スタジオエンジニアが教えられる程度の役者向けアフレコ基礎(スタジオ編1)

前回の投稿が、結構好評だったようで・・・。
良いやら悪いやらですが、正直今回の投稿プレッシャーです。
一応、断わりですが、あくまでもエンジニア目線の技術的な話が主ですので、これだけ押さえておけば良いわけではありません。
お芝居という演出さん達の領分は私が話すべき部分では無いので、
そこは然るべき方々から教わるなり盗むなりしてくださいませ。


0)以前の収録と、現在の収録の違いについて

2020年春に緊急事態宣言が発令されて以降、長きにわたり収録現場は試行錯誤・創意工夫の元、作品を世に送り出す為に頑張ってきました。
その一つに2023年4月現在も形をちょっとずつ変えながら続いてる分散収録があります。
もちろん、弊害が無かったわけではありませんが、制作現場の灯を絶やすわけにはいかなかった苦渋の決断だったという事をぜひご理解いただければと思います。

さて、何が大きく違うのかについでですが、
1つの作品に対して、演者さんが一堂に会して一連の流れで収録するのか、少人数のグループに分かれて担当する部分毎に収録し組み上げていくのか、というのが大きな違いです。
ほんの少し前にガイドラインの改訂があり、多少緩和されたのですが、改定前の時間が一番長かったので、その辺りとの比較を交えながら書いていきたいと思います。

1)マイクについて

スタジオで使われるマイクの一例

前振りしておきながら、さっそく収録方法とは違う話で恐縮ですが・・・
スタジオがアフレコ時に使うマイクが上図のようなコンデンサーマイクと言われている種類のマイクです。(形状等は異なることがあります)
実物だと網目のカバーでほぼ見えませんが、上の方に丸い円辺りにダイヤフラム(振動版)と呼ばれる音を感知する部分があります。
なので、演者の皆さんはココに向って発声してほしいわけです。
(演技的な意味ではなく物理的な意味で)
時々、マイク前なのに台本を見るために下を向いてしまう方がいらっしゃいますが、良い音が録れないのでお止めください。

この種類のマイクは感度が高く繊細に音を拾うという特徴を持っています。
と書くと、「ボソボソ喋っても良いんだ」と思われそうですが、そういう事ではなので勘違いはしないようお願いします。
とりあえず、この特徴が後述することに関わってきますので覚えておいてください。

また、スタジオが採用しているこの手のマイクは、カーディオイド(単一指向)という指向性を持っています。

上図はマイクと演者を上から見た図です。
扇状の収音イメージの外側をまったく拾わないわけではないですが、音の芯がない、ぼやけた音になってしまうという事は覚えておいてください。
また、理想は真正面前に正対することですが、マイクを吹いて(発声時の息がマイクに当たってボーボーとノイズを拾う事)しまう時は、ダイヤフラムから左右どちらかに声を当てる位置をずらすと吹きにくくなります。

テクニカルな話のついでに、マイクとの適正な距離についてお話しておきましょう。

演者さんに意識していただきたいのは、ポップガードとの距離です。ある程度キャリアを積まれた方ですと、むしろその先のマイクとの距離感を意識してらっしゃる方がいると聞いたことが有りますが、目安として見やすいのはポップガードとの距離でしょう。
養成所やワークショップによって教える距離がマチマチみたいですが、だいたい20~30㎝ぐらい離れて頂けると良いかな~と思います。(エンジニアによっても意見が違うので目安ぐらいに思っておいて下さい)

アニメや吹替でマイクが録る音は、人の声と、空気感(距離感)と呼べるものだと私個人は思ってます。
この距離感が揃わないと、他の演者さん達と比べて演技が浮いて聞こえます。
これは、後で私たちがいくら補正をかけても厳密に揃えるのは難しいので、収録時に演者さんにお願いすることが多いと思います。
特に外画吹替だと、結構シビアです。

ポップガードを舐めそうな距離感だと思ってください

配信動画等で歌手の方が上図のような距離で歌ってるのを見たことがあると思います。これはあくまで歌唱の収録だからです。
例外として、近接効果を狙った耳元でささやく演技やモノローグで普通の芝居と差別化を図る意図で寄ってもらう事は有りますが、これをホームポジションにはしないでください。

体は後ろに下がっても顔が前に出る人

時々、私たちが「○○ぐらい下がってください」というのは、大体マイクとの距離が近すぎて他と浮いちゃうからorポップガードを越える勢いで息が漏れてマイクを吹いてるからです。
でも、なぜか多いのですが、上図のように体は下がったが首はさっきとほぼ変わらない位置に来る人。”違う、そうじゃない”と私たちは嘆くので、「下がってください」の意図を読み取ってください。

ザックリと演者さんが知っててほしいマイクの知識はこんなところかと思います。

2)マイクの高さについて

分散収録の場合、そのスタジオが設置できるマイクの本数分しかブースに入れなかった為、基本的に1マイクに1人でした。
なので、その人の身長に合わせてエンジニアが高さを調整しておりましたが、一斉収録の場合、そうすることは不可能です。
その為、演者さん達の身長の平均的な高さを考えてセッティングします。

ちなみに余談ですが、極まれに勝手にマイクスタンドをいじる役者さんがいますが、絶対にやめてください
扱い方を間違うとマイクが壊れます。スタジオに備えられてるマイクは結構お高いです。新人さんの手取りギャラのン十回分です。
また、自分たちの商売道具を勝手に弄られて気分が良い人はいませんよね?
そういうことです。
それと、スタジオに這わせてあるケーブルもなるべく跨いでください。ある程度耐えられるとは言え、断線のリスクがありますので・・・。

以前の収録時のマイクの並びの例

さて話を戻しますが、
上図はあくまで一例ですが、ある程度高さを変えた状態でセッティングされているの事が多かったです。(私が以前勤めてたスタジオでは)
この場合、特に背の低い方は入れるマイクが限られてくるので、要注意です。
対策で厚底の靴を持ち込んでいらっしゃる演者さんを以前はよく見ました。
逆に、背の高い方は、膝を屈めたり、足を広げたりしてマイクに正対する工夫をしてましたねぇ・・・・。
例外的に、主役やその話数で多く喋る方などの為に、その方々の為に高さを合わせたりすることが有ります。
なので、テストの前などに自分の入れるマイクは何処なのかを把握してく必要が有りますし、これがマイクワークに大きくかなり関わってくるので、あまりに極端に高さのついてるスタジオの場合はチェックしておくようにしましょう。

3)マイク前で注意してほしい事

さて、分散収録と一斉収録の違いにより、今までなら言われなかった注意を受ける可能性が有ります。前述したスタジオのマイクは感度が高く繊細に音を拾うというのが深く関わってきますので絶対ご一読ください。

まず、衣擦れです。
分散収録時はマイク前にあらかじめ立っているorせいぜい座って立っての所作で済んでたのですが、一斉収録という事は今までの比ではないくらいに動きます。特に最近目立ち始めた気がするのですが、音が鳴りやすい服装で来られる方が増えました。棒立ちで演じられるなら良いんですが、お芝居に熱が入ってくると身振り手振りが大きくなるのはよくある事。また、マイクワークで前後左右に動かないといけない。その時に服装の組み合わせに寄っては、肌と服、インターと上着等で擦れる音(衣擦れ)がセリフに被って入ってしまう事があります。
現場を円滑に進めるためにも、お洒落に気を遣う気持ちはわかりますが、服の素材の組み合わせ等も気を遣っていただければ助かります。

次に、台本のめくり等のペーパーノイズです。
今までの分散収録の際は、そのグループ内では居ないキャラの所で何の気なしに台本をめくってもなんら問題ありませんでした。
(あとでその部分のデータをカットするだけでしたので。)
しかし、一斉収録だと基本的にパートいっぱいまで映像は止まらないし、会話が何ページにも渡って続くようなら、静かにめくるしかありません。
とはいえ、マイクの近くで台本を持ったままめくると、結構な確率でペーパーノイズが入ると思ってください。
あくまで対応策の一例ですが、台本を持つ手を下にさげてマイクから離れたところでめくって、読みの位置に戻すというやり方をよく見ます。
あとは、各々で音の出ない方法を研究して頂くほかないんですが、一斉収録の際に諸先輩方がどういうやり方をしてるか、よく見ておいてください。
また、台詞の表記上、ページを跨いでセリフが書いてあることが多々有ります。この場合の対策として台本チェックの時に、めくる前のページに残りのセリフを余白に書き込むorめくった後のページに前のセリフを余白に書き込むというのをやっておくと、台詞喋りながらめくってノイズでNGというリスクは回避できるかと思います。

まあ、一番可能性がある物を上げてみましたが、要するにノイズに関しては今まで以上にシビアになるので気を付けましょう。という事です。


さて、今回は主にマイク周りを中心に書かせていただきました。
あまりダラダラと長く書くのが得意では無いので、申し訳ございませんが、ここでいったん一区切りとさせてください。

マイクは私たちエンジニアの商売道具であり、演者の味方でもあります。
演者さんがマイクを意識することなく演技に集中していただき、良い芝居が録れることが一番なのかもしれないと書きながら思いました。
とは言え、マイクから外れた、ノイズが被った、距離感が揃わないと私たちも困るし、演者さんも不幸ですので、意識するほどじゃないぐらいに体で覚えてもらうのが良いのかもしれません。(無茶言ってる気がしますが)

次回はマイクワークとか現場で飛び交う用語辺りを中心に書ければと思っています。
なるべく間を置かないようにしますが、なんせ文章書くのが苦手なので、お待たせするかもしれませんが、気長にお付き合い頂ければ助かります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?