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水彩イラストができるまで(ガチ編・クリスタ) #金曜トワイライト

先日、「水彩イラストができるまで(ざっくり編・クリスタ)」をお届けしました。

これは池松潤さんの企画「金曜トワイライト文学賞」で、総合大賞を受賞された湖嶋いてらさんの小説『レモンドロップ』を映像化したときのイラスト原画が、どのようにできあがっていったかをざっくり書いたメイキングです。

今回は同じシリーズの(ガチ編)として、さらに踏み込んだ制作過程を紹介していこうと思います。お絵かきソフトはClip Studioオンリー。

Clip Studio、略してクリスタは、もともとComic Studio(コミスタ)という名前で、漫画を描くのに特化した超便利ソフトとして知られていました。私もそのころから愛用している一人です。
漫画をメインで描くならコミスタ、イラストメインの人はPainterという使い分けが主流だったように思いますが、現在のクリスタはイラスト機能も充実。ジブリなどのアニメーション制作会社も採用している名高いソフトに進化しました。

幼なじみだと思って気安くしていたミホちゃんが、いつのまにか全国的な売れっ子アイドルになっていた。いまでもLINEで恋愛相談をしてくれるけど、その相手が私も憧れている舞台俳優で、なんとアドバイスしていいのかわかりません。芸能界の秘密の恋愛を成就させる方法なんて知らない。

私がクリスタを「知っている」のもそのレベルです。一般市民の恋愛どまり。すんごい裏技をこっそりおしえちゃうのは、やってみたいけどムリ。

だから、「ガチ編」なんて言ってるけど、目から鱗は落ちない程度の内容になると思います。ガチプロが読んだらへそが茶を沸かすでしょう。

この絵を見て「どうやって描いてんの?」と思う人には、多少役立つかもしれません。期待しすぎちゃダメよ。


ではメイキングに移りますが、その前に。上の女性の絵がアニメーションのどこに使われたかを説明させてくださいね。

▼動画


冒頭から20秒を過ぎたあたり、カメラが女性の全身を、足から口元にかけてさっと走るシーンがあります。
こんな感じで、ハイヒールの足を映したカメラが、


勢いよく上がっていき、


女性の口元で止まる。暗転。


なので、私は女性の全身を描きました。背景も合わせるとこうなります。


長くてすいません。
特に膝下が長いのは、池松監督のリクエストによるものです。

この動画は「オリジナル編」と「アナザースカイ編」の2バージョンあって、中に5つの違いが隠されています。気になる方は池松さんの正解発表をどうぞご覧ください。(コンテ割を書いた監督の、各シーンに対するこだわりが熱い!)


さて、女性の全身イラストですが、カメラは足から上がって口元で止まる演出なので、鼻から上は動画に映りません。
映像を編集された涼雨零音(すずさめれいん)さんが、絵を描く前の私にこんなやさしい言葉をかけてくれました。

「カメラの静止時間が長い、ハイヒールと口元だけ丁寧に描いてくれればいいですよ。カメラが流れる部分はこちらで加工します。大丈夫、わたしがいつもあなたのそばについていますから・・・(低音イケボで)

セリフの後半部分は私の捏造です。すいません。

そうか、足と口だけしっかり描けばいいんだな、あとは零音さんの編集技術にお任せすればいいのね、それにしてもあのイケボ・・・ムフフ・・・とうっとりしながらペンを走らせていたら、なぜか女性の全身がくまなくできあがっていました。いつのまに!

涼雨さんが動画の編集よりも力を入れていたというナレーション録音の裏側が、スタンドFMで楽しめますよ。私はもちろんかぶりつきで聴きました。

「忘れられない恋がある」・・・発音の難しさよ。


全身くまなく描いたけど、使われなかった女性の顔。せめてもと「みんなのフォトギャラリー」に登録し、このメイキングでも取り上げる次第です。

いざ。


1.下絵(ラフ)

キャンバスサイズは横が1400pixelぐらい。350dpiで、Gペンのサイズは1.0です。

ありゃ、なんかずいぶん険しい表情にしてたんだなあ。髪型もちょっと違う。まだ女性のキャラが確定していないときに描いた絵で、いろいろ試行錯誤した覚えが。

まあ、これがラフです。
ストールを巻いた感じやコートの襟、袖口などは、ググった写真をいくつか参考に見ながら描きました。


2.ペン入れ

ラフとは目鼻の位置や髪型を変えてますね。線が細くなっているのは、慎重丁寧に描いたからかな。

髪だけ別のレイヤーに描いてます。これはいつもそう。髪型がしっくりこないことがよくあって、描いては消しを繰り返すうち、ああ!眉毛を剃ってしまった!なんて悲劇を防ぐため、最初から別レイヤーにしています。
このときも5回は直したはず。

ペン入れ完了。私は瞳孔もペンで塗ります。


3.色塗り(ベース)

塗る範囲をマスクしてクリッピング。
前回のnote(ざっくり編)でくわしく説明しています。


続いて色塗り。まずは肌から。
「リアル水彩」の丸筆をメインで使ってます。

▼リアル水彩で描くときのコツを、クリスタ公式がくわしく説明してくれているサイトがあります。ブラシの設定などはここを参考に変えました。


こちらは私のクリスタのスクショ。

左端の「セット2」は、自分で設定したショートカット。よく使うツールはここに入れておくと、1回の選択ですぐに切り替えられるので重宝してます。
(クリスタの「ウィンドウ」ー「クイックアクセス」からお好みで追加、削除できますよ。←最近知った)

あと、レイヤーのいちばん上の”水彩パレット”。自分で作ったレイヤーですが、新しい色を塗るたびここに追加してます。あとで塗り残しを発見したときなんかに使える。水彩で塗ると薄く出るので、パレットにはべた塗りペンでくっきりと色を残します。(あとでスポイトで吸うことを考えて)
このパレットは、ほかのレイヤーに影響が出ない「下描きレイヤー」に設定し、完成までほぼ出しっぱなしです。(それほどよく使う)


では、ベースの色塗り。まずは肌から。リアル水彩の丸筆でさっと塗ります。


次に肌の影を入れます。このとき、光がどこから当たっているかを決める。
この絵の場合、女性は落ち込んで少しうつむいています。その寂しさを表すために、右上から光を当て、顔のほうに影を作ることにします。

湖嶋いてらさんの小説のこの場面。

街なかで彼を見かけた。
そう、ここは彼の街だった。
知ってて来たけど、まさか本当に見かけるとは思っていなかった。

遠くからでも分かるその出で立ちは、都会の男、という印象だった。おしゃれでスマートな笑顔。
その横には、都会の女、がいた。

きっとランチしただけ。
オフィスビルに吸い込まれていく二人を、必死に目で追った。
冷たい北風が容赦なくうなじを吹き付ける。
たまらずストールを出して頬の辺りまでぐるぐると巻いた。

・・・・・・誰や、いてらちゃんを泣かしとるやつは!許さん!

ちょっとした怒りにかられつつ、女性に寄り添う気持ちで肌の影を塗ります。

ああ、せつない・・・。


気を取り直して、次は髪。

ぼやぼや〜っと水彩が滲んでるところは、「色混ぜ」ツールを使ってます。

髪と同じレイヤーで、ぼや〜っとさせたいところをなぞるだけ。
「指先」や「繊維にじみ」もよく使います。いろいろ実験してみるとおもしろい。


髪に影をつけます。右上から光が当たっていることを意識しながら。


同じように、服や小物にも色と影をつけます。

ベースが完了しました。


4.色塗り(お化粧)

ここからは命を吹き込む作業です。体温が感じられる人物になるよう、色を差していきますよ。

目と唇です。まずは単色で塗る。


目に白を足します。唇は影になる部分に重ね塗り。


次に頬です。
「リアル水彩」から「水彩」に切り替え、「塗り&なじませ」でうっすらとチークを入れます。

筆を「リアル水彩」に戻し、マニキュアを控えめに塗る。
(この女性は書道の先生です。爪はたぶん短くて、おとなしめの色を塗るだろうなと思ったの)


全体を見てみましょう。

うん。だいぶあたたかみが出てきましたね。体温35℃ぐらい。あと2℃ほど上げたいな。


髪と顔にホワイトを入れましょう。光が当たる箇所=ホワイトです。

顔のホワイトは、目の下と鼻の頭に入ってます。唇にもつや足し。体温36℃ぐらいになったかな?


服にもホワイトを入れよう。光は右上から。


目に生気がないので、白を足します。(ここではGペンでくっきりと)

いいね!36.5℃。
お化粧完成、いったん置きます。


5.眺める→いろいろ試してみる

完成した絵を眺めてみます。数日寝かしてもいい。
夢中になって描いていたときとは違う、新しい目で遠くから見ます。

これで完成でもいい?


でもどこか、単調な気がします。色がのっぺりしている。ストールのやわらかさが足りない。

色を足してみようかな?

そう思いついたときに、作っておいた"水彩パレット"が役立ちます。足すときは使った色(に近いもの)を選ぶのが無難。(冒険してみることもあるけど)

2つ3つ試しながら遊んでみた結果、こんな感じに落ち着きました。

光の当たっている場所に薄い黄色を乗せて、華やかさをプラスしました。黄色はピアスに使っていたものです。紫やグレーと相性がいい色。光に色を加えることで、表情の翳りが際立った、気がする。ストールにもうっすら白を追加。


人物はこれで完成としました。あまり触りすぎると、水彩の透明感が失われていくので。

このままでもいいけど、一枚絵として見せるなら、背景がないのは寂しいですね。


6.背景を足す→人物をなじませる

光の方向を意識しながら、パレットの紫を使ってグラデーション風に水彩で塗りました。白い粒は「エアスプレー」で描写。
愛する人が別の女性と連れ立って歩く姿を目撃した彼女。不安な気持ちが小さく泡立つさまをさりげなく表現しています。(なんとなく言ってる)


背景を描いたあと、やることがあります。人物を背景になじませることです。
背景も絵の一部。全体を調和させておきたい。

さあ、どうするか。

人物にグラデーションをかけます。

どういうこと?

ペン入れしたあと作ったマスクがありましたね。あのレイヤーを色塗りフォルダの上(ペンの下)にコピーします。

色塗った上に白いマスクが置かれた状態。

そのマスクレイヤーの上に新規レイヤーを追加します(グラデーション用)。
コピーしたマスク部分を選択し、「グラデーション」ツールの「描写色から背景色」を選び、描写色に黄色、背景色に紫をスポイトで選択。


光から影の方向へ、グラデーションツールを直線に動かします。
(光=黄色、影=紫)

大丈夫ですよ。

「マスクのコピー」レイヤーを非表示にし、「グラデーション」レイヤーの濃度を下げていくと。

おおおおお!なんかオシャレなことになってる!

濃度を15%前後まで下げ、レイヤーを「通常」から「乗算」に変えてみてください。


▼グラデーションなし


▼グラデーションあり


人物が背景になじんだの、わかります?
ビミョーーーな違いなんだけども。
手の色を見比べてみてください。下の絵のほうが紫がかってるでしょ?

これ、なんのためにやってるかと言うと、人物が背景から浮き過ぎないようにしてるんです。そのほうが自然に見える。
夕焼けなんかでやると一発でわかります。


▼グラデーションをかける前


▼グラデーションをかけたあと(オレンジ→グレー)

夕日浴びてる間、マシマシ!

背景の空と人物がなじんでますよね。グラデ、グッジョブ!


次はいよいよ最終調整です。デジタルの力をここぞとばかりお借りするよ!


7.色調を補正する

全体の色調を補正します。そのために、たくさんできたレイヤーを1つのレイヤーにまとめましょう。
新しいフォルダを1つ作り、必要なレイヤーを中に入れます。

レイヤーをまとめたフォルダを、フォルダごとコピー。元フォルダは非表示にします。(非表示にしたフォルダは予備です。あとで塗り忘れを見つけたときなんかのために、一応残しておくと命拾いできます。よくやるのよ、塗り忘れ)


「レイヤー」ー「選択中のレイヤーを結合」で、上のフォルダを1枚のレイヤーにします。

このレイヤーで色調を調整します。


「編集」ー「色調補正」ー「トーンカーブ」を選択。


こんなのが出てきます。

斜めの線はどこでもつまめて、上下左右に動かせるようになってます。色調の変化を確かめながら、いろいろ触ってみてください。


はい、完成。

体温ちょっと高め、37℃の女性が生まれました。おつかれさま!


*おわりに

いかがでしたか?ガチのメイキング。

私がクリスタを使い始めたころは、みんなどうやってデジタルで絵を描いてるのか、さっぱりわかりませんでした。
今日紹介したTIPSは、ほとんどネットで拾ったものです。
人物が背景から浮くことに悩んでいたとき、グラデ+乗算の技を知って新しい扉がバーン!と開けました。トーンカーブ調整の知識を仕入れてまたバーン!

行き当たるたびにせっせと収集したテクニックを、使いやすいよう自分なりにアレンジし、水彩イラストを描くときの一つの手順になったのがこのメイキングです。うまく描けずに悩みながらネットをさまよっている人に、このページを見つけてもらえたらいいなあ。そういう思いで書きました。

「なるほど、その手があったか!」と膝を打ち、新しい扉を開いてもらうきっかけになったら、こんな嬉しいことはありません。
いわば、全然描けなかったかつての自分に向けて書いたようなものですね。

「もっとうまくなりたい!」誰もがそう願うもの。

私もまだまだ試行錯誤の中にいます。憧れる絵師はごまんといて、なかなか追いつきそうもない。かの北斎でさえ、自分の絵に最後まで満足しなかったと聞きます。ゴールは永遠に来ないのでしょうね。

ただ、絵を描くのは楽しい。時間を忘れます。だから描き続けているし、もっとスキルを磨こうと前向きな気持ちになれます。

描写力とテクニック、両方を磨きつつ、見てくれる人の心に残るような絵をこれからも描いていきたいと思います。

6,000字に到達する勢いで書いちゃった。
長々おつきあいいただき、ありがとうございました。


▼みなさんから寄せられたお絵かきの悩みを一緒に考えるマガジンです。
(お悩み、ゆる〜く募集中)


▼iPadでのお絵かきにめちゃくちゃ役立った、えくさんのありがたいnote。


▼イラストをアニメにする技術に興味のある方は、涼雨さんのメイキングシリーズもぜひ読んでみてください。こちらもガチです!


絵を描くみなさん、一緒にお絵かき楽しみましょうね。

最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。