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東の脳へ 4

長編小説「東の脳へ」の最終回となります。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
※少し荒々しい表現がございますので、ご注意ください。

~あらすじ~
左脳の機能を劇的に向上させる薬、プラグマティズム・ブースターが世界中に広まった。日本の教育にも活用され始めるという時、科学者を辞めたばかりの周防諒は不安と罪悪感に苛まれていた。同時期に大学受験を控えていた男子高校生、中里知樹は周囲から勧められ、薬を飲む。親友の同級生、北倉浩平は飲まないという選択をした。
プラグマティズム・ブースターによって、三人の運命は大きく変わっていく。右脳という東の脳へ、現実は移行していく。


「東の脳へ」1   「東の脳へ」3



印刷された数字が、歪んで形を成していない。小さい数字と大きな数字が、近くにある漢字とひらがなとカタカナを巻きこみながら、渦を描いていた。ボード上の記号の集合体に、右手の人差し指を当て、ぐるぐるとなぞってみる。僕の手は、隣から伸びてきた別の手に止められた。

「知樹、これから、電車乗るの。大人しくして」

母さんは、内緒話をするように僕にささやいた。地下特有の籠った匂いと、ガンガンと響くアナウンスの音声。気持ち悪い。

「あ、知樹じゃん」

後ろから名前を呼ばれて振り返る。少し吊り目の、短髪の男子高校生。浩平に似ている。浩平だ。いや、しかし、浩平でない気もする。

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