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少数派を代表する人の笑顔の裏を想像できているか

今朝イラストを1枚投稿したのですが、どうにも書き足らぬやるせない思いがあるので、ここにしたためます。自殺考も含めたかなり率直な内容なので、有料にして鍵をつけようかとも思ったのですが、こういう話こそ公にすべきかもしれないと思い直し、このまま公開します。心の強さにいま自信のある方だけお読みください。


阪神vs横浜戦をテレビで見ていたときでした。iPadでネットニュースをチェックしたいたウナさんが突然、「ryuchellが自殺したで」と言いました。私は最初耳を疑い、「え、ryuchell? ryuchell?」と何度か聞き返して、それがどうやら真実であると知り、そのあと言葉が出ませんでした。驚いた。そしてショックでした。ryuchellのファンでも何でもなく、SNSアカウントもフォローしていなかったのに。

私の中でryuchellはずっと、「キラキラした世界のアイドル」みたいな位置付けでした。外国の絵本に出てきそうな、活発でボーイッシュな女の子というイメージをデビュー当時から持っていて、結婚して子どもが生まれたあとも、自分らしい人生を思いきり楽しんでいるのだと思っていました。

離婚のニュースが流れてから、ryuchellはアイドルではなくなった。私にとって少し身近な存在に変わりました。自分らしさを大切にしたいと宣言し、装いに明らかなフェミニンさが加わった。それを見て私の中に明確な「仲間意識」が芽生えたのです。氷川きよしがkiinaとして活動を始めたときも、私は同じように感じました。

異性装について、与えられた性別を疑ったことがない人に説明するのは骨が折れます。かなり乱暴な言い方をすると、あなたがいま女性であるとして、「明日からダウンタウンの松ちゃんとそっくり同じ格好をして生きてください」と言われたと想像してください。

……嫌でしょう?

なにも松ちゃんである必要はないのですが、要するに見た目もしぐさも見るからに男らしく生きろと言われたら、当然ものすごい抵抗感が生まれると思います。私の場合、私が女らしさを求められるのは、そのぐらい違和感があることなのです。藤原紀香と同じ格好をせよ=「冗談じゃねえ」のです。

ryuchellの言う「自分らしさ」の中に、どれほどの女性性が入っていたかはわかりません。あくまでジェンダーフリーを目指していたのかもしれませんが、女性と見まがうメイクや衣装で両膝をそろえて座るryuchellに、これが本来の姿なのだと私ははっきり感じました。おかえり、と声をかけたくなった(kiinaにも同じことが言えます)。


なぜ自殺をしたのか。誰かが命を絶つと必ず持ち上がる疑問ですが、答えは明確です。その人が毎日「死にたい」と思っていたからです。

たとえばAという人に片想いをしているとします。毎日Aのことを考えている。思いきって告白してみようかな。いや、やめとこう。でもやっぱりこの想いを伝えたい。だめだ、勇気がない。気持ちが行ったり来たりを繰り返す。そこにチャンスが訪れます。BBQにAが来た。用事を切り上げての途中参加。Aはすぐ隣にいる。話が盛り上がる。帰り道、駅まで一緒に歩く。ほかの人はみな反対方向へ。二人きり。いましかない。告白をついに実行します。

Aへの告白を毎日考えているから、いざというとき実行する。自殺も同じことだと思います。Aのことを何とも思っていなかったら告白なんてしない。死ぬことを普段考えていない人なら自殺はしません。

毎日「死にたい」と思う。死を願うほど、毎日が辛い。


私がメンズ服を着ているからといって、別に誰にも何も言われません。そのことを積極的に発信していないので、見知らぬ人からキモいとか死ねとかも言われない。

少数派の代表として表舞台に立つ人には、どれほどの負荷がかかるか。ryuchellが仮に、大多数の人と同じように、男として生まれた性をあたりまえに受け入れられる人であったなら、そんな苦労は一切味わなくて済んだのです。死にたいなんてことは一度も思わずに生きられたかもしれない。

できることなら専門医を受診して、適切な治療を受けてほしかったけれども、たぶんそんな余裕は心のどこにもなかったのでしょう。信頼できる誰かを頼ることもできなかったのだと思います。考えることはただひとつ。死ぬほどの苦しみから逃れたい。それだけ。

この数年、相次ぐ有名人の自殺の報に接してきて、まず最初に私の心に浮かんだのは、「その苦しみから解放されてよかったね」という思いでした。自ら閉じる最期もある。それもまた寿命なのだと。

ryuchellにも同じ思いを抱いています。抱いているけど、衝撃はほかの誰より大きかった。それはやはり、大切な仲間を亡くしたという気持ちが私にあるからでしょう。

古い時代を変えていく、その先頭に立つ人として、心の中で応援していました。風の時代に風のように去ってしまったryuchellさん。私はあなたを誇りに思います。これからもずっと。

最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。