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Ol' '55 Tom Waits

今回から趣向を変えて洋楽を採りあげる。Tom Waitsの「Ol' '55」。
突然この曲について書きたくなったのである。
題名は「古い55年型の車」というわけで、リリース時20年前の型式ということになる。
以下、私の意訳になるが、歌詞を見ていこう。

俺が若かった時代は矢のように過ぎ去り
いまやこのオンボロと同等
ゆっくり走り出すと、なんだか聖なる気分になったよ
おお神よ、俺はまだ生きてるぜ

朝日が昇り始め、幸運の女神とドライブ
フリーウェイには他の車とトラック
ゆっくり走る55年型の後ろには車の群れ
まるでパレードの先頭
神様、もう少しだけ生きていたいんだ

朝の六時、神の啓示はなく
いつもの生活に戻る頃合いだ
何台もの車に追い越され、トラックはパッシングしてくる
いつもの生活に戻る頃合いだ

オンボロ車に自分を投影している体だ。
エンジンがかかるだけで幸運という愛すべき車は、フリーウェイでも厄介者で、若者たちがビュンビュン抜かしていく。
酔いどれには天国のような夜が過ぎ去り、重い体を引き摺るように仕事に向かう朝。
こういう歌詞が、初老に差し掛かった私には、とても沁みるのである。


モノクロ、タバコの写真が多い

だがTom Waitsは、酔いどれの初老の男を演じているにすぎない。
なにせリリース時、弱冠23歳なのだから。
その年齢でこんな老成した曲を産み出せるとは、非凡なる演技者だ(実際、俳優としても活躍している)。
デモテープの段階でEaglesが目を付け、すかさずカバーするが、やはりこの曲はTom Waitsの嗄れ声じゃないといけない。
Glenn FreyとDon Henleyの歌声は、コカコーラのように爽やかで甘いのだ。

Tom Waitsの声は、作を重ねるごとに嗄れてゆき、「Ruby's Arms」あたりで頂点を迎える。
だが芝居っ気の方も増してゆき、 「Ruby's Arms」確かに名曲だが、大仰さも感じてしまう。
本作くらいの味わいが、私にはいい塩梅なのである。

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