4桁にかけられた魔法

 10代の時に、初めて受験番号をもらった。そのあと教室で番号を見せ合っていた時のことだ。

 学校によって違うと思うが、当時は4桁の数字が多かったと思う。
   最初は、5055を、『ゴーゴー合格』みたいなことだった。ある女子が休み時間に、周りの人の受験番号を見て、ポジティブな語呂合わせを始めた。

 『いいね』と、彼女の席の近くにすぐに行列ができた。
携帯番号の下4桁占いのような? いや、よく当たる占いの行列のようだった。

 自分も並んで見てもらった。
 ”3716” 数字を見ても、さあ、ないむー しか思い浮かばない。それだと、縁起がよくない気がする。

 受験票を手に持って、彼女はちょっと考えてから、
『かづは、見ないむー、受かる!だ』と言った。
 6を”むー”にするのは、私が考えたのと同じで、何のことだか全くわからなかったが、人に言われるとまあ、そうかとありがたく思えてきた。
 それからは、お守りのように、その数字を大切にした。
 自分が考えた語呂よりも、なんだか納得できた。

 受験会場で、(むーは、無かな? ひょっとして、ライバル無、で気にしないでってことかな?)と都合よく解釈しながら、受験番号の欄に、数字4桁を書いた。

           * * *


 受験番号は、仮に振られた番号で、発表のあとは忘れちゃってもいいものかもしれない。
 試験の結果は皆それぞれ。進路もいろいろだった。

           * * *


 でも、何年かたって再会したときに、私たちは、大人になってから自分で考えてつけた銀行の暗証番号のように、それぞれの数字を覚えていた。
 不思議なのは、考えた本人が、すっかりそのことを忘れていたことだ。

 4桁のあとに『受かる』を付ければ、どんな番号だったとしても、ラッキー多めの語呂合わせができちゃったかもしれない。
 でも、なかなかきつい時期に、みんなを楽しくしてくれる魔法をかけてくれた、あの時の彼女には感謝している。


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