上げるためには、打点を上げることが効果的にはたらく手牌である必要があると判断したためです。

 また、東1局0本場を想定しているので、「東1局からオーラスまで全て含めたうえでの平均的打牌」に比べれば、打ち筋が打点寄りになると言えます。オーラスアガリトップなら当然アガリ率優先ですが、ラス目でもアガリさえすれば3着になれるならアガリ率優先。東1局0本場以上に打点寄りに打つケースというのは、実はそれほど多くないのです。

 よって、実戦でイーペーコー受けを見切ること自体は多いと思いますが、少なくとも手牌だけの条件なら打7pを正解とせざるを得ません。実戦的な判断については、適宜実戦例を取り上げて考察していくのが現状ではふさわしいのではないでしょうか。

 24568は3と7で3メンチャンができますが、2を切って3を引いても34568が残り、通常のカンチャンよりはリャンメン変化が期待しやすい。少なくとも2456の2を切るロスよりは小さく、2456の2でも3〜7浮き牌より価値が高いとは言えないのですから、その3〜7浮き牌とでも残すことの多いペンチャンとの比較で残すほどではないとみます。

 ペンチャンと浮き牌3〜7の比較。麻雀のデータ研究が行われる前から何度となく議論になっていましたが、単純な浮き牌3〜7とペンチャンなら、(少なくとも1シャンテンの段階では)概ねペンチャン残しが有利と言えるようです。

 しかし、昔から実戦巧者はどちらかと言えばペンチャンを落とす人が多かったように思われます。私自身も、上記の基準よりはややペンチャンを落とし気味に打っています。

 その理由も、「自分で1枚使っているイーペーコー目を低く評価しがち」と同様ではないでしょうか。4枚切れのペンチャンに価値はありませんが、周辺牌が4枚切れた浮き牌はまだまだメンツが作れる可能性があります(むしろ場況から強いターツができやすいと言えるかもしれませんね)。

 筆者が24568の形を高く評価するのも、ペンチャンの価値を低く見積もる人ほど、同様の理由で3メンチャンの価値は高く見積もるということで説明がつきそうです。雀鬼会がツモアガリを尊ぶ流派であることも影響しているのではないでしょうか。

 私が何切るの記事を書く際に何度となく使わせていただいている、「ツモアガリ確率計算機」。計算機と言うと何となく棒テン即リーチのイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、「ツモアガリ」前提ということもあり、「シャンテン数+1枚交換」にすると、意外なほど悪形ターツを落としてシャンテン戻しをする選択が有力になり、多メンチャン待ちに高い評価がつきます。

 よって私も計算機の結果を鵜呑みにするのではなく、先手を取りやすい選択をやや贔屓目に見積もる(5巡目でもツモ13回ではなく、和了平均巡目が11〜12巡目なのでツモ6〜7回を参照するなど)ようにしていますが、この辺の調整は正直「実戦感覚という名の何となく」でやっているとしか言いようがないですね。

練習問題

12345m13456p北北白白 ドラ白 2巡目

 この手牌から打北を正着としているところに、筆者の実戦感覚がよく表れていると言えます。枚数が少なく変化の無い字牌シャンポンが、テンパイ以前に枯れてしまうことを恐れる一方で、手変わりしやすいピンズカンチャンを高く評価しているのです。

 しかし打1pとしたところでピンズの変化は残せますし、何より北が切られる前に36mを引いた時に明確に差がつくのですから、やはり正着は打1pと言わざるを得ません。

 私はよく、「一手先が見えれば十分」という話をします。世の麻雀打ちには、「一手先も見えてない人」が多くいます。そのような人に比べれば筆者のような、「何手も先が見える人」の方が強いのは言うまでもありません。

 しかし人には確率の低い事象は過大評価し、確率の高い事象は過小評価する傾向があります。「何手も先が見える」と、一手先のことを過小評価し、何手も先のことを過大評価しがちになってしまうのですね。何手も先が見えるようになるに越したことはありませんが、何を切るかの判断はあくまで一手先の事象を優先的に考えて行うようにしましょう。

 ところで麻雀で「37%」に相当する事象は何かと気になって調べてみたところ、『統計学のマージャン戦術』38pに、5〜12巡目の場に0枚見え無筋456カンチャンのアガリ率が37%とありました。場切れを考慮しないカンチャン待ちの中で最もアガリにくい部類。昨今の麻雀戦術本を読んで先制リーチの優秀性を意識できている人でも、リーチを打つのをためらいがちなラインかもしれません。

 私は麻雀のデータ研究に触れる前、カンチャンリーチはほとんど打たない打ち手でしたが、たまたま残った2枚切れペンチャン等、かなり悪い待ちは何故かよくツモれるような感覚は今でもあります。それも「37%の法則」で説明がつきそうですね。


宜しければサポートお願いします。サポートは全てラーメンのトッピングに使わせていただきます。ラーメンと麻雀は世界を救う!