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きっかけは突然に

 驚くほどありきたりなタイトルだが、きっかけとはまさに突然訪れるものだ。

 不快に思われたら申し訳ないが、私は断捨離と片付けが苦手である。物が捨てられない故に片付かない物が増え、片付けが苦手であるが故に掃除が苦手である。洗濯も干して畳んで片付けるのが億劫であるし、作って食べるのは好きだが食器洗いは嫌いだ。嫌だよー嫌だよーと嘆きながらやるにはやるが、本当の本当になかなか体が動かない。それに加えて同棲中のパートナーも、私と同じく(か、もしかしたらそれ以上に)片付けが苦手なタイプである。生鮮食品以外の買い物袋は数日床に置きっぱなし、というのもざらであった。さらに、私もパートナーもキャラクターものが大好きで、ゲーセンを見つけてはぬいぐるみをキャッチし、ガチャポンを見つけては細々したフィギュアを増やし続けている。オタクの私が愛してやまないキャラクターグッズや、ドールオーナーも兼ねる私の娘・息子達もいる。ほんと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に、物が多い二人暮らしだ。物件的にはそこそこ広い部屋ではあるが、実家を出る際親に言われたのは「収納それで足りるの?」「荷物入りきるの?」である。そこなの????
 この生活にあえて名付けるならば、「アンチ・丁寧な暮らし」もしくは「アンチ・シンプルな暮らし」だ。テレビで片付け術などやっていても、こりゃあ私には真似できんわい、とチャンネルを替える。おまけに職場でぞんざいな扱いを受けた私は精神を病み休職することになり、体は鉛のように重く、ますます部屋は散らかるばかり。散らかった部屋を見てまた精神を病む・・・という悪循環。週末は片付けしようね、と2人で誓い合っても、なんだかんだと理由をつけては散らかった部屋から目を背け続けていた。

 が、タイトル通りのことが私の身に起こり始めた。

 私とパートナーの2人ともが愛してやまない生き物がいる。それはフクロウである。小学生の頃の愛読書がハリー・ポッターシリーズであった私は、幼い頃からフクロウという愛らしさと格好良さの両面を併せ持つ生き物に憧れを抱いてきた。それは動物園にフクロウがいたら、ハリーを守って殉死したいきものはこれか・・・としみじみ眺めてしまう程度の憧れであった。しかし某大人気アプリゲームの舞台化で、某フクロウカフェのアフリカオオコノハズクさんが某キャラクターの愛梟として撮影されたと知った際、「フクロウカフェ・・・フクロウって・・・会えるのか・・・!」と、再びフクロウへの憧れがむくむくと湧き上がった。そこで、フクロウに対してまだ私ほどの熱量を持っていなかった(というよりむしろ少し怖がってもいた)パートナーを引っ張って、勇んで初・フクロウカフェ体験をしたのであった。
 結果から言えば、フクロウカフェでパートナーは(そしてもちろん私自身も)フクロウへのラブをそれはもうめちゃくちゃに開花させてしまった。入店してすぐはおっかなびっくり触れたり、静か〜に眺めたり、静か〜に写真を撮ったりしていた彼であったが、腕乗せをさせてもらったりしているうちに、帰る頃にはすっかりビッグ・ラブになってしまっていた。そして、「ねえ○○県にもフクロウカフェあるらしいよ!」「うちから車で10分くらいのところにもあるんだって!行こうよ!!」「YouTubeで可愛い動画見つけたよ〜観て〜」などと、私より断然情報が早くなってしまった。もっとフクロウが知りたい!そしていつかはお迎えしたい!と、飼育書も購入した。熱い手のひら返しとはまさにこのことである。しかしもしこれを読んでいる方の中にフクロウってなんか怖い・・・と思われている方がいらっしゃったら、是非ともお近くのフクロウカフェを訪れてみてほしい。モフれば分かる、それが全てである。

 そして、私たちのフクロウカフェ通いが始まった。高速に乗ってI県のフクロウカフェにも行ったし、近くのフクロウカフェには月イチペースでお世話になっている。スタッフさん方もすっかりこちらを覚えてくださっていて、来店時の注意事項も「いつもの感じでお願いします〜」で済ませられてしまうレベルだ。フクロウ側もこちらを覚えてくれている・・・かは定かでないが、自分から腕に乗ろうとしてきてくれたり、優しく甘噛みしてくれたり、他の子構ってないで自分も構えと鳴いたりしてくれたりしている。ぴよぴよの雛を放鳥させている時も、なんというか半分お任せされている状態になりつつある。信頼されている(と思いたい)。こちらとしても嬉しいので、ぴよぴよたちがそこここにしていく落とし物も、「あら〜ちゃんと出せてえらいねぇ〜」とか言いながら率先して拭き取るなどしている。どういう立場だこれ。でもいつかお迎えしたその時には自分たちでしなければならない作業であるし、とか言いながらも、親バカならぬ客バカである(馬鹿な客にならないように細心の注意は払っているが)。しかし何度も通っていると雛たちに対し親戚のおばちゃんめいた感情が生まれるもので、成長を少しばかり見守ってきたフクロウが立派になってお迎えされていくのを見届けた時には、親戚の子がお嫁に行ったようなびみょうな感情が生まれるなどした。もうそれくらいのビッグ・ラブなのである。再度言うが、モフれば分かる、それが全てだ。

 さて、ここまでお読みになった方は、なるほどコイツはフクロウを家に迎えることになって変わったと言いたいのだな、とお思いのことと思う。が、それは間違いである。確かに、お迎えするなら初めて腕乗せした、オレンジの瞳が美しいアフリカオオコノハズクかしら、それともミステリアスな顔の印象とは裏腹に好奇心旺盛なメンフクロウかしら、パリパリチョコのような柄とまあるい瞳が愛らしいモリフクロウかしら、ユニークな顔盤とふわふわの羽毛が魅力的なカラフトフクロウ、メガネのような顔の模様が知的なメガネフクロウも捨てがたい・・・、なんてお迎えする種類を妄想もした。飼育書も購入したし、気の早い話だが名前も決まっている。しかし思い出してほしい、我が家は本当に物が多い二人暮らしだ。故に、物件の広さの割には狭いのだ。フクロウを迎え入れるとなれば、猛禽類である彼らの餌のために冷凍庫も必要になるだろう。今の家ではフクロウをのびのびと過ごさせることはあまりできないと言っていい。お迎えするからには、幸せに暮らしてほしい。コイツらの家に来てよかったなと思ってほしい。いつかはきっとと思っているが、フクロウと暮らす未来はまだ先なのだ。

 では何が「突然のきっかけ」なのか。

 チンチラである。
 件のフクロウカフェでは小動物も扱っており、ヘビやリス、そしてチンチラがいる。ある日、フクロウを愛でつつ、ほとんど初めて接するチンチラという生き物のケージを興味深く眺めていると、スタッフさんから「チンチラお膝に乗せますか〜?」と声が掛かった。犬派でも猫派でもなく動物派の私は、即座にお願いします!と頼んだ。膝の上でちょこまかと動き回るモフモフ、ウサギともネズミともつかないその姿、小さな両手を使ってお行儀良くおやつを食べるその仕草と、小さな手でもしっかりぷにぷにの肉球。可愛い。可愛すぎる。チンチラって猫の種類の名前じゃなかったっけ、程度のチラ知識しか持っていなかった私だったが、そのひとときで完全にチンチラにノック・アウトされてしまった。それはパートナーも同様であったようで、「チンチラの肉球・・・たまんないよね・・・」と言っていた。めろめろな私たちに、スタッフさんは続ける。

「チンチラでしたらケージで飼えますし、鳴き声も静かでにおいもあまりないんですよ〜」

 犬派でも猫派でもなく動物派の割にペットといえば金魚かメダカしか飼ったことのない私と、20年名前のなかったカメ(私が勝手に名付けた。カメリアという名である)とネオンテトラしか飼ったことのないペット初心者の私たち2人に、その言葉は大変魅力的だった。チンチラ、アリよりのアリだな・・・。その時私たちの胸に浮かんだ思いは同じであったと思う。しかしいくら飼いやすいといえど命を預かるというのは簡単な話ではない。その日はひと通りチンチラに相手をしてもらい、その場を後にした。が、その日から私と彼のチンチラへの思いは募るばかりであった。別にこの際においがあってもいい、かわいく鳴いてくれてもいい。そんなことで魅力は揺らがない。ことあるごとにチンチラの話をし、うわごとのように「チンチラ・・・飼いたい・・・」と呟き、チンチラのおしりのことしか考えられなくなったりした。チンチラポーズをとる奇行にも走った。「男の子ならまめふく・・・女の子ならおはぎ、あんみつもかわいいなあ・・・」とこれまた気の早いことに名前も考えた。そして、その日はやってくる。

「チンチラ、飼おう!」

 彼に決心がついた瞬間であった。その瞬間から、ネットやペットショップでケージを探し、チンチラハウスを探し、暑さ対策の冷却パネルを探し、齧り木を探し、給水機を探した。飼育書も購入したし(奇しくもフクロウの飼育書と同じ出版元であった)、先輩チンチラ飼いさんの記事等も色々と調べた。お迎えを決めた旨を件の店に伝え、普段食べているフードや好きなおやつ等の情報も仕入れた。お店がお休みの日にも関わらず、スタッフさんはありがたいことに長文で丁寧に説明してくれた。

 そして、それと同時に私に変化がやってくる。

 冒頭で述べた通り、私は掃除も片付けも苦手で、嫌いだ。しかし、チンチラを迎え入れると決めたその日から、徹底的に部屋をきれいにし始めた。しばらく使っていなかったものや、溜まっていた書類をどんどん捨てた。テーブルの上に出ていたリモコン等の小物も置きっぱなしを許さず、よく使う小物入れを作った。使用済みマスク入れコーナーを作った。あちらこちらに置いていた細々したガチャポンの景品も全て飾り棚にまとめた。少しでも埃やゴミが落ちていようものなら掃除機をかけまくり、クイッ○ルワイパーで床拭きをし、コロコロをかけた。家具の上の少しの埃もハンディモップで拭きまくり、料理しながら調理器具を洗い、食べた食器は即洗う。洗濯物は乾き次第即畳み、天気のいい日はなかなか洗えていなかったソファカバーやイ○アのサメ(名前はサメリアである。これも私が命名した)を洗濯した。水回りもクレンザーで磨き、鏡もぴかぴかに拭いた。トイレも少しでも汚れていたら掃除した。ただ丸めてしまっていたレジ袋も全て畳んだ。家のどこかに住んでいる、たまに顔を見せるクモにも「チンチラが来るからね、よろしく」と伝えておいた。基本的にケージ飼いのチンチラにも、部屋で散歩させる時間が必要だ。だからきれいにできるところは全てきれいにして、変なものを口に入れなくて済むようにしたかった。コイツらの家に来てよかったな、と、少しでもそう思ってほしい一心だった。

 今までなんとなく見えるところだけ片付けては3日で散らかっていた部屋は、片付いた状態を保っている。薬と休養ときれいな部屋で、私の精神状態もまあまあだ。これからも新しい家族のために、彼が歩くところも、歩かないところも、きれいな部屋を続けたい。

 私に部屋を片付けさせたチンチラ、ブラックベルベットのまめふくが、もうすぐ家にやってくる。
 片付いた部屋、空っぽのケージが、まめふくを待っている。



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