ツノがある東館 / 毎週ショートショートnote
「暴れ牛だ!」
あぁどうして今日は赤いスカートにしたのかしら、と自分を呪っても仕方ありません。
大きな暴れ牛を追いかけて大人たちが走ってきますが、想像より速い牛に追いつけそうになく、逃げろと叫ぶのがやっと。
暴れ牛の赤く充血した目は明らかにスカートを捉えていますが、足がすくんで動けません。
ドドド、と地響きと砂埃を立ててまっすぐ向かってくる暴れ牛。もう目の前です。
そうだ、これラップスカートだった。
咄嗟にスカートを止めているリボンを外し、右側に開きました。
暴れ牛は少しだけ横に逸れヒラヒラ揺れるスカートの布ごと東館へガツーンと突進。
これがその暴れ牛が突き刺したツノなのよ。
「お婆ちゃん、すごーい!」
母は笑いながら東館の壁のツノ形壁掛けに孫の絵を飾った。
「じゃあ西館の手の形のやつは?」
無邪気な孫に母は笑う。
「あれはお前のお爺ちゃんが浮気してー」
「お母さん、やめて。」
あえて聞かないでいるが、あの日から父の姿は見ていない。
え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。