見出し画像

ドーナツ 十九個

「ミント!」
ドアを勢いよく開けて走り込むと、可愛らしい花柄のエプロンをつけたミントが笑顔で立っていた。両手に黒い塊を持っている。
「やめろ!喰うな!」
慌てて払い除けると黒い塊は床を転がった。
「どうしたの祐二くん。ドーナツ美味しいよ?」
「あれはドーナツなんかじゃない。食べちゃだめだ。」
「えー。美味しいのにぃ。どうかしたの?」
ミントの華奢な身体を強く抱きしめる。
「会社の皆んなも、外の奴らもみんなおかしいんだ。みんな食べ続けているし、後輩なんか倒れて腹からあの黒いの出したんだぞ!」
ふふふ、とミントが笑った。
祐二の背中に手を回し、キスをする。
「あのね祐二くん。」
祐二のシャツのボタンを外し甘えるような声で話しながらもう一度キスをする。
「幸せをすすめる人とぉ」
もう一度。
「お腹いっぱいの幸せを願う人がいるの。」
もう一度。
「後輩さんは、そっちにしたんだね。」
もう一度キスをしたまま祐二の頭を抱えて離さない。いつもより甘いキスに頭がくらくらしながら、祐二はミントのエプロンの紐を解いた。床に落としたドーナツがミントの身体を登ってくるのが見える。
あぁ、甘い…。
祐二に服を脱がされながら身体を登ってきたドーナツを白く長い指先で掴むと、まだ片手で祐二の頭を抱えたまま唇を離しドーナツを齧った。そのままもう一度激しく祐二にキスする。口の中に甘くとろけるようなドーナツの欠片が押し込まれ、祐二は楽しむように飲み込んだ。
駄目だミント…甘い…。甘い。甘くて…美味しい。
祐二は乱暴にミントの身体を離すとその白い指先の黒い塊を見つめて、食べた。
ミントが満足そうに頷く。
「ね?美味しいでしょ。」
「あぁ甘くて美味い。もっと食べたいな。」
ミントは祐二の口元に残るドーナツの屑を舌で絡めとった。台所から山盛りのドーナツを持ってきてテーブルに置くと祐二は貪るように次々と食べ始めた。横で一緒に食べながら微笑むミントを見ているとお腹に幸せが詰まっていく感覚になった。
そうだ、真子にも食べさせてあげよう。
もう少し食べたら幸せをすすめに行かなくては。
もう少し。
ミントが低く唸り始め床に倒れ込んだ。


https://note.com/preview/na4cdee5c2a51?prev_access_key=7ef9a94b1fec423247aaff5c5359892c


#創作大賞2024
#ホラー小説部門


え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。