【小説】連綿と続け No.35
『また春子が来た 助けてくれ』
平和な休日に春子がやって来て、
困り果てた航は武史にLINEを送った。
武史は実家の旅館で働いている。
しかしこの日は午後から半休だったため、
航からのLINEにすぐ気づき返信する。
『わかった すぐ救助に向かう!』
春子の途方もない恋の予感の話を
永遠と聞かされている航と侑芽。
春子)なんて言うかさぁ、初めて会った時にビビビビ!ってきたんだよね。それってさぁ、今思うと運命!?みたいな?
侑芽)フフフ!そうなんだぁ
航)その表現、古っ…
春子)あ!?なんか言った?
航)いや、なんもないです…
侑芽)でも春ちゃん?もしも武史さんとお付き合いして、もしもいつか結婚って事になったら、いずれ女将さんになるって事でしょ?そんなの春ちゃん無理でしょ?
春子)け…結婚!?私と武史さんが!?ギャー!!そんな未来あんの?私に!?
航)なん!例えばの話ちゃ!そら武史はあっこの跡取りやさかい、もしも付き合うたら…、そらそうなるやろ
春子)やだ〜♡もぅっ!気が早い〜!!
侑芽)でも、そしたら春ちゃん毎日お着物着て、お客様にご挨拶したり、仲居さん達を取り仕切ったり、たぶんすっごい大変だよ?
侑芽と航が現実的な話をしだすと、
さっきまで浮かれていた春子は急に正気に戻り
春子)それな!それはめんどいなぁ。着物なんて苦しいし、接客もなぁ…美術館の案内なら得意だけど、酔っ払いとか面倒なお客さんにも愛想笑いとかするの、アタシには無理だわ…
そんな話をしているとインターホンが鳴り、
爽やかに武史が現れる。
武史)こんにちは!春ちゃんまだおる?
その声を聞き、
春子は急に姿勢を正して組んでいた足をおろし、
満面の笑顔で出迎えた。
春子)こんにちは〜!この前はどうも〜
そう言って綺麗にお辞儀をしている。
航はその豹変ぶりを目を細めながら見ている。
武史は春子の隣に座り
武史)元気そうやな!しかし春ちゃんはいつ見てもべっぴんさんやな〜
そんな事をサラッと言う武史。
春子は喜びを隠しきれない。
春子)そんなことないです〜♡
春子の声はさっきよりもトーンが高い。
そして侑芽が武史に飲み物を用意しようとすると、
武史がそれを止める。
武史)あぁ、侑芽ちゃん!すぐ出るさかい、気ぃつかわんでくれま!
侑芽)でも…
武史)今から春ちゃんとデート行くさかい!
春子)え!?デートですか!?私と?
航)は?……
侑芽)へ?……
武史)うん!せっかくやし、どっかドライブでも行かん?
春子)べ、べ、別に…いいですけど……
武史)そしたら決まり!さっそく出よう!
そう言って春子の手を引き
颯爽と退場する武史。
春子は戸惑いながら侑芽に耳打ちする。
春子)どうしよう……春子今日、勝負下着じゃないよ!?
と泣きそうな顔になっている。
侑芽は笑いを堪え、小声でエールを送る。
侑芽)春ちゃん、ファイト!
完全に恋する乙女と化した春子は、
武史と共に出て行った。
2人が居なくなり急に静まりかえった室内。
そこでしばらく呆然としている航と侑芽。
航)嵐が去ったな
侑芽)はい…すみません。いつも春ちゃんが……
航)いや、別にええけど……
侑芽)武史さん、私達に気をつかってくださったんですよね?
航)それもあるかもしれんけど、たぶん武史も、まんざらでないな
侑芽)え?そうなんですか?
航)うん。春子のこと、友達思いのええ奴や言うとった。あとな、美人なのに男勝りなとこがええとか。俺にはようわからんけど
侑芽)へぇ!けっこう脈ありじゃないですか!春ちゃんと武史さんかぁ。上手くいくといいなぁ。でも春ちゃんが将来、旅館の女将さんになってるとこは想像できないなぁ…
侑芽がそんな心配をしていると、
航は目を泳がせながら
航)アイツらの将来はどうでもええ
侑芽)どうでもよくないですよ!大事な友達ですよ?
航)そっちゃそやけど、アイツらのことより、自分らのことは考えんがけ?
侑芽)私達のこと?
航)侑芽は将来、どうなりたい?
侑芽)え、将来?ん〜…。正直、就職したばかりで、まだ先のことなんて考えてもいませんでした
航)仕事もそうやけど、そうやのうて、ずっと俺とおれるかっちゅうこと……
侑芽)はい。そのつもりですよ?
侑芽がそう答えると、
航はギュッと抱きしめた。
航)ほんならええ
2人はそのまま
倒れ込むようにして1つになった。
侑芽が眠ってしまったあと、
航は指を絡ませ手を繋ぎ、
細い指をなぞりながら何かを思いついた。
航)そうや……
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