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BLへの門戸を開いた雑誌「小説June」とKさん

先週創刊した「週刊BLマガジン」。
フォロワーさんが8人にもなっていて、大変嬉しくありがたいことでございます。

さて、いかなBL好きでも、おんぎゃーと生まれたそのときはBLのビの字も知らなかった。誰しもあの異世界と出会うきっかけを持っているものです。

私の場合はかなりはっきり指差して「これ!」と言える出来事がありました。これがあったからBL好きになった。これさえなけりゃBLに染まらなかったかもしれない。
それが「小説June」という雑誌との出会いです。Juneと書いてジュネと読みます。私が中学1年生、13歳の頃の話です。

自分で見つけたのではありません。何を思ったか、この雑誌を私に貸してくれたクラスメイトがいたのです。当時を思い起こして漫画に描いてみました。

漫画50%


この「小説June」という雑誌に、一体どのような種類の小説が掲載されていたのかについては、上の漫画の最後から2コマめを目を皿のようにして見ていただくと、大体わかります。
なにしろ私にとっても古い記憶なので、間違いなくこうだったと説明する自信はないのですが、まあ大雑把に言えば学園ものの耽美派BL小説が誌面を埋めておりました。

13歳の当時、私は水泳部の活動に明け暮れる日々を送りつつ、クラスの副委員長を務めており、自分の言うのもナンですが、絵に描いたような優等生でした。家と学校だけが世界の全てで、ほかのことは何にも知らない。うぶでした。
消しゴムに好きな人のイニシャルをマジックで書き、それを最後まで使い切ったら恋が実るというおまじないを信じ、カバーをつけた消しゴムをペンケースに隠し持っていた。それほど純情でした。

上の漫画に出てくるクラスメイトのKさん。なぜ彼女がいきなり私に、あんな雑誌を貸してくれたのか、理由はわかりません。ただ借りた。借りたから読んだ。読んだ私の頭の中に稲妻が落ちました。見開いたままの乾いた目が、衝撃のあまり転げ出るかと思った。まさに天と地がひっくり返ったのです。

最初に思ったのはこれ。「この人たち、一体何をやってるの?」
おそろしいことに、私は男女の性愛をまだ知りませんでした。どうやって赤ちゃんができるのかわからない。本当に何も知らない子どもだったのです。
それほど清廉潔白だった私が、男女の色恋を知る前に、男と男の睦言を知らされてしまった。こんな不憫なことがあるでしょうか。

Kさんというのは、上の漫画の中では妖しげな美少女ですが、実際にはパタリロが大好きで、いつも語尾に「にゃ」をつけて話す、今から思えばかなり気合の入ったオタクでした。

私はなぜか彼女から身震いするほど好かれていました。その頃水泳部に所属していた私は、日焼けした肌が浅黒く、塩素入りのプールに浸かったショートヘアがほとんど金色に脱色していて、おまけに背が高かった。
もしかしたら彼女はそのオタク式色眼鏡を通して、「小説June」の重要なテーマになっている美少年的要素を、私の中にほんのちょっぴり見出していたのかもしれません。しかし何より、将来不動のBL好きになる私の隠された素地を、私自身よりも先に彼女が見抜いていたのだろうと思います。同類を嗅ぎ分ける、あの鋭い嗅覚によって。

男同士で何やらやっている小説ばかりがひしめいている、そんな雑誌を突然読まされ、天地がひっくり返った私ですが、「不潔よ!破廉恥だわ!」とKさんに突き返し、二度と口をきかなかったかというとそうではなく、ここで私の真面目さが妙な方向に動きました。すなわち、未知への飽くなき探求、であります。

私は自ら「小説June」を買いに行くようになりました。
こっそりコバルトもどきの小説を書いていた私には、プロのBL作家による臨場感あふれる文体が大変魅力的に映りました。「これは!」という表現には鉛筆で線を引いたものです。例えば「震える頬は羞恥に赤らみ」などの言葉です。

コバルト小説と並行して漫画も描いていた私は、雑誌の小説についている挿絵がまた非常に好都合なお手本になりました。体育館準備室の体操マットに背中を押しつけられ、羞恥に赤らむ少年の顔。普段習字の授業で使っている半紙をその挿絵の上に乗せ、うっすら透けて見える描線を、息を詰めながら鉛筆で写し取りました。

本人は至って大真面目です。自分の未熟な画力を鍛えるためにやっているのですが、いかんせんなぞっているのが少年のたくし上げられた体操着に寄るしわなのですから、はたから見ればただの変態行為です。
その頃の修行の成果が、最近描いた漫画「少年の種」などでささやかに発揮されているわけですが、いいことか悪いことか、私にはわかりません。

ともかく私はKさんのおかげで、まごうことなきBL好きになりました。何と言っても男女より先に男のまぐわいを知ってしまったわけですから、卒業なんてできるわけがありません。50、60、70になっても、BLを読んでいるでしょう。

Juneから私は実に多くのことを学びました。森鴎外の娘、森茉莉がBL小説の巨匠だったということも、Juneの文芸欄で得た知識です。彼女の小説「恋人たちの森」は今も私の本棚にあり、私のバイブルです。

BLは奥深い。この豊かな世界に出会えて本当によかった。
13歳という年齢は少し早すぎたような気もしますが、これもまた運命です。当時引き合わせてくれたKさんと、私の脳みそを濃い薔薇色に染めてくれたJuneに心から感謝します。

Kさん、今も元気にBL読んでるかな。

最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。