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半笑いの神様

二年つきあった彼女に振られた。
「小野寺くんから誘われたの。一緒にパリで暮らさないかって」
僕はパリに負けた。親友だった小野寺にも。

絶対来るだろうと身構えていたあいつが、通勤途中に現れた。僕に並んで歩きながら、嬉しそうにやつは言った。
「やっちゃいましたねえ」
「うるさい!」思わず怒鳴りそうになった。真っ白な布を体に巻きつけたいつもの格好。この姿は僕にしか見えないのだ。

初恋の先生の前でお漏らししたときも、第一志望校に不合格だったときも、親の新車をポールにぶつけたときも、こいつは僕のところへ来た。「やっちゃいましたねえ」と口先だけで同情し、決まり文句を囁いてふっといなくなるのだ。

今回も同じだった。
「そのうちいいことありますよ」
にやっと笑って姿を消した。

雲の上では二人の神様が語り合っていた。
「君ね、そろそろ止めたらどう?気の毒じゃないか」
「だってさ」薄笑いを浮かべながらもう一人の神様が言った。
「来年10億当たるんだぜ」


最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。