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マスク戦隊

私は真っ暗な部屋で椅子に座らされていた。買い物を終え駐車場で車に乗り込む際にグレーのスーツを着た3人組が乗り込んできて私を拉致したのだ。指示通りに運転してビルの地下駐車場へ止め、エレベーターで七階へ。一番奥の部屋。何が目的なんだろう。何らかの犯罪だとしたら目隠しもされていないし彼らもマスクだけであまり顔を隠してはいないから最悪殺されるんだろうか。けれど、普通の主婦を誘拐した所で何の利益も無いだろう。

部屋の中は暗くてよく見えないものの、私の他にも何人かいるような気配はしていた。しばらくしてドアが開き、もう1人連れてこられる様子と他にも何名か座っている様子が少し見えた。

「手荒な真似をしてすまない。私達は犯罪組織ではないので、まずは安心して話を聞いてほしい。」どこかから声がした。マイクを通しているのか、この部屋の中ではないようだ。

「君たちは選ばれ、ここへ集まってもらった。」選ばれた?何だか変な人達に捕まったようだ。どうしよう。宗教かな、詐欺かな。他の人達も不審に思ったのかザワザワとしだした。

「静かに聞いてほしい。君たちには、覆面調査員となって街の平和を守る手伝いをして欲しいのだ。」えー、とどこかから驚きの声があがる。「それぞれ渡したマスクをつけているかね。ーでは明かりを。」

部屋の明かりがつけられると、円を描くように10名ほどがマスクをつけて座っていた。「覆面と言っても、その通りウィルス予防のものと同じだ。この方が街に馴染むからね。」よく見るとマスクの色が微妙に違う。それぞれ見ていると「あ、田中さんじゃない?」と声をかけられた。「えー、山本さんも?」子供が同じ幼稚園に通う、いわゆるママ友だ。

コホン、と咳払いが聞こえ「それぞれ、この場では本名では呼ばないよう気をつけてもらいたい。マスクの色で呼び合うように。」全員それぞれマスクの色を外して見てみる。「いや、覆面だから顔から外さないように。ダークグレー、ちゃんとマスクをして。」ダークグレーと呼ばれた女性はキョロキョロと見回して「あ、あたしか。」と笑ってからマスクを付け直した。

「街の平和って言われても、何も特技とか無いんだけど。」と誰かが言った。みんなも頷く。年齢はバラバラだがどう見ても普通の主婦ばかりだ。「君たちの情報収集力を必要としているのだよ、オリーブグレー。」またザワつく。「だったら、坂下さんの方が情報通だわ。」「あら、それ私も知ってる坂下さんかしら。2丁目の。」やだー、私も知ってる。私達近所かしら。そういえば見たことあるような…などと話し出すと、またコホンと咳払いがきこえ、「お静かに。情報通なだけではなく、秘密が漏れないよう、口の硬い方々を集めてます。」わかるー、あの人なんでも話しちゃうよね、そうそうこの前なんてね、あら今気づいたけど遠藤さんじゃない?とまた話が始まる。

「お、し、ず、か、に。皆さん、勝手に話し出さないでもらいたい。あとマスクの色で呼ぶように。君はアッシュグレー、君はスモークグレー。」山本さんはスモークグレーらしい。私は…何だろう、全員曖昧なグレーでわからない。みんなもそう思ったようで、私は?私は何グレーなの?、チャコールグレーじゃない?、じゃあ私はピンクグレーかしら、ローズグレーかも、などと話し出す。「とにかく。」マイクの声が大きくなった。「君たちの情報収集力で、虐待やDVなど表に出にくい問題の芽を早く発見する手伝いをしてほしいのだ。」そういう事なの?、だから主婦ばっかり?、私は主婦じゃないです、あなた若そうね。えーっとブルーグレーかしら、たぶんシルバーグレーです…。

マイクの前で司令官がため息をついた。隣にいるオフホワイトに「人選を誤ったんじゃないかね。ザワザワと喋ってばかりで、こちらの話を全然聞かないじゃないか。」と聞いた。人選を任されていたオフホワイトは司令官のパールホワイトのマスクを見ながら「人選よりマスクの色合いが問題では無いでしょうか。」と言った。

室内では会話が途切れない。「じゃ、このマイクの人はロマンスグレーだったりしてね」とフロスティグレーが言って、どっと笑い声があがった。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。