見出し画像

ネマタの「裏」戦術本レビュー第37回『麻雀の基本形80』編

本書に対する私の見解

 以前から問題について異論が出ているとありますが、私の過去の日記を掘り返してみたところ、発売日の5日後に異論を挟んでおりました。現在も基本的な見解は変わっておりませんが、12番目の問題は打8sより打7mが良さそうですね。

 『麻雀の基本形80』に対して、「極上のワインに一滴の毒が垂らされている」という表現がされていますが、本文中の表現を借りるなら、本書はあくまでサイゼのワイン。しかし中に極上のワインを醸造できる高級素材が紛れてしまったとでも言うのでしょうか。こんな高級素材を100円グラスワインにするなんて勿体ないと、味にうるさいソムリエがケチをつけたというのが真相です。本書の誤りは、高級素材使用を謳って実際は紛い物だったとか、不味いものを美味いと言い張った類の誤りではないので、どうぞ安心してお飲み下さい。

 (一方、本書の数ヶ月前に発売された、『勝つための現代麻雀技術論』は、そのソムリエとやらが全世界から高級素材ばかり集めて蘊蓄を垂れ流したものに、こんな滅多に口にできないものばかりじゃなくて、安くて美味いワインの話をしろと醸造家からお叱りを受けながら執筆した麻雀本なのであります(笑))

 本書の問題で異論が起こった原因は、「手役、ドラ」や「メンツや雀頭やターツが入り組んだ複雑な形」が意図せずに紛れてしまったためです。料理で言うところの高級素材や珍味。基本的な料理のレシピを解説するつもりだったところに紛れ込んだために、「この素材はこう調理した方がもっと美味くなった」のような、味にうるさい人から異論が出る問題が出来てしまったのであります。

 こうした異論を防ぐために、例えば、「23322」(1雀頭2メンツ2ターツ)の1シャンテンなら、2メンツのうち1メンツは客風刻子(平和、タンヤオを消す)、1メンツは順子で123か789以外を使う(トイトイ、チャンタを消す)、2ターツの中に順子と別の2色目の牌を使い3色目は使わない(三色を消す)、雀頭に3色目の牌を使う(ホンイツ、役牌を消す、3色と字牌全て使うことで複雑な形にもなりにくい)、ドラはメンツと別の客風という方法が考えられます。

 この方法を用いれば意図しない牌姿ミスは防げますが、そればかりを徹底すると、何とも味気のない手牌ばかりが並んでしまうのが難点。これでは読んでいてもつまらないというだけではなく、実戦で役立つものとも言えないのではないでしょうか。高級素材や珍味と申しましたが、実戦ではそうした素材に出くわさないほうがずっと珍しいもの。個人的にはたとえ初心向けの麻雀本だったとしても、応用的でも実戦向けの内容に自然と触れられるものが望ましく、結果的に異論が出る問題が出てしまうのはやむを得ないと考えます。

基本形を超えた問題にいかに取り組むか

 問題があるとすれば、本書に限らず、初心向けの内容から麻雀を学んだ打ち手が、どのタイミングで応用的な内容を学べばよいかが明記されることが無いということにありましょう。私としては、下手に初心向け、上級向けと戦術を分けるのではなく、たとえ難しい問題になっても、問題を解くためのアプローチは基本問題と変わらないということをお伝えしたいと思っております。麻雀は様々な人が様々な環境で学ばれているので、深い知識を持ち合わせているにもかかわらず初心クラスの人もいれば、実力者なのに基本的知識が抜け落ちてそうな人も結構いたりするのです。

 こちらでも取り上げた「たった1つのアプローチ」を、今回異論が出た問題に対しても適応してみましょう。

画像1

 候補は打3pと打1sですが、いずれにせよ67pのリャンメンは残しますね。それなら58pを引いた場合に着目しましょう。これがどんな何切るにも通用するアプローチです。

 特に条件がなければ、打3pとして58pツモでも、テンパイに取らず打1sとして手変わりを狙うのではないでしょうか。それならこの時点で打1sとして、手変わりを最大限にみるのが正着とみます。もし何らかの情報を理由として、「カン2sでもテンパイに取った方がよい」と判断したのであれば、その時は打3pとすればよいでしょう。単に手牌だけ見て答えを覚えるのではなく、どんな局面で判断が変わるかも意識できるようになればなおのこといいですね。

画像2

 候補は打7m打9p打8s。いずれにせよ34pのリャンメンを残すので25pツモに着目。アガリやすいのは69m7s発受けが残る打9pですが、ドラ無しの手から三暗刻がついて満貫になる受けの価値は高い。三暗刻受けを残しつつ7sでもテンパイに取れる打7mが有力とみます。

 打8sよりは打7mに分があるとしましたが、打9pとするほど打点が不要というわけではないが、発が出るようならポンしてのみ手でよしの局面とみるなら打8sも有り得ます。

画像3

 688p99sにすれば問題の意図は成立していましたが、68899pとしたばかりに打6pとしても7p受けが残る形になってしまいました。688+99だけでなく、68+899とも解釈できることがポイントです。

 では688p99sなら何を切るかを考えますが、これでも打9sよりは打6pでしょうか。こうすると36sツモで、688pと8p99sの比較で7p受けだけ差がつきますが、9s白をポンして手を進めることが出来ることを踏まえると、アガリ率にはさほど差がつかなそうです。

 一方、打6pならチートイツ2シャンテンでもあります。この手はメンツとしては3シャンテンで白ポンで手が進むとはいえ2000点止まり。オーラス2000点でもアガればトップならともかく、特に条件がなければやはり打6pとします。

 話が前後しますが、今回のように共通の36s引きであまり差がつかないのであれば、そこで打6p、打9pそれぞれ固有の受け入れを比較するようにしましょう。「何切るで答えとされていたものが実は間違っていた」というのは本書に限らず色々なところで見受けますが、(著者の知識不足以外で)よくある理由の一つ目は、「固有の受け入れ比較に終始して共通の受け入れ比較を軽視」することにあります。

画像4

 打5mリーチ。問題の意図を成立させるなら中トイツを客風トイツにすればよかったですね。

 『統計学のマージャン戦術』の前身にあたる、『統計で勝つ麻雀』は2015年6月刊行ですが、そのまた前身として近代麻雀の付録の小冊子に先制の両面リーチと字牌待ちリーチの和了率はほぼ同じであるというデータが記載されていました。実はその小冊子に関しては本書より少し前に刊行されていたので、この問題に真っ先に突っ込みたくなったことを今更ながら思い出しました(笑)

 では打6mリーチを選ぶとすればどんな場合か。出アガリ2600でも余裕のあるトップ目で、ラス目が無理矢理ホンイツや国士を狙っている、もしくは赤5pに5000点相当の祝儀がつくので、これ以上素点を稼ぐより祝儀が3倍になるツモアガリを狙いたい等、該当局面自体は容易に想定できます。今回の問題でリャンメン受けを正解にするのは単なる知識不足と言ってしまえばそれまでですが、データと実戦派の実力者の感覚に乖離があるのも、こうした理由で説明がつくとも言えそうです。

画像5

 候補は打4sか打7s。25pツモで打4sなら58s待ちに受けられますが、5m36s待ちでも枚数は同じ。ここは大差ないとみてよいでしょう。

 よって打4sと打7sそれぞれ固有の受け入れを比較。打7sならツモ5sで一盃口、ツモ5m4sで三暗刻。アガリ率に大差ないのですから、この打点は無視できません。打7sがよいでしょう。

 本書で、「456667s」はイケメン君と紹介されましたが、この牌姿における、「445666s」は言うなればフツメン君だけどお金持ち。麻雀はお金を稼いで順位を競うゲームですから、あなた自身がよっぽどお金に困ってないというのでもなければ、交際相手はお金持ちを選んでおきましょう(笑)

 更に余談になりますが、本書の後身にあたる、『「牌効率」入門ドリル76」では5sが赤ドラになっていました。こうなると三暗刻が完成しても赤5sを切ることになるうえに、そもそも元々が高打点なのですから打4sです。

画像6

 打4mと打7mの比較は2p引きが差がつかないので、次は共通のマンズ引きを比較。ツモ6m時に打1pとして4567mの4連形が残ることから打4m推奨とされていますが、ツモ6mを比較ならそのスジのツモ3mも比較して然るべきところ。ツモ3mなら3445mの中ぶくれ形が残る打7m有利です。 ツモ2m(打7mとして22244赤5mが残ればツモ3mで346m待ちテンパイ、ツモ4mで356m待ちテンパイ)時も打7m有利です。

 固有の変化にも一応着目しておきましょう。打4mならツモ8m打1pで二度受けながらリャンメンができる変化がありますが、打7mにはツモ4m5mでそれぞれ打1pとする変化があります。ツモ4mは赤5mを切る受けがあるとはいえ、3メンツあるくっつき1シャンテンなので受け入れ枚数は大差。ツモ5mの44赤55mは受けこそ狭いですが、ツモ36mならタンピン高めイーペーコー。打点差を踏まえれば打4mツモ8mに劣らないと言えそうです。

 共通でも固有でも打7m側に有力な変化が多いのでこちらが有利とみますが、わざわざ調べ上げなくても、4457mならメンツになる受け入れが多くなるように打7mとすればよいだけのこと。本書で打4mが推奨されたのは、よくある誤答の理由の二つ目、「安目を拒否するあまり、安目を受け入れた先に残る変化見落とし」からくるものと思われます。

 確かに実戦では44赤5mの形から赤を使い切るために4mを切るのは守備的要素込みでよくあることですが、44赤5mから1メンツしか作らないとは限らないですし、そもそも4m以上に不要な牌があることも少なくないのですね。

 445mの4mはフォロー牌でもあり浮き牌でもあり、457mの7mは浮き牌でもありフォロー牌でもある。この発想を押さえておくと、一見不要だからと手拍子で切ってしまうミスも防げるようになると思います。

 打4mと打7mの比較をしましたが、平和よりタンヤオがついた方が高打点になるので打1pも候補になります。誤答の理由としてよくあるものの三つ目が、「二択と思い込んで第三以降の選択見落とし」。優劣はともかく、打牌候補には入れておく必要があります。

 打1pも打7mもツモ36mはテンパイ取らずを選びますが、この時打1pはツモ6mならマンズ4連形を残せるのでやや有利。ツモ24mに関しても、打1pならリーチツモで満貫に届くテンパイに取ることができます。

 マンズ引きを比較しただけなら打1pが有力ですが、打1pはツモ2pでメンピンドラ1のテンパイ逃し。打点と待ちの兼ね合いで、カンチャンリーチタンヤオドラ1より、メンピンドラ1が有利。「共通の受け入れを固有の受け入れより先に比較」と言っても、4457mのような二度受けをあえて残す選択をとる場合は、固有の受け入れを重視するケースも増えます。

 そのうえで、打1pはピンズ引きの変化で打7mに劣ります。打7mならツモ9pの一通変化、ツモ8pで134566788のリャンカン変化、ツモ5pで134556678pのリャンメンカンチャン変化。それぞれ打4mとして赤5m含みのリャンメンを固定しつつピンズが変化することでよりよい形が見込めます。ここでの打1pも、「安め(タンヤオがつかない)拒否のあまり、安めを受け入れた先のピンズ変化逃し」という点でやや損な選択とみます。初心向けの問題にしてはギミック満載なうえに、意見が分かれやすいものが本書の表紙を飾ることとなったのは、「表紙を飾る以上、見た目のよい牌姿が選ばれやすいが、見た目がよいということは、それだけ異論が起こりやすい牌姿になりやすい」という理由で説明がつくでしょうか。

 解説という形式を取ったので長文になってしまいましたが、何切りが良いかを選ぶだけであれば、さほど高度な知識は要求されず、比較のためのアプローチこそが重要であるということを御理解いただければ幸いです。

宜しければサポートお願いします。サポートは全てラーメンのトッピングに使わせていただきます。ラーメンと麻雀は世界を救う!