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夜の学校 ー足音ー

いつもと同じ学校なのに、夜に登校するだけで何だかドキドキする。薄暗く静かな校舎。暗くて誰かが遊んでいても顔が見えない遊具。

「学校に筆箱忘れてきた!」午後5時半。遊んで帰る途中でユウトは思い出した。今日の宿題は算数で角度をはかるのに、筆箱の中の分度器が無いとはかれない。どうしよう…少し迷ったけれど、家に帰るのに学校の近くを通るんだから、ついでに行って忘れ物を取ってこよう、と考えて学校へ向かった。

「忘れ物をしても取りに戻ってはいけません。夜の学校はお化けの学校です。」と先生はいつも言っていたけれど、きっと忘れ物をしないようにウソを言っているだけだ。今どき『お化け』なんて言葉で怖がる小学生はいないよ…と思ってはいても、薄暗く誰もいない学校は、静かすぎて少しだけ怖かった。まだ6時前だ。夜じゃない。お化けもいない。怖くないぞ。そう自分に言い聞かせながら、児童玄関で上履きに履き替えて廊下をすすんで階段へ。

シーンと静まりかえった中に、ユウトの足音だけが響く。トン、トン、トン。階段を上る。トン、トン、トン、コツン。2階に上る時にユウトの足音の他にもう一つ足音が聞こえた気がした。辺りを見回してみたけれど誰もいない。トン、トン、トン、コツン、コツン。3階に上る時にもやはり足音が聞こえた。しかも1つ増えている。ドキドキしながら階段の下をのぞいてみたけれど、やっぱり誰もいない。トン、トン、トン、コツン、コツン、コツン。4階に上ると足音はまた増えた。ユウトは怖くなって、走って四年四組の教室へ向かった。タタタタタッ、コツコツコツッ。

だ、誰かついてきてる!足音に追いかけられながら教室に入ってすぐ机のかげに隠れる。姿は見えなかったけどコツコツコツッという足音は四組を通り過ぎ、やがて聞こえなくなった。ユウトは怖くてしばらくそのまま隠れていた。先生の言った通り、学校にはお化けがいる。どうしよう。

「誰かいるの?」突然、声をかけられてビクッとなった。驚きすぎて、隠れていた机に頭をぶつけてしまった。「何してるの?もうみんな帰った時間でしょう?」見ると、学校の名前が入ったTシャツを着てメガネをかけた女の人が懐中電灯を片手にユウトを見ていた。「…先生?」恐るおそる聞いてみた。「なぁに、お化けにでも見える?5年の担任だけど、4年生?名前は?」ユウトはホッとして「僕、筆箱を忘れたんで取りに来ました。」と正直に言うと「忘れ物をしても取りに来ない約束でしょう?」と当然怒られた。

ユウトは机から筆箱を取り出して、先生に児童玄関まで送ってもらう事にした。トン、トン、トン。階段に響く自分の足音を聞きながら「先生、僕が階段を上るとき、誰かがついてくる足音だけ聞こえた気がして怖かったんだ。」と言うと、先生は笑って「気のせいじゃないよ。夜はお化けの学校になるんだから。まだみんな登校する時間じゃないけど、早めに来る子もいるからね。」と普通のことみたいに言った。「またウソばっかり。お化けなんかいるわけないよ。」と言うユウトに先生はふふふ、と笑うだけだった。

トン、トン、トン。シーンと静かな校舎にユウトの足音だけが響く。児童玄関で外靴に履き替えると、もう何も聞こえない。こんなに静かな学校の中でも先生は大人だから怖くないの?と聞こうとして、ふと気づいた。「先生は足音しないんだね。」と言うと、ふふふ、とまた笑って「先生は足が無いからね。」と言った。

えっ??ゆっくりと先生を下まで見ると、途中からモヤモヤっと透明になってて…足が、無かった。「お、お化けぇっー!!」ビックリしたのと怖いのとで変な大声をあげながら、ユウトは走って逃げ出した。後ろから「もう夜に来ちゃダメだよ」とお化け先生の声が聞こえた。ユウトはもう絶対に来ません、と心の中で返事しながら振り向かずに一目散に帰っていった。

五年0組の担任は走って帰るユウトを見送ってから、また校舎へ戻っていった。


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