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雨天決行、覚悟を描く

2023年5月14日

この夜を迎えるまでのこと、当日のこと、感じたこと、そしてこれからのこと。

全部忘れないように、大切に思い出せるように、記しておこうと思う。

(MCはあくまでニュアンスです。記憶をかき集めて文章にしています。ご了承ください。)



sumika 10th Anniversary Live 『Ten to Ten to 10』 @横浜スタジアム


10年間の軌跡を辿り、想像すらしなかった現実と向き合って、未来を見つめた夜。

降りしきる雨の中、33000の“1人”に向けて彼らが語ったのは、大きな愛と覚悟だった。



———2022年11月1日 『Ten to Ten to 10』開催決定

sumika結成10周年を祝うライブの開催が公表された。会場は横浜スタジアム。

幸せ溢れる光景をすぐに想像することができた。

客席を埋め尽くすのは皆sumikaを好きな人たち。空はどこまでも高く澄み渡った天色で、次第に心が落ち着く瞑色の夜を迎える。ステージを照らす無数のライト。心弾む演出。鳴りやまない大きな拍手と歓声。思わず溢れる涙とそれを包んで余りあるたくさんの笑顔。そしてステージには、誰よりも楽しそうに嬉しそうに、なにより幸せそうに音楽を放つsumikaの4人。

この思い描いた光景は現実になる。ああ、なんて楽しみなんだ。2023年5月14日が素敵な夜になりますように。


そう信じて疑わなかった。そもそも信じるという考えすらよぎらないほど、その未来を確信している自分がいた。



———2023年2月24日 黒田隼之介さんの訃報が告げられる。

想像もしなった現実が突きつけられる。何が起きているかわからなかった。信じられない。何を言っているんだ。文字は読めている。書かれた言葉の意味も分かる。けれど理解ができない。1月のTen to Ten大阪公演に行って、その時いつものレスポールを掲げながら「見てください!ワイヤレスになりました!これからはどこにでも行けます!!」と笑顔で話してくれた。1週間前にツアーファイナルを迎えたばかりだった。それなのに、あの隼ちゃんが亡くなった?訳がわからない。冗談だと言ってよ。嘘だと言って。この気持ちは怒りでも悲しみでもない。持ちうる語彙をひっくり返して探しても、この感情を表す言葉が見つからなかった。ただたしかに負の感情が心を埋め尽くしていた。けれどひとつだけわかっていることがある。sumikaは人が傷つく嘘はつかない。ずっと応援してきたからこそ確信をもって言える彼らの美点を、この時ばかりは憎んでしまった。

改めて公表されるお知らせと3人のメッセージ、更新されることのない隼ちゃんのSNSに、嫌でも現実だとわかってしまう。そうか、そうなのか。信じる者は報われるなんてどこかの誰かが言っていたけれど、そもそも想像すらしなかったことは信じようがないわけで。こんなことを信じたくないと願ったところで、そんなものは叶わないし報われるわけもないんだよ。あの笑顔はもう見れないのか、あのギターヒーローはもういないのか、受け入れなきゃいけないのか。
あれ、sumikaって、続くのかな。
ここまで考えて、未だ涙は出てこない。訃報を受けてから1週間が経っていた。事実を知っても、理解はできず、受け入れることはできなかった。

sumikaに出会って8年。不安、迷い、自分ひとりじゃ抱えきれないものがある時、sumikaの音楽を聴く人生だった。これから私はどうしていきたい?何を感じている?何を大切にしたい?sumikaの力を借りて、自分の進む方向を選択してきた。この時も例外ではなくて、この不安をなんとか落ち着けるように、これまでのMVをすべて再生していく。夢を目標にできた、勇気をもらった、踏ん張れた、立ち向かえた、笑顔になれた。曲の分だけ思い出がある。そこに映る4人をみて穏やかな気持ちになったけれど、この姿を見ることはもう一生できないのだと唐突に理解して涙が溢れた。
公式からのお知らせもメンバー3人のコメントも、すべて文字の羅列としか思えなかった。どうにか心を落ち着けたくて再生したMVに、溢れ出した涙はもう止まらない。再びsumika公式からのお知らせを開き、まっすぐに文字と向き合う。今度は文章として、受け入れることはできなかったけれど、ただ現実として理解する。この日は一人嗚咽しながら夜を明かした。


3人のコメントに書かれた「sumikaとして歩いていきたい」という言葉に正直安堵した。解散だって十二分にあり得ると思っていたから。ただメンバー含めスタッフチーム関係者の方々、全員の心がとても気掛かりだった。もしかしたら私たちファンの気持ちが重荷になるのではないか、応援はしたいけど活動の強制はしたくない。sumikaを続けてくれることはとても喜ばしいことだけど、それでsumikaが傷つくなら、いっそなくなってしまってもいいと思っていた。ファンを名乗っているのにこんな失礼なことを書き残してしまうのはよくないことだとわかっている。けれど私は、もう一生姿を見ることができなくてもいいから、音楽をしてくれなんていわないから、ただ独りにならずに、どこかで誰かと笑って過ごしてもらいたい。ただそれだけを願っていた。
隼ちゃんがいないこの現実を理解してから、ただみんなに生きていてほしいと願うばかりだった。それだけだったから、活動の再開は強くは望んでいなかったのが正直な気持ちだ。会える日を待っている自分、それ以上に期待を枷にはしたくない自分、次のお知らせがあるまで、まずは自分の心を守ろうと決めた。



———2023年3月7日 スケジュールのお知らせ

sumika[camp session]のライブ中止と、ドキュメンタリー映画の公開延期が発表された。

悲しみが心を侵しても、時間は変わらず流れていく。きっとたくさんの決断をしなければならなかったことだろう。それは私のような一ファンが想像するには余りあるものだ。事実上の活動休止発表となったこの報せに、ただsumikaに関わる全ての人の心と身体の安寧を願うことしかできなかった。己の無力さに腹が立つ。



———2023年4月4日 ライブ活動再開

メンバー4人のSNSの通知は未だ鳴らない。気にしないフリをしながら、日々を生きていた。生活の中に当たり前にあったsumikaの音楽は、MVをみて泣き明かした夜から触れることはできなかった。新譜やタイアップ情報のみが更新される公式ツイッターから、お知らせが届く。
【ライブ活動再開のお知らせ】続く文面になぜだか逃げ出したくなる衝動に駆られたのは、未だ信じたくないと願う最後の抵抗だったのかもしれない。けれど前に進む選択をしたsumikaから目を背けることはあまりに失礼であることもわかっていた。飛び出してしまいそうな心臓を抑え、改めてお知らせに目を向けた。
sumikaが活動を再開する。改めて発表される10周年ライブとたくさんのフェス出演情報。待ちわびた報せを嬉しく思う。おかえりなさい。だけど、私は3人のsumikaを見ることができるのだろうか。一度よぎってしまった不安は、自覚した瞬間心の奥で深く根を張り、何度も何度も問うてくる。大丈夫だと言い切れない自分に嫌気がさした。


フェスでの活躍が続々と更新される日々。勝手に活動再開後初のライブは10周年ライブだと思っていた。本当に勝手に。そして勝手に傷ついていた。大切な再出発がワンマンではなくフェスだということがなぜかすごくショックで、そして悲しかった。
音楽を仕事にする意味を分かっているつもりだった。だけど3人としての活躍も、笑顔の写真も、見ることができなかった。そこにいるはずのもう1人を探してしまって苦しくなったから。もう十分わかっていた。4人のsumikaにはもう二度と会うことはできない。受け入れた気持ちでいた。何度もよぎった不安は、やはり正しかったのかもしれない。嫌な感情ばかりが浮かんで、写真に写る笑顔の3人に目を背ける。自分の心を守るために、初めてSNSの通知を切る。大好きな人たちが前に進んでも、それを応援していたはずの私はまだ同じところで蹲っているだけだった。



心境が変わったのはGWも明ける頃。本格的に10周年ライブのお知らせが更新されるようになってからだった。ライブまであと1週間と迫る中、未だ前を向けないままだったのに、ふとFCのradio sofaを聴く気になる。
4月3日公開、3人だけの声を受け入れることなんてできないと目を背けてそのままにしていた。なぜだか今なら聴ける気がして、再生マークに指をやる。何度聴いたって隼ちゃんの声はなくて、片岡さん、バロンさん、おがりん3人だけの声だった。それぞれが思ったこと、隼ちゃんへ想い、そしてこれからのsumikaの進む先。自分たちの気持ちを整理するように、ゆっくりと話す3人に、いろんな気持ちがぐちゃぐちゃに絡まってしまった心がほどかれていくのを感じた。

「悲しい、寂しい、苦しい気持ちは変わらない」

「それでも、黒田隼之介は最高のギタリストであり、最高の作曲者であり、最高のミュージシャンであり、最高のメンバーであり、最高の友達であるということは一生変わらない」

「atticroomは全員味方の安全地帯」

「こんな時だからこそステージに立ちたい、音楽がやりたい」

「みんなで楽しく生きたいね」

「笑いたいときには笑って、泣きたいときには泣こう」

3人の飾らない言葉と笑い声に、気付けば笑みが零れる。そして流れる曲は「春風」

あの泣き明かした夜以降、久しぶりに聴いたsumikaの音楽。あの時あの場所に思いを馳せながら、前を向く春の曲。やっぱりsumikaが大好きだ。

これから先、sumikaには黒田隼之介というメンバーがいたことを知らない人だってあらわれる。それ避けようがないだろう。ただ知っている人だけが知っていればいいと語る彼らに、これから歩んでいく“sumikaの3人”としての覚悟をみた。

目を背けてしまってごめん。素直に応援できなくてごめん。受け入れられなくてごめん。

たくさん謝りたくなってしまったけれど、それを伝えるのは失礼だと思った。

おかえりなさい。気持ちを話してくれてありがとう。受け入れることはできないし、きっとこれから先もできないと思う。だけど、あなたたちのおかげで気持ちの整理がついた。

4月4日からずっと同じところで蹲って動けなかった心が、5月14日に向けて、やっと顔を上げた。



———2023年5月14日 『Ten to Ten to 10』開幕

radio sofaを聴いた日から、少しずつ心に余裕ができて、素直にライブが楽しみだという感情が大きくなっていた。まだ怖い気持ちは少なからずあったけれど、前を向くsumikaの姿がみたいという想いのほうが何倍も大きかった。
横浜スタジアムに向かう道中、イヤホンから流れるのはたくさんの思い出が詰まった曲たち。
さあ、sumikaに会いに行こう。



会場には溢れかえるほど多くの人。この全員がsumikaのことが大好きで、今日ここに会いに来ている。それぞれが思い思いのグッズを身につけて、ワクワクしている様子が伝わってくる。それだけでなんだか嬉しくて、少しだけ涙ぐんでしまう。


開場までの時間、たくさんの友人と再会する。みんなsumikaがつなげてくれた縁で出逢った大切な人たち。今回は私も遠征組として横浜スタジアムに足を運んだ。関西でみるsumikaが大好きで、そこに住む人たちが大好きで、自分もその一員になりたくて、就職を機に神奈川から一人で関西移住を決めた。関東に住む友人たちとは随分会っていなかったが、やはり私の大好きな人たち、会ってしまえばあの頃のようにはしゃぎあった。
思い返せば遠征ばかりしていて、関東でみるsumikaは4年ぶり。その舞台が横浜スタジアム。胸の高鳴りが止まらない。


怪しかった雲行きが、開演間近についに雨を降らす。これまで観てきた野外でのsumikaは雨だった記憶がないので、「晴れバンド」と呼ぶ人も少なくない。こんな日に限って、初めて冷たい雨に打たれた。けれど会場は彼らを心待ちにする人たちの気持ちで溢れてあたたかかった。本当に楽しみだ。



16時20分 BGMが止み、一斉にステージに視線が集まる。

ステージの大きな画面にsumika結成10周年を辿る映像が映し出される。登場した3人は客席に向かい深く一礼、そんな彼らを会場全体が大きくあたたかな拍手で迎えた。いつもの下手側に笑顔が眩しい大好きなギタリストの姿がないことに、現実を突きつけられる。そこに置かれるギターに鼻の奥がツンとした。


「ワン、ツー!」


一曲目を飾るのは「雨天決行」何度も救われた大好きな叫びでライブの幕が上がった。4分割画面に映る片岡さん、バロンさん、おがりん、そして隼ちゃんのギター。sumikaは4人であると叫ぶように、再出発の音が鳴る。


「Lovers」「フィクション」ライブ序盤からトップギア。sumikaの熱に応えるように、会場一体となって一糸乱れぬ手拍子と掛け声でそれぞれがステージへと想いを投げ返す。

「ふっかつのじゅもん」が鳴る。ギターソロがある。ああ、どうしよう。目を背けたい。けれどその時になって、長めの間奏。片岡さんが下手側に歩き出し、少し笑ってから隼ちゃんのあのストラップの短いギターを構えた。かき鳴らされるギターソロ。客席から大歓声が上がる。ありがとう。涙が止まらなかった。

「隼の代わりをやろうとか、そういうのは捨てようと思います。一曲やって気付いた。ギターが難しすぎる。そりゃあのポジションにもなるよ。弾いたらね、俺歌えないよ」

笑って話す片岡さんと、それを笑顔で見守る2人。

「あんなにすごいギタリストの代わりができるわけないじゃん。だからやめるよ。今日はスタッフチームの力を借りて、隼の音も鳴らそうと思ってる。だけどやっぱりライブは生ものだから、生演奏が醍醐味だから、俺も頑張ってギター弾くし、ゲストメンバーの力も借りて、悲しい空白より、ポジティブなクエスチョンに変えていきたい。これからも音楽を作っていきたい。」

この言葉に、sumikaが見据える未来が明るいものであることを確信した。


たくさんのゲストメンバーの奏でる音の重なりと、すでに興奮冷めやらぬ客席。sumikaの3人の演奏にもより一層熱が入るのが伝わってくる。「ソーダ」のバロンさんが魅せたドラムソロがあまりにかっこよくて見惚れたらしい片岡さん、歌の入りを失敗してしまい「もう一回やっていい?」と言い出したのには、メンバー含め会場全体が笑顔になった。


雨が降ろうとお構いなし。花道を堂々と歩き、高らかに歌う片岡さんの姿に皆目を奪われる。屋根のないセンターステージでびしょ濡れになってもなお、楽しげな表情が忘れられない。


「寒くないですか?大丈夫?」「こんな中来てもらってね。愛されてるね、ありがとうね」

MCパートのたびに観客を気遣う姿があまりにいつも通りで、安心からまた笑みがこぼれる。

「これまでのsumikaじゃ想像もしなかったくらいの曲数やります!!」

大きく予告してから、sumikaは[camp session]へと姿を変える。

準備までの間、「トイレ休憩とかね、安心していってきてね。」

気遣う言葉に心が温かくなる。

「俺も行ってきていい?」と片岡さん。やっぱりゆるくて笑ってしまう。

ゲストメンバーとともに花道を歩くおがりんとバロンさん。

「どーもー!ね、はい、どーもどーも!」

「ねえ、ありがとうございます。ね、寒いのにね。あ、どーもどーも、ね」

2人が笑顔で手を振りながら歩く姿はなんだか漫才師のようで笑ってしまったけど、それでもやっぱりもう1人を追ってしまう自分がいて。やっぱり1人足りなくて。そこにいたらきっと誰よりも弾ける笑顔で大きく手を振っていただろうな。こんなに容易に想像できるのに、どこを探したって見つからない。私たちの大好きな人はもう見れなくて。苦しいなとまた思ってしまったことは、野暮になるんだろうか。寂しいね。


「点火!」掛け声とともに、センターステージに炎が灯る。炎を囲んで座るその光景は、その名を関したキャンプファイヤーのようにあたたかかった。

雨が強くなり屋根を設置する間、「じゃあステージに戻って1曲歌います」「突然やるから、やれるメンバーはついてきて」片岡さんの突然の提案に胸が高鳴る。
歌いだされたのは、「ここから見える景色」
随分と久しぶりに聴いた曲。ありがとうと強く思い、また涙が溢れた。


「ミュージックビデオを作って公開できていなかった曲です。今日はそのミュージックビデオと一緒に、初めてライブで演奏したいと思います。」

放たれたのは「IN THE FLIGHT」
映るMVには笑顔の4人。テーブルを囲んで乾杯する楽しい映像に、やっぱり悲しくて、一生このままでいてほしかったなんて。大丈夫、今なら見ていられる。しっかりとまっすぐに見届けた。


ゲストメンバーとバロンさんがステージを降り、片岡さんとおがりんの2人だけ。やさしく美しい音で鳴らされたのは「溶けた体温、蕩けた魔法」
心の奥深くまでじんわりと沁みて、気持ちが溶かされていくような、目を瞑って聴きいった時間だった。


気付けば空も暗くなってきた後半戦。

「後半戦、準備はできてるかー!!」片岡さんの煽りに観客が歓声で応えた瞬間、爆発音とともにかき鳴らされる「絶叫セレナーデ」

「マイリッチサマーブルース」では雨で湿った重たいタオルをぶん回す。色とりどりのタオルが客席を彩る。壮観な光景。ああ、この腕の痛みが愛おしいんだよ。

「曲がありすぎるから、ちょっとずつでいっぱいやっていいですか!」

何を言い出すかと思えば、かき鳴らすは7曲メドレー。
「The Flag Song」「チェスターコパーポット」「KOKYU」「ライラ」「Jasmine」「Late Show」「Lamp」
巨大風船が客席を飛んだり、火柱が上がったり、演出てんこ盛りで客席のボルテージは最高潮。会場全体が笑顔で溢れていた。



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奇跡みたいな夜だね。正直今日は予定してたことと全然違うんだけど、それでもいい意味で奇跡みたいな夜になったのは、どう考えたってあなたのおかげです。めちゃくちゃいい表情を見せてくれて、音を聞かせてくれて、俺は今日寂しくない。

もう明後日だね。5月17日で俺たちは結成10周年を迎えます。正直こんな気持ちで10周年を迎えるなんて思いもしなかったけど、そのおかげで気付けたことがあります。

10年前はただ歌が歌いたくて、ただバンドがやりたくて、作った曲を聴いてほしくて、軽音楽部の延長線でバンドを始めました。だけど今は、俺はsumikaの音楽が歌いたい。その気持ちと同じくらい、俺はsumikaの音楽を聴きたいです。俺はバンドメンバーでボーカルでもあるけど、10年かけてどうやらsumikaというバンドのファンになってしまったみたいです。だからめちゃくちゃつらいことがあったときに、歌を続けたいという気持ちより、sumikaの曲が聴けなくなることのほうが嫌だったんだよね。作った曲を悲しい記憶で塗り替えて、俺の大好きなバンドの記憶が途切れてしまうことだけは絶対に避けたかった。

だから俺は智くんが作った曲を聴くし、おがりんが作った曲も聴くし、黒田隼之介が作った曲も聴く。俺が作った曲も聴く。その日々を俺はまだ続けていきたい。そして俺がファンになったsumikaというバンドが崩れないまま、売れるか売れないかはさっぱりわからないけど、メンバーが命を燃やして作った曲だけは世の中に残ってほしい。33000人だろうが、3人だろうが関係なく、目の前のあなた1人に向けて、命を燃やし尽くしてライブをやるバンドであってほしい。俺は一生そんなバンドのファンでいたいです。

人生がいつ終わるかわからないけど、人生が終わってしまうときに、「sumikaというバンドのファンで本当に良かったな」と思って人生を終えたい。だから俺たちは、まだまだsumikaを続けます!!!


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声を荒げながら、まさに命を燃やしてそう宣言する片岡さん。見守る2人の目にも同じ意思を感じる。その気持ちを素直に伝えてくれる、sumikaのファンで本当に良かった。

続く曲は「明日晴れるさ」
隼ちゃんが作詞作曲を手掛けた、彼の為人があふれるやさしさが詰まった曲。隼ちゃんありがとう。これまでもこれからも大好きだ。


しっとりと優しく少し悲しい空気が会場に漂ったところで、「俺たちらしい曲をやろう!」笑顔の片岡さんが叫んだ。

「Shake & Shake」で再び満開の笑顔、ステージはあたたかなオレンジ色に染まり終演にふさわしく「オレンジ」が鳴る。
今だからいえる話で、リリース当時の心境からオレンジはあまり好きではなかった。けれど時間の経過は不思議なもので、親元を離れて聴くと沁みるものがあるんだなと。sumikaっていい曲ばかりだね、本当に。良い夜だ。


アンコールを求める拍手が響く中、再び登場した3人。スマホライトのことに少し触れ、「怒らないでね。スマホ禁止っていうルールがあるけど、悪い気持ちでやってくれてるわけじゃないからさ。実際きれいだなと思うし、俺らも嫌な思いしてないしね。今回作ろうとしたんだよライト。けどさ、ね、わかるでしょ?いろいろあったんだよ、大変だったの!」
笑って話す片岡さんと、そうだねって頷くメンバーに、そんなこと言わせてしまって申し訳ないなと。それでもこうして伝えてくれるところが好きだよ。ライト楽しみにしてます。全力で振らせていただきますのでね。楽しみにしてようね。

奏でる新曲の「Starting Over」は未来への希望に満ちている。sumikaの再出発を飾るにふさわしい曲だった。

『築々と 描く覚悟』

『喜びや悲しみや苦しみも全部持って 憧れや羨みも隠さずに持っていって 諦めのその逆を血の滲むような強さで 抱きしめて捕まえて もう二度と離さないで』

『ドリーマーゆこうか高鳴る方へ 歩き出すのさ僕らのストーリーを』

(歌詞引用:Starting Over/sumika)

会場一体となって歌ったこの時間を、私は一生忘れない。打ちあがる花火がsumikaの再出発を祝うようで、私も一緒に歩き出せたと思うんだ。私たちなら大丈夫だと強く感じた瞬間だった。


続いて「願い」を歌い上げ、片岡さんは2人のメンバーに思いを問う。


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sumikaのメンバーとして、一人の音楽家として、やることをすべてこの日にめがけて準備してきました。もうやり残したことはないというくらい、全てを今日にぶつけました。綺麗事ではなく、今目の前にある景色は本当に奇跡のような宝物です。今のsumikaにとって、僕にとって、とてつもないギフトです。改めて今日は本当にありがとうございます。そして愛しています。メンバーも、スタッフチームも、ゲストメンバーも、普段は照れ臭いけど、愛しています。

まだまだやりたいことがある。まだまだ表現したいことがある。そして何より、僕がsumikaとしていい音楽をもっともっと残していきたい。あなたの人生にsumikaの音楽を突き刺していきたい。

悲しくて泣いてるんじゃないんだよ。未来が楽しみで泣いているんです。これからもっと頑張るよ。まだまだ俺たちはやれる。sumikaはこれからもどんどん続いていきます。何があったって続ける選択をすると思う。どうかこれからも、sumikaを愛してください。


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涙を流しながら、時折声を震わせながら、それでも力強く私たち一人ひとりに向けて伝えてくれるおがりんをみて、何があっても絶対にこのバンドの味方でいたいなと思った。


おがりんの言葉を聞き、バロンさんも口を開く。


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いや~、ね。本当にね。10周年という節目にね、本当に衝撃的な悲しいことがあって、この10年全部悲しいことばっかだったんじゃねえかなとか、そんなこと思ったりしちゃってさ。もう立ち上がれないかななんて気分にもなっちゃって。でも少しずつ時間が経って、いろいろ思い出したりして。やっぱこの10年間は悲しいことばっかじゃなくて、すごく楽しいことがあったし、幸せなことだってたくさんあったよ。俺はやっぱり笑ってたいからさ!悲しいことがあっても、笑いたいときには笑ってたいんだよ。みんなでバカやって笑ったりさ、今日なんてこんなに大きいところでライブやって、みんなでずぶ濡れになりながら真ん中行ってさ。みんなの顔が本当によく見えたよ。楽しそうだったり、ちょっとうるっとしてたり、いろんな感情をsumikaに素直に見せてくれてるんだなって。それは俺たちsumikaを信頼してくれてるからなのかなって。その絆が、俺たちがsumikaとして10年間歩んで得たかけがえのない宝物だと今日思った。本当に今日はありがとな!!

いつだってここに帰って来いよ。ここっていうのは、横浜スタジアムじゃねえぞ。横浜って意味でもない。野球場でもない。ここだよ。sumikaに帰って来いよ!!

それから、この前の『Ten to Ten』ツアーの大阪で、俺初めてこんなテンションでMCしたんだよ。「お前らー!」って言ったらみんな「フゥー!!」って返してくれてさ。ロックスターみたいなMCして、ライブ終わって楽屋帰ったときにさ、うちの隼ちゃんが「荒井さん!あのMC最高でしたよ!一生ついていきたくなったっすよ!!」って言ってくれて。けどもうライブ終わってるから俺も普通のテンションになってるから、「そーお?ありがとねえ」なんて返しちゃってさ。今思うとあれ、あの時隼ちゃんに伝える言葉まちがったなって。最後に今日、その言葉を伝えさせてくれ。

これはメンバー、ゲストメンバー、スタッフ、関係者、もちろんお前らに対してもそう。そして「一生ついていきたくなった」なんて言ってくれた黒田隼之介にたいしてもそう。全員にまとめて言わせてくれ。

お前らー!一生ついてこいやー!!!


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いつもの優しいゆるい口調から始まったもんだから、この感じ安心するななんて思っていたけど。どんどんと感情が溢れ出して、飾らない自分の言葉でまっすぐに思いを伝えてくれたバロンさん。Ten to Ten大阪に参戦していた身として、あの時の会場の一体感ときたらすごくて、みんなが拳を突き上げて応えていた。この日もそうだ。突き上げた拳は誰よりも高く、一生sumikaについていくと誓った。



2人それぞれの熱いMCを経て、片岡さんが口を開く。

「……どーもー、ボーカルの片岡でーす」

あまりにゆるい入りに爛々とした客席から笑みがこぼれ力が抜ける。

「いいメンバーだろ?sumikaって」
穏やかに、でも誇らしげに語りだす。

「今日は今までお世話になった人みんな来てくれていて、そういう場所でライブができてあたたかく迎えてもらって、本当に幸せだなと思っています。あと足りないのは音楽だけかな。横浜スタジアムに一生語り継がれるようなドでかい歌声を響かせてほしいなと思うんですけど、準備はいいですかー!」

割れんばかりの大きな手拍子にのせてかき鳴らされるは「『伝言歌』」

「ドでかい音、空まで届くと思うからさ!!」
空を指して叫ぶ片岡さんに応えるように、会場一体となって歌ういつものフレーズ。

ただこの日、スクリーンに映る歌詞は
「あなたに最期に今、投げかける『伝言歌』よ」

sumikaと33000人が空にいるたった一人のために歌った『伝言歌』。届いてるといいな。空が落とす雨粒は、この時一番の大降りだった。



メンバーがステージを降りた後、「雨天決行」をBGMにスクリーンに映像が映し出された。メンバー4人、ゲストメンバー、スタッフの名前。このライブを彩った最高のメンバーが記されたエンドロールだった。そして最後に流れる「YOU」の文字。私もこの奇跡みたいな夜をつくった一員なんだと、嬉しくて幸せで光栄で。この気持ちを抱えて帰れるなんて、本当に今日はいい日だ。そう思っていた。けど。
つづけて、公開延期となっていたドキュメンタリー映画の上映決定と、新たなツアーが発表される。新たな旅路に心が弾む。
BGMがちょうど1番で終わり、会場が暗転する。突如照らされたセンターステージ。そこには3人の姿があった。向かい合う形で円となって演奏された「雨天決行」。片岡さんに促さるまま、私たちは「Too late?tonight」「この声が君に届くように」何度も何度も掛け合った。


『届くまで決してやめぬように』

『あなたの暗闇を照らすように』

『掴んで二度と離さぬように』

『あなたの世界を変えるように』

『明日の世界を変えるように』


新しいフレーズとともに声高らかに歌う片岡さん。おがりんの表情は穏やかだけど強さがあって、笑顔のバロンさんは空を指す。
聴いたことがないフレーズでも不思議と胸にストンと落ちていくのは、sumikaの音楽が持つやさしくてあたたかな魔法の力だろうか。

ステージのスクリーンに映るのは3人の姿。そこにあのギターは映らない。

ライブのスタートを飾った「雨天決行」では4分割だった画面が、ライブのラストを飾るときには3分割になっていた。

これから先、3人で歩むsumikaとしての覚悟をみた。


「必ず、やっぱり、幸せにします!!」

「ありがとう!!!」

3人肩を組み、“33000の1人”に向けて伝えた大きな愛と揺るがぬ覚悟。

宣言通り、メドレーを数えれば41曲。雨がやむことがほとんどない中、約4時間の熱演だった。


sumika 10th Anniversary Live 『Ten to Ten to 10』 終幕



私にとってsumikaは世界で一番やさしい音楽を生み出すバンドだ。

つらく悲しいときには寄り添って、立ち止まったり振り返ったり、ちょっと来た道を戻ってみたり、それでもいつかは前を向けるように、そっと手を差し伸べてくれる。

明るく楽しいときにはその気持ちが何倍にも膨れ上がるように、一緒に喜んで胸の高鳴るまま、幸せな時をともに過ごしてくれる。

この世のものにはすべて終わりが来るけれど、それが彼らの番になるのはあまりに遠い未来の話だと、そう信じていた。

そんなバンドに起きた、想像もしなかった悲しい出来事。目の前が真っ暗になって、指針を見失ったように感じた。前を向こうとするメンバーの声も、すぐには受け入れられなかった。
それでもこの2023年5月14日を経て。どしゃ降りの雨だって、どんなにつらく悲しい槍が降ったって、「やめない覚悟」。再出発にふさわしい「雨天決行」を響かせるsumikaなら、この先何が起きても大丈夫だ。
雨が降る中でも彼らの強さは決して揺るがない。ライブの開催が決まり、最初に想像した光景とは随分ちがう当日を迎えた。それでも彼らは雨すらも演出のひとつにかえて、“33000の1人”とつくりあげたのは奇跡みたいな夜だった。


私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。sumikaが晴れバンドなのではなく、黒田隼之介という男が天性の晴れ男だったのではないだろうか。たくさんの人に愛された偉大なギタリストはもうこの世にはいないけれど、彼が残した音楽はこれから先も愛されつづける。

愛すべきsumikaの再出発。10年の軌跡と一人の愛しいギタリストに思いを馳せ、これからの未来を描く覚悟の夜を見届けた。


sumikaに出逢えてよかったね。sumikaを好きになってよかったね。

音楽を続けてくれてありがとう。sumikaを続けてくれてありがとう。

改めまして、10周年おめでとうございます。

彼らの進む道の先が、多くの幸せで溢れますように。

大好き。愛してる。これからも一生ついていく🌼

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