【映画感想】『ヴィレッジ』 ★★★★☆ 4.0点

あらすじ

 巨大な最終処分場を擁する集落・霞⾨村。この村に住む片山優は過去のある事件のせいで、村中から疎まれ虐げられながら、最終処分場の作業員として細々と暮らしていた。そんな中、東京へ上京してきた幼馴染の中井美咲が村へ帰ってくる。最終処分場の広報として働き始めた美咲は優と再会し、親交を深めていく。美咲と交際を開始し、処分場の広報としての仕事をあてがわれ、徐々に人生が上向き始めていく優であったが、その背後では様々な問題やしがらみが拡大しつつあった。


評価

★★★★☆ 4.0点


予告編


感想

 社会の底辺にいる青年の一瞬の栄光とそこからの転落を描く一作。「田舎って嫌だよね」というタイプの作品に見えるが、どちらかというと、最終処分場というギミックを置きやすく、かつ、この処理場に関わるコミュニティを小さくしたいという作劇上の制約から、逆算的に舞台設定が小さな集落に設定されているように思われる。そのため、田舎の陰湿さといった要素はあまり押し出されておらず、どちらかというと、ある秘密を共有したコミュニティを舞台にしたサスペンスという方が感覚的には近い。

 主人公の序盤の陰惨な極貧生活の描写が周到で、後々のトラブルへと繋がる布石の置き方が明瞭であるため、彼の人生がヒロインとの交際を機に上向けば上向くほど、その後の凋落への予感が色濃くなり、作品はスリリングさを増していく。ストーリーのテンポが良く、脚本も地に足のついた展開で構成されているため、しっかりと物語へと没入しながら、安寧な生活の崩壊へのカウントダウンを楽しむことができる作品となっている。

 本作においてキーとなる物語上のギミックは大きく2つで、1つは村ぐるみで最終処分場に感染性廃棄物を不法投棄していること、もう1つは主人公の優とヒロインの美咲の幼馴染の透が、美咲に横恋慕していること。これらの展開から、最終的にどのような悲劇が起こるかはおおよそ予想がつき、実際、その予想は当たる。ただ、本作の良い点は、このなんとなく予想ができるイベント同士が、予想に反する軌道の線で繋がっていき、ポイントポイントで物語の展開が観る側の予想を裏切っていく点である。この裏切りによって、物語の熱量が終始失速しないため、最終的に振り返ってみれば非常に腑に落ちる顛末ながらも、最後までスリリングに鑑賞することができる。


 本作は俳優陣の演技アンサンブルが光る作品となっているが、その中でも主演の横浜流星の演技が印象に残る。主人公の優は、序盤のうらぶれた姿と、中盤以降の村の広報として脚光を浴びる輝かしい姿の、大きく異なる2つの姿を見せるが、この切り替えが非常に素晴らしい。

 かつ、この中盤の輝かしい姿への転身後も、物語の進行にしたがって、その立ち居振る舞いが、より自信に満ちた堂々としたものへと少しずつ変化していくという細かい演技トーンのチューニングがなされている。さらに、トラブルに見舞われることによって、過去のうらぶれた頃の挙動へと揺り戻される様も見事に演じられており、非常に幅の広い演技がシームレスに接続されている。横浜流星のこの演技によって、1人の弱い人間の驕りと転落に説得力が生まれている。


 さらにもう一人、本作で強烈な存在感を示しているのが、優の幼馴染の大橋透を演じる一ノ瀬ワタルだ。この透という人物は、有力者のボンボンでヤンキーでヒロインに気があるという記号的要素の集合のようなキャラクターで、かつ、本作の様々なトラブルの引き金となるという、物語を転がすうえで作中飛び抜けて重要かつ便利なキャラクターとなっている。

 このように本作きってのご都合主義的登場人物であるがゆえに、このキャラクターの調理次第で本作はいくらでも薄っぺらくなりえたのだが、一ノ瀬ワタルの演技により、この危険性は大きく回避されており、むしろ、作品に説得力が生まれている。

 序盤は主人公のイビリ役、中盤は恋愛のお邪魔キャラ、終盤は優の破滅のきっかけと、透は各ポイントで重要な役割を担い、常に嫌なヤツとして描かれる。しかし、一ノ瀬ワタルの絶妙な演技トーンにより、柄は悪いが気の良い兄ちゃんでもあるし、上の世代からはそんなに嫌われてはいないという別の側面もしっかりと伝わってくるため、キャラクター造形に深みが生まれている。

 特に良いのは、主人公を痛めつけながらも、ところどころで少し悲しげな色が浮かぶ表情の演技で、この微妙なニュアンスにより、ステレオタイプなヤンキーのように見える透にも、彼なりに村への無力感や絶望があることが垣間見えるのである。これにより、クズはクズなのだが、人間的に厚みのあるクズとして、このキャラクターが立ち上がってくるため、作品に大きな説得力が生まれている。



 2時間ちょうどの見やすい尺で、小気味よく絶望を堪能できるサスペンスとなっており、今年おすすめの1本だ。

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