白紙がイラストになるまで

2023年2月18日 14:18

白紙の状態からどういう発想を経てイラストに仕上げるのか？

例えば「胸に花束を抱えた女の子」というように、ぱっと頭に浮かびやすいイメージを描くのであれば、あまり悩まずに白紙の上へ最初の線が引けそうです。
でもこれが「モンゴルの女の子が遊んでいるワンシーン」を描くとなると、すぐに線を引くことはむずかしいかもしれない。モンゴルの女の子がどんな格好をしているのか知らないし、どんな場所でどのような遊びをするのかもわからないからです。

自分に知識がないものを、どうやってイラストに仕上げていくのか？

これまでたくさんのイラストを描いてきた私にとっては当たり前の行程でも、描かない人にとっては興味深い話かもしれないと思いました。私流「発想の手順」をちょっと書いてみます。

上のnoteで紹介した『そうだ！ゲイにカミングアウト』という番組に、こないだファンアートを描きました。

番組を聴いていない人には、何のことやらさっぱりわけがわからないと思うので解説しますと、これは「棺を騎馬戦スタイルでかついでいる人たち」の絵です。

は？

説明します。番組パーソナリティの３人が騎馬戦の話で盛り上がってたんですよね。

「アタシたちってさあ、みんなで集まってもクッソつまんない話しかしないよね」
「騎馬戦やりたあい！　とかね」
「そうそう、騎馬戦！　楽しいよねー。めっちゃやりたくない？」
「やりたあい！」
「いやいや、あんなのいまやったらヤバいって。マジでケガして重傷負うから」

というようなやりとりがあったあと、「子どもいないあたしたちの老後どうなるよ」問題についてのちょっと真面目な話し合いを経て、「死んだらどんなお葬式がいい？」という話題になり。

「ねえねえ、ウチら騎馬戦で出棺しない？」
「あはは！　いいね、それ！」
「アタシ騎馬戦で出棺されたい！」
「したげるわよ」
「はい、決まり〜！」

みたいなオチできれいにまとまったわけですが、散歩中に聴いていた私はこのくだりで爆笑しまして、あまりにも気に入ったので「騎馬戦で出棺している３人」の絵をファンアートとして描きたくなったのです。ごく自然な流れです。

帰宅してすぐiPadを開き、Apple Pencilを持つ。白紙のキャンバスを立ち上げる。さあ、描くぞ。

と、ここでいきなりの難関が目の前に立ちはだかります。「騎馬戦してる人」ってどんな格好してるんだっけ？

こんなのいくら頭の中で思い出そうとしても、遠いあの日の記憶が遥か彼方にうっすら霞んで見えるばかりなので、さっさと画像をググります。

帽子を取り合っていたり、組み合っていたり、いろんなパターンの画像が出てきた中で、私が選んだのはこちらのイラストでした。

武将と騎馬戦！　うまい！！！　ピクシブ百科事典からリンクに飛ぶと、「血ヘド」さんとおっしゃる方のオリジナルイラストのようです。血ヘドさん、勝手に持ち出してすみません！

この躍動感ですよ、私が求めていたのは！　出棺って暗いイメージだけど、騎馬戦でやるならぜったい楽しい。みんな笑顔のはず。

下の３人がどうやって組み台を作っているか、細かいところはほかのイラストも参考にしながら描いていきます。お手本がいっぱいあるから楽チン。

パーソナリティの顔は３人が所属しているLGBTクリエイティブチーム『やる気あり美』のサイトにある「メンバー」一覧を見ながら描きました。

ここでひとつ問題発生。騎馬戦で出棺されたいと言っていた「みしぇう」さんを、ほかのみんなでかつぐわけですが、組み台には３人必要なのにパーソナリティはあと２人。１人足りんではないか。そこで急遽、番組当初に出演していた井上涼さんを加えることにしました。

さて、いよいよメインです。棺でかつがれる「みしぇう」さんをどう表現するか。横長の棺をただかつぐとなると、単なる「わっしょいかつぎ」になってしまいます。それじゃ騎馬戦とは言えない。それに、下の３人がかつぐためには、上の人の左右の足が両脇に出ていないといけません。横長の棺の左右の面に両足をつけてもいいけど、それだとなんか上の人の「かつがれてる楽しさ」が伝わってこない。