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人身事故を起こした75歳

父がうっかり交通事故を起こした時に、物が飛んで対向車のフロントガラスが割れ、運転していた方がけがをした。この時、検察庁から呼び出しがあった。損保のサービスセンターで働いていたのに、こういう取り調べがあるのを知らなかった。高齢者の免許証返還と交通事故防止の参考になればと思い、5年前の苦い思い出を書いてみる。

その頃、父は知人の紹介で解体のアルバイトをしていた。いつどこの現場に出られるか電話で仕事をあっせんされた。人手不足で、定年退職後の老人か外国人しか働き手がいなかったようだ。

通常は、現場でゴミを片付ける作業をしていたが、その日に限って運転手が足りず、トラックに乗ってゴミを運べと言われた。断ればいいのに、安請け合いした。運転中、ぼーっとして信号機に激突し、トラックが横転し荷台のゴミが道路にばらまかれた。

自力で車から脱出し、事故を起こしたことを責任者に電話していたら、目撃者が警察に電話をしてくれていた。親切な人の行動はありがたい。現場の状況から、父も病院へ行った方がいいと判断され救急車に乗った。

散らかったゴミは自己責任で片付ける。解体現場から作業員を移動させて道路の片付け、他の作業員にも迷惑がかかってしまった。

病院で検査を終えた父は、同僚に迎えに来てもらい事故現場と解体現場に戻った。昼ごはんを食べなかった父は、疲労困憊して帰宅した。もうバイトは行かない方がいいと思った。

家で反省の日々を送っていたら、父の乗っていた車の保険会社から電話があった。被害者が、お詫びの連絡がないと言っているので、電話するように言われた。

昨今、自分からお詫びをする人は少ない。たいてい被害者側が保険会社に文句を言って、相手に謝らせることが多い。絶対に謝らない人もいる。相手が悪いのに謝らないなら示談しないと言う人もいる。

けがをした女性は、忙しいらしく連絡先を父親に指定してきた。そこで私は作戦を立てた。私が電話をかけて、事情を説明してから電話を替わるから、「迷惑をおかけして申し訳ない、おけがの具合はどうですか」と言って、父は余計なことはしゃべらずに相手の話を聞くように指示した。

相手の方がよい人で、お詫びがあればわざわざ見舞いに来なくてもよいと言ってくれたので、被害者へのフォローは終わった。

そして検察から指定日に出頭するよう郵便が届いた。事故地の検察まで行かねばならない。車で2時間かかる。父はカーナビを操作できない。目的地を設定してナビされても、高音のアナウンスは聞き取りできない。ナビを見ながら運転するのも危ないので、私が付き添うことにした。

初めて入る建物は閑散としており、人がいる気配がなかった。13時半の予定だったが、10分前に声がかかり、父は取調室に入っていった。出てきたのは15時過ぎだった。「何聞かれたのか」聞いたら、むこうが話すことの確認が主で、もっぱら事実確認と罪状の説明だったようだ。起訴はされず、違反点数5点、免停はなかった。後日罰金30万円の払込用紙が届いた。

違反点数と罰金額は被害者のけがの重さ(全治〇か月)で変わってくる。1年以内に違反があり、人身事故を起こすと免停になる確率が高いので気を付けましょう。

ここから先は非常に書きにくいのだが、解体を請け負っているのが個人事業主でトラックに対人・対物・人身傷害の任意保険はかけてあった。だから父の治療費と被害車の修理代は任意保険から、被害者のけがは120万円までは自賠責保険から保険金が出る。

参考までに、自賠責保険は被害者救済目的なので、車の所有者と運転者のけがは出ない。自賠責保険が切れていると、任意保険で代わりに支払ってもらえない。任意保険の対人は120万円を超えた部分を支払う。むちうち通院なら120万円以内なので、軽傷なら任意保険は使わなくて済む。

問題となったのが、トラックの賠償。廃車となり、新車金額を父が払えと言われたようだ。中古車の時価額数十万円が妥当と私は思った。父の過失で、父の稼いだお金を払ったのだから黙って見ているしかなかった。

この一件は私に色んなことを考えさせた。父の運転は信用できない。乗りなれない車は運転させない。とにかく近場以外は運転させたくない。しかし出かけるたびに「どこ行くの」か聞けない。物忘れの多い父には、時々罰金30万円を払ったことを思い出させてあげるしかない。

「あの事故の時、罰金いくら払った?」素知らぬ顔して「30万かあ」と言い返す。効果はないかもしれないが、何もしないよりマシかと思う。