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【ケーススタディーその2 介護ベッドの身体圧迫リスク 技術史的背景編】医療用ベッドから介護ベッドへ(7/12追記修正しました)

土庫澄子です 介護ベッドPL判決についての2回目です

ケーススタディのStep3.事故につながるシナリオ(=裁判所が描く事故のシナリオのこと)外の要因を探すに入っていきます

原告は介護ベッドの成り立ちにさかのぼって介護ベッドが安全性を欠いていたと主張したようですが、裁判所を十分に説得するだけの議論はできなかったようです

判決文からうかがわれる原告の言い分を参考に介護ベッド(ギャッチベッド)は、医療用ベッドの考案から発展したという技術史的な背景を考えてみます

■ギャッチベッドの考案ー外科医ギャッチ 

介護ベッドはギャッチベッドとも呼ばれます ギャッチとは?人名に由来するそうです アメリカの外科医のギャッチ(Willis Dew Gatch.1877-1962)が、3つのセグメントから構成されて、頭や膝を独立に上げることができる医療用のベッドを考案したのだそうです

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ギャッチベッドの成り立ちは、外科医の先生が病院で治療に使うために考案したものなんですね そもそもは、病院でベッドに横たわった患者さんが外科治療のために頭を上げたり、膝を上げたりできる医療用ベッドというわけです

医療用ベッドとしてのギャッチベッドは診療や治療のあいだ患者さんが頭を上げたり(=この操作を「背上げ」といっています)、膝を上げたりするために使うので、ギャッチアップしている時間はそれほど長くなさそうです

■医療用ベッドから介護ベッドへ

ところが、寝たきりのお年寄りが家庭で介護ベッドを使うときは、介護ベッドの上で一日のほとんどを過ごし、日常生活を送るわけです 使用時間は医療用ベッドとして使うときよりは長くなりそうです 背上げをして鼻腔経管栄養を行うとなるとかなり長時間となるわですね 

このケースの場合は、一日合計15~16時間の背上げを行っていたといいます 仮に眠っている時間を一日あたり7時間程度とすると、起きている時間のすべてではないにせよほとんどを背上げした状態で過ごすことになります

介護ベッドにはJIS規格があります 在宅用電動介護用ベッドのJIS(JIS T 9254)は、医療用ベッドの国際規格(IEC60601-2-52)と整合するように作られています(平成27.12.21付改正公示)
ただ、JISに適った介護ベッドでも使い方によっては事故が起き、利用者の身体状況に合っていない場合も事故が起きる可能性が高いと考えられているようです 利用者・介護者の不注意や知識不足による事故の防止はJISの射程外となっているわけです
余談。。JIS T 9254の最初のバージョンが作られたのは2007年の消費生活用製品安全法(経産省)の改正がきっかけとのことです この改正で新しい事故情報収集制度が整備されました 新しい制度のもとで介護ベッドの事故情報が収集され、介護ベッドのサイドレールや手すりとの隙間に身体が挟まる事故が明らかになり防止策がJISとなったとのことです 
当時の私は消費者庁の前身となる役所でこの改正に関係する仕事をしていました 7/12バージョンのnoteのためネットを漁るうち介護ベッドに関するJIS T 9254を最初に作ったいきさつを知りました 思わずなるほどと頷きながらも、介護ベッドの長時間の背上げによる身体圧迫は、このころから対策が必要な事故とは考えられていなかったのでは?とおもいます
PL裁判になったケースを「すじが悪い」というひともいます たしかに「こんな事故がほんとうにあるの?」と一見いぶかしくなるようなケースがあるのです それがよくよくみてみると先取的な制度を作ってもやっぱりとりこぼしてしまうケースだったりします ほんとうの見落としはどこにあるのか? いったいどこを素通りしてきたのか? たどりつくには長い道のりを歩くことがあるのです。。(←余談からの脱線でした)

家庭で電動介護ベッドを使うシーンはいまや在宅介護のありふれた光景となっています でも、ギャッチ外科医が現場をみて一日のベッドの使い方を目の当たりにしたらおそらくビックリするのではないでしょうか? 

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(Step3.)事故につながるシナリオ外の要因を探す

■技術の転用による利便性とリスク

ここには、工学の先生にいわせると技術の転用による利便性とリスクの併存というバックヤードがひろがっています 

職業的な専門家が使っていた製品をそのまま、あるいは小型化して家庭用品とすると、使うひとが知識や技能をもつ専門家からごく普通の一般人になります

「家庭でこんなことができる!やってみたい!」という便利さの一方で「こんなリスク知らなかった!どうしよう!」という隠れた、あるいは新しい危険が潜んでいることがあるわけですね

新しい危険とはなんでしょう? 一般のひとは、専門家が当然避けるべき基本的なリスクだと思うことを知っているわけではないので、専門家ならやらないような想定外の使い方をして思わぬリスクを引き起こすことがあるのです  

では、技術を転用しなければいいか?というと、そうでもありません 転用は利便性をアップしますから、家庭や日常生活で使うときのリスクを正しく把握してリスクを避ける方法を工夫していくことが望ましい場合があるからです ザ・技術史の発展ですね

■技術史的背景はシナリオ外の事情

介護ベッドPL判決にもどります 判決文をみるかぎりギャッチベッドがどのような使用を予定するモノだったかという事情は議論されたようですが、判決では事故のシナリオ外的事情となっているようです 

判決は介護ベッドが構造上リスクをもっているからといって在宅介護用具に適さないわけではないとして、むしろ、日本では介護ベッドが家族介護の現状で家族が負う負担をどんなに軽減しているか、そのメリットの大きさを強調しているようです 

(判決文から引用) わが国において、ギャッチベッドが自宅介護用として広く使用され、介護にあたる家族等が介護により負わなければならない負担をギャッチベッドを使用することにより軽減することができているという現実をふまえると、自分で自由に体位を変えることのできない者を自宅で介護するにあたりギャッチベッドを使用することが適切でないとまでいうことは相当ではない。

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裁判所の考えでは、家族介護者の負担を軽減するのが介護ベッドの一番のメリットであって、このメリットを生かすために、もともと医療用で短時間の使用を念頭に置いたものだったという技術史的な背景事情はシナリオ外の遠景に追いやられてしまっています

ですが、技術史的な背景事情は介護ベッドを家庭で使用するときにありがちなリスクにつながっているようにおもいます 技術史的な事情(←利用者・介護者はまったく知らないとしても)こそが、事故につながる実際上の背景的な要因のひとつとなっているのではないでしょうか? 

このケースでは、介護ベッドの利用者は要介護5の状態のお年寄りです 技術史的事情を理解し、使い方を自分で工夫することは難しいでしょう そして、ギャッチアップの状態でどこが辛くなるかか?苦しくなるか?という身体にかかる負担を介護する長女さんにうまく伝えることも難しくなった時期があっただろうと推測します

では介護する長女さんは、介護ベッドの操作をしながら長時間使用する場合の身体負担リスクを察知して、らくらくとリスクを避ける方法に気付けたでしょうか?

長女さんは一番身近な存在だったからこそ、介護ベッドの身体負担リスクには気付いたかもしれません とはいえ、リスクを避ける方法を誰にも相談することなくひとりで工夫することは容易ではなかったと思えてなりません(←ここは、私の経験をまじえた推測です。。)

だとすると、この技術史的な背景事情は介護ベッドによる身体圧迫がどのようにして起きたのか?つまり事故のシナリオを修正する要因となりうるのではないでしょうか?

余談。介護ベッドのケースのほかにも技術史的な背景が事故の遠因となるケースがありますが、裁判ではどうもシナリオ外的な扱いが多いような気がします いえ、ちょっぴり愚痴めいた言い方になってしまいました しっかり検討している裁判もありますので安直に決めつけるのはアブナイですね!

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介護ベッドはもともと医療用ベッドとして医師が考案したという技術史的な背景事情は、介護ベッド事故のシナリオ外の事情にあたるとおもいます

裁判所は技術史的な背景を介護ベッドによる身体圧迫事故を引き起こした直接の要因とは考えていません けれども事故の再発防止を考えるには、技術史的な背景がひとつの要因となっていると考えて事故のシナリオの書き直しをするべきでは?とおもうのです ここから先はケーススタディのStep4.事故のシナリオを修正するのはなしになりますので後回しにしますね

Step3.事故のシナリオ外的事情探しのひとつ目、事故の技術史的な背景事情についてはこの辺でおわります 7/12バージョンですこしだけ修正するつもりが、あちこち追記してしまいました まさにツギハギ、直しはじめたらパッチワーク的に広がってしまいました

介護ベッドPL判決について、事故のシナリオ外的事情にはもうひとつ、意見書に関する事情があるのでは?とおもっています ちょっぴりややこしいところですが、つぎの記事でゆっくり考えてみたいとおもいます

ここまでお読みいただきありがとうございました☆ 

 








 

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