2022年放送新作アニメ感想まとめ

平家物語

 原典である平家物語のストーリーを丁寧になぞりながら、現代の時代性に即した群像劇が展開されており、この時代にアニメ化した意味がしっかりとある作品に仕上がっている。主人公こそ、琵琶法師のびわであるものの、物語の主軸は、平清盛の3人の孫である維盛、経盛、清経、そして、清盛の娘である徳子が担っており、それぞれのキャラクターが非常に人間味のある人物として重厚に描かれていて、人間ドラマとして素晴らしい完成度の作品となっている。特に、娘であるがゆえに父・清盛の政治の道具として使われ翻弄される徳子と、男であるがゆえにその穏やかな気質にそぐわぬ武士としての生き方を背負わされ精神が摩耗してく維盛という両側面からのジェンダーロールの残酷さが丁寧に描かれており、古典に対してこれだけ現代的なアプローチを行っている点は非常に感服するところだ。

 平家一族を始めとする様々な人物たちが入れ代わり立ち代わり現れては散っていく群像劇である本作の中で、実質的な主人公は平徳子であろう。父の政争の道具として望まぬ婚姻をさせられることに無力感を感じていた少女が、夫である高倉天皇との歪な結婚生活を通して愛情を知ることで妻となり、安徳天皇を産み、落ち延びながら母親となる過程を通して、徐々に強い意志を持った逞しい女性へと成長していく姿がじっくりと丁寧に丁寧に描かれている。この丁寧な作劇の積み重ねを経て、彼女に感情移入すればするほどに、壇ノ浦での安徳天皇との死別という胸を引き裂かれるような悲劇が心に鈍くのしかかる。淡く繊細な作画のタッチに反して、非常に重厚な脚本である。

 全編を通して素晴らしい演出がなされているが、特に源氏に平家が追いやられ落ちていく終盤の真綿で首を絞められるような緊迫感が特に良く、無垢だった平家の若者たちが大人へと成長しながら、徐々に絶望へと突き落とされていく様が痛々しくも美しい。そして、壇ノ浦の悲劇を経て、悟りの境地へと達した徳子の姿で作品を終えることにより、本作の肝である諸行無常の概念へと帰着する本作の話運びの上手さが非常に心に沁みる。とっつきやすい作品でありながらも、この重厚さ。実に素晴らしい。


パリピ孔明

 日本の渋谷に転生した諸葛孔明と駆け出しの女性シンガー月見英子がタッグを組み、現代日本の音楽シーンを駆け上がっていく様を描いた作品。孔明が味方をも欺く巧みな謀略を巡らせ、ここぞという場面で英子が自慢の歌唱力で観衆を虜にするという非常に王道な展開が小気味よく楽しい。本作の肝は主要キャストをダブルキャストにし、歌唱パートは歌手に委ねている点。英子の歌唱を担当する96猫と、後半で登場する久遠七海の歌唱を担当するLezelが、非常にパンチのある歌唱をしており、実に素晴らしい。途中の孔明の謀略自体は突飛でも、彼女らの歌唱シーンでガッツリと視聴者の"バイブス”が上がるため、このうえなく話が丸く収まり爽快感がある。


 MCのKABE太人やAZALEAの七海の数話完結のじっくり人間関係を描く物語に移行する前に、前半4話を1話完結形式にしているのも巧みだ。孔明のやることには必ず意図があり、途中でどんなに怪しく見えても、全ては最後に英子に花を持たせるための策略なのだということをしっかり印象づけることで、視聴者がちゃんとタメを待てるように物語が配分されている。また、作品の根底に、英子と孔明の「夢に向かってまっすぐひた走る若者」と「彼女の才能を心から信じ支え導く大人」という関係があるため、途中の孔明の謀略が多少ずる賢くとも、非常に爽やかな作風に仕上がっているところも本作の美点である。


古見さんは、コミュ症です。第2期

 コミュ障の美少女女子高校生の古見さんと、彼女をサポートする男子高校生の只野くんの学園生活を描いたラブコメアニメの第2シーズン。第1シーズンではほぼ只野くんを介してしかクラスメイトとの交流をしてこなかった古見さんが、只野くんの介在無しで友達を作り始めるのが今シーズンの物語上の大きな進展だ。特にこの面が色濃く出てくる第21話の修学旅行回後編は、特殊EDの演出も相まって出色の出来である。


 非常にアニメ的な突飛なキャラクターばかりが登場するにも関わらず、全編を通して見ると高校時代の普遍的なノスタルジーに溢れているのが本作の魅力。さらに、今シーズンは、エンディングがアニメーション、楽曲ともに実にハイセンスで、古見さんのクラスの生徒達が季節の移り変わりとともに仲を深めていく様を短い時間で巧みに描いている。このエンディングが、本編のノスタルジックな雰囲気をウェットに昇華させて各話を完結させる役割を担い、結果として作品全体がリッチな仕上がりになることで、作品の格が数段高まっている。


 惜しむらくは終盤の22、23話で作画のレベルがガクッと下がってしまった点。なんらかのスケジュール上の問題が生じたと思われるが、美麗な作画と過剰に贅沢な動きの演出が大きな武器である作品がゆえに、この点は非常に痛かった。なんとか、BD-BOX化の際に修正を加えてもらいたいものである。


 今シーズンをもって、古見さんの1年生編は終了となり、原作だと2年生編に突入するのだが、2年生編でのある新キャラクターの加入により、物語の面白さが数段上がることから、ぜひ、第3シーズン以降も継続して制作してもらいたい。


ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 2期

 全国の高校に部活動としてアイドル活動を行う「スクールアイドル」と呼ばれる女子高生たちがいる世界を舞台にしたソーシャルゲーム「ラブライブ!」シリーズ。本作は、その1レーベル「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のアニメ化作品で、一昨年放送の第1シーズンの続編となる。本作は、ソーシャルゲーム原作作品におけるリスクマネージメントの究極系とも言える作品ともなっている。


 ソシャゲ発メディアミックス作品の大きな特徴は、数名から数十名の主要キャラそれぞれにしっかりとした固定ファンがおり、このファン達の熱が作品全体を支える大きな柱となっている点である。本作もその例に漏れず、主人公のスクールアイドルたちそれぞれにファンがいるのだが、本作ではこれが総勢12名というかなりの大所帯となっている。ここで、この構造の作品において最も気をつけなければならないのは、この主要キャラたちの活躍に少しでも不均衡が生じると、割りを食ったキャラのファンから猛烈なブーイングが起こるという点である。そのため、主要キャラたちの見せ場は必ず限りなく均等にしなければならない。本作でも限りなく均等に全キャラに所謂「お当番回」が用意されており、アイドルアニメの華であるライブシークエンスも最終回に至るまでほぼ完璧に平等に割り振られている。さらに本作は、原作のゲームではプレイヤーの分身である「あなた」を、高咲侑という1キャラクターとして独立させ、彼女も主人公の一人として据えているという特殊な条件も内包している。彼女はスクールアイドルではなく、ライブ活動は行わないサブキャラなのだが、担当声優がイベント等にしっかり参加している等の理由から彼女にもある程度の固定ファンがいるため、出しゃばらせすぎず、蔑ろにしすぎないというかなり慎重なキャラクターの運用がなされている。


 さらにこの形式の作品で重要なのは、短期的にでもどのキャラにも視聴者からのヘイトが向いてはならないという点である。最終的に事態が丸く収まったとしても、一瞬でも主要キャラ同士が対立したり、場を乱したりしようものなら、これらのキャラクターには「戦犯」だの「不憫」だのといったレッテルが永遠にまとわりついてしまう。そのため、基本的には主要キャラ同士は常に仲良しでいなければならないし、もし対立等を描く際には、双方に正当性があり汲むべき点があることを素早く念入りにフォローしなければならない。主要キャラの一人で、本シーズン第1話の時点で他の主要キャラとの対立を宣言し、ヘイトの最危険水域まで行った鐘嵐珠ですら、言い争いになる前に誰か別のキャラが場を穏便にまとめたり、内心では他の主要キャラのことを憎からず思っているという描写が丹念に挟み込まれたりしている。この形での作品作りにより、主要キャラたちの目標や悩みなどが非常に抽象的・観念的なものになり、シリーズ全体のストーリーがグループセラピー的な非常に平坦なものになってしまっているという大きな問題も本作は孕んでいるのだが、本作のメインのファン層はいわば子供の運動会や授業参観を見に来るようなスタンスで推しキャラを観に来ているわけなのだから、そんな大きな山ははなから求められていないのである。


 ここまで述べたように、この手の作品はかくも地雷原の多いジャンルの中にいるのだが、本作はこのリスクマネージメントをほぼ完璧と言っていいレベルで完遂している。これはつまり、手厚いファンサービス作品として完成しているということであり、ソシャゲ発アイドルアニメとしての一つの完成形がここにあるということであろう。


SPYxFAMILY

第1クール

 スパイの男・ロイド、殺し屋の女・ヨル、超能力者の少女・アーニャの3人がそれぞれの任務や生活のために偽装家族として生活していく中で起こる様々な事件やトラブルを描いたコメディ作品。


 シットコム風の淡白すぎず複雑すぎない舞台設定。基本はコメディながら、家族愛を織り交ぜたハートフルな面もある見やすいストーリー。最先端の可愛らしい絵柄ながら、深夜アニメっぽいセクシャルな雰囲気はないキャラクターデザイン。クオリティが高く、しっかりアクションのあるリッチな作画。とどめにハイセンスなOP、EDアニメーションに、主題歌がOfficial髭男dismと星野源。といったように、本作はあらゆる年代層に訴求しうる要素が一片の隙もなく詰め込まれており、言ってしまえば「これが売れないわけがない」レベルの仕上がりになっている。最大公約数的な作品がゆえに、尖った部分もあまり見当たらないのであるが、週末にまったり30分楽しんで、サッパリと寝るには最適解な作風と言えよう。


 とにかく、隅々まで「よく出来てるなぁ」という感想を抱く作品なのだが、特に秀逸なのは主人公の一人、アーニャ・フォージャーに心を読むことができる能力を持たせている点であろう。基本的に本作のコメディ部分のツッコミはロイドが担っているのだが、アーニャは彼が知り得ない神の視点レベルの情報も超能力で知ることができ、視聴者目線でロイドが取りこぼすツッコミポイントを確実に拾っていくことができる。しかしながら、子供であるがゆえに、アーニャはその情報をもとに物語の大局を動かしていくことができず、ただただ事態に驚きツッこむ役割に押し止められている。実に巧みなキャラ設定である。


 上述のポイントはただの一例に過ぎず、とにかく本作はすべての要素が恐ろしいまでに計算されバランス良く配置されている。まさに売れるために生み出された作品と言って過言ではない。


第2クール

 凄腕スパイの男・ロイド、殺し屋の女・ヨル、超能力少女・アーニャの3人がそれぞれの目的のために擬似家族となり暮らすことになる中で起きる様々なハプニングを描くコメディ作品。


 4月放送の第1クールから1クール空けての第2クールが本作。キャラクターや世界観の説明や準備にある程度時間を割く必要があった第1クールと違い、そういったものが全て整った第2クールはいよいよ物語が安定軌道に乗り始める。そのためか、今クールは続き物の長編である第13-15話を除いては、今回はアーニャの回、今回はロイドの回といった具合に、各話ごとにフォージャー家の誰か1人に対象を絞った話が多かったように見受けられる。各話の話運びが堅実で上手い本作だが、本作の一番の強みはやはり各登場人物がしっかりとキャラ立ちしている点。父親役のロイドはスパイとしてずば抜けて敏腕であるため、真面目なトーンの話ではその手際の良さが心地よく、コミカルなトーンの話では手際が良すぎるのがそのままギャグになっている。娘役のアーニャは読心術のおかげであらゆる登場人物の裏を知っているが、幼くおバカなため明後日の行動をとってしまうコミカルさが絶妙だ。そして、母親役のヨルはその高すぎる身体能力とそれ以外のほとんどのスキルにおけるポンコツさが可愛らしい。主要登場人物それぞれに違う味を持っており、この3人が各話ごとに入れ代わり立ち代わりメインを張るため、作品全体として話のバリエーションが多いのが本作の作品としての豊かさにつながっている。ただ、逆に今クールではこの疑似家族3人によるすれ違いコメディの回があまりなく、そういった面白みが少なかったため、制作が決定している次のクールではその面が補強されるとより作品の強度が上がるように思われる。また、アーニャ、ロイド、ヨルの3人のうち、ヨルが出番で他2人に圧倒的に遅れをとっており、今のところ作品での存在感が薄いので、この点も次回作以降ではもう少し盛り返してほしいところだ。


リコリス・リコイル

 極秘治安維持組織「DA」によって秘密裏に犯罪者を抹殺することによって平和が保たれている日本を舞台に、女性暗殺集団「リコリス」のメンバーである錦木千束と井ノ上たきなの活躍を描く作品。


 本作は陰謀論的な世界観やガンアクションなどの様々な要素の絡み合う物語だが、作品的に最も比重が置かれているのは登場人物たちの心の交流や思想のぶつかり合いである。多数の登場人物が登場する本作であるが、その中でも本作の大きな柱は2つで、1つは千束とたきなの心の交流、もう1つは千束とテロリストの真島の思想の対立だ。


 まず何を置いても、本作の一番のセールスポイントは、千束とたきなのある種百合的な関係性である。この二人の関係性は、互いに惹かれ合うというよりも、人たらしの千束にたきながのめり込んでいくという、かなり一方向に偏った関係性であるのだが、それゆえにかなり湿度の高い感情の揺れ動きが楽しめるようになっている。暗殺者としての生き方しか知らなかった孤児のたきなは、千束との生活によって、新しい日常を手に入れ、その生活に愛着を持つようになっていく。その過程の描写が非常に丁寧なため、終盤のたきなのある種エキセントリックなまでの千束への執着に説得力が生まれており、人間ドラマとして非常に濃厚である。このたきなの人間性の変遷は作中では成長として肯定的に描かれている。しかし、冷静になって考えてみると、何かに過度に依存する癖のあるたきなの依存先が、DAから千束に移り変わっただけとも言えるので、果たしてこれは良いことなのかとの疑念もわくが、とにかく演出がエモーショナルなので鑑賞中はあまり気にならない。


 そして、本作のもう一つの柱は前述の通り、千束と真島の対立である。テロリストである真島の目的は、DAによる暗殺行動を白日の下に晒し、DAによって治安を維持するという社会構造を破壊すること。そのためには、真島はテロ行為に手を染めることも全く厭わない。これに対し、千束はDAによって治安が維持されるという社会の体制を変革することは一人の人間の力では不可能なので、そこはすっぱりと諦めている。そして、その社会構造には従ったうえで、自分の手の届く自分の周囲の人々の平和を自分の手で守るという、かなり今どきの若者らしい思想を持っている。構図としては、「リベラルが先鋭化しすぎてテロリストになってしまった男 vs 穏健派過ぎて先鋭化した保守になってしまった女」という形で双方かなり問題がある二者の対立だ。ここにどう決着をつけるのかに注目して視聴していたのだが、本作では後者が是とされる決着となって終わった感が強く、個人的にはこの点には首を傾げざるを得ない。


 上記の点以外にも、結局のところ千束とDAの関係性がいま一歩よく分からなかったり、リコリスが10代の女性だけで結成されているのは、女の子にガンアクションをさせたいがための設定すぎて無理があったり、途中途中のDAまわりの展開が力技えであったりと、立ち止まって考えると色々と頭を抱える部分の散見される本作。ただ、そういった点を跳ね飛ばすほどに、千束とたきなの2人の心情描写が丹念で精緻であり、瑞々しい作画と小気味いいガンアクションがこの2人の関係性をさらに盛り上げてくれるため、楽しく満足感をもって鑑賞することができるようになっている。というより、本作で描きたいのは、千束とたきなの二人のいわゆる”エモ”い関係性であろうことを考えると、そこが魅力的に描けていれば、それ以外の部分の精度など些末なことなのである。


サマータイムレンダ

 幼馴染の小舟潮の死をきっかけに故郷である和歌山市・日都ヶ島へ還ってきた主人公・網代慎平。慎平は日都ヶ島で人を食らい、食らった人間に成り代わる”影”と呼ばれる怪物と遭遇するが、”影”に殺されたことをきっかけに、死ぬと時間を遡ることができるタイムリープの能力に目覚める。慎平はこの能力を武器に、島の住人の抹殺を目論む”影”との戦いに身を投じていく。


 所謂ループものである本作。主人公は”影”による島の住人の大虐殺を防ぐために、同じ3日間を何度も繰り返すこととなる。ここまでだとオーソドックスなループものなのだが、本作はここに2つの設定を追加することで、同一ジャンルの中でも頭一つ抜けた作品となっている。1つ目は、主人公とともに敵方の影の首領たちも記憶を引き継いでタイムリープができるという設定。この設定により、主人公・”影”両サイドがタイムリープのたびに前回のループの反省をもとに次のループでいかに相手を出し抜くかと思案することとなり、作品が手に汗握る頭脳バトルへと昇華されている。


 さらに、本作ではここに主人公がタイムリープで戻れるタイムポイントが、ループするたびに遅くなっていくというもう一つの設定が課されている。このルールによって、”影”側は主人公のループのタイムポイントを現在まで引き寄せれば勝ちとなる。これにより、主人公側だけでなく、”影”側にも明確な勝利条件が設定されることとなり、展開はさらにスリリングなものになっている。本作は、このようにループもののフォーマットに2点の”縛り”を設けることにより、物語に高度なゲーム性を持たせることによって、主人公と”影”の攻防が激化する中盤以降、最終盤まで緊張感を持続させることに成功している。


 このようにいくつものルールが課されていることから、本作は中盤以降、かなりロジックが複雑になっていくのだが、これを意識してか、各ループごとに「相手より先にこの場所にたどり着ければ勝ち」、「この人物を殺せれば/守れれば勝ち」といった分かりやすいゴールが自然と物語中で提示されるため、これらのロジックを完全に理解出来ていなくても、物語が追えるように配慮されている。このような巧妙なルール設定を下敷きに、本作では主人公と”影”の両者の優位が頻繁に逆転する巧みなストーリーが展開され、最終盤まで息の詰まるシーソーゲームが繰り広げられる。特に山場となる15話や18話、24話は声優陣の熱演や緊迫感のある演出のおかげで非常に見応えのあるものとなっている。


 ここ10年ほどで様々な作品が作られ、若干飽和状態の感もあったループものだが、本作はアイディア次第ではまだまだいくらでも面白さを高められることを示した傑作と言えるだろう。


ラブライブ!スーパースター!! 第2期

 「ラブライブ!」シリーズの1ブランド「スーパースター!!」のアニメ第2シーズン。全国の高校にアイドル活動を行う部活動、通称”スクールアイドル”が在籍しており、スクールアイドルの全国大会「ラブライブ」が開催されているという世界観で、この大会を目指す女子高生たちを描いた作品。


 新設校の1年生5人組で結成したスクールアイドルグループ”Liella!”の活躍を描いた前シーズンから1年時が進み、本シーズンでは新1年生4人が加入して、9人の新体制Liella!の活躍が描かれる。メンバーが9人に増えたことから、少数精鋭感のあった前シーズンと比較して、チームものの雰囲気が強くなった本作。新メンバーの4人の1年生がそれぞれに癖のあるキャラクターであるため、1年生同士や1年生と2年生などの様々な組み合わせの化学反応が生まれ、キャラクターものとしての面白さが前シーズンよりも増している。


 一方、センターの澁谷かのんのコンプレックス克服という大きな縦軸の物語があった前シーズンと比較して、本シーズンはそれほど大きな縦軸の物語が存在していない点には物足りなさを感じる。強いて言うならば、偉大すぎる先輩との実力の溝を埋めるために新入生たちが奮闘するというのが本シーズンの縦軸の物語だが、「たくさん練習する」以外の答えを物語上で提示できていないので、物語の推進力としては弱い。終盤2話で浮上する、かのんの留学問題をもう少し前倒しすべきだったのではないだろうか。そもそも、この留学問題事態、唐突感が強いのでその意味でも12話のペース配分には若干難があるように感じる。ただ、このあたりの評価は第3期の内容次第で上方修正もあり得るだろう。


風都探偵

 2009年放送の特撮ドラマ『仮面ライダーW』の正統続編となるアニメ作品。人間をドーパントと呼ばれる怪人へと変身させることができるアイテム「ガイアメモリ」が蔓延る街・風都。私立探偵の左翔太郎とフィリップの2人は仮面ライダーWへと変身し、ドーパントによって引き起こされる風都の数々の事件を解決していく。


 前述の通り、本作は『仮面ライダーW』の続編なのだが、この作品を通して『仮面ライダーW』が作り上げた「能力バトル + 探偵もの」というフォーマットの堅牢さを再認識することができた。能力バトルものと言えば、『ジョジョ』や『ONE PIECE』のようなジャンプ漫画を始めとして、昔から数え切れないほどの作品が作られてきており、様々な特殊能力を持った敵と主人公たちとの戦いというのが基本フォーマットである。本作もその系譜にある作品で、本作では様々な”地球の記憶”を宿したガイアメモリを使用し怪人化した犯罪者たちが敵である。能力バトルものの醍醐味は、敵の繰り出す攻撃から、主人公たちが相手の能力を解き明かし、打開策を編みだすところにある。本作では、この相手の能力を解き明かす過程を探偵もののフォーマットに落とし込んだところが実に上手い。さらに、探偵ものの基本である”犯人探し”という要素も足し合わされており、①怪人に変身する人間の正体を突き止める、②怪人の能力を解き明かす、③怪人の能力の打開策を立てる、という三要素がシームレスに進行するという本作独自のフォーマットが構築されている。あとは、怪人の能力を変えれば、このフォーマットでいくらでも話を作っていくことができるわけである。もちろん、本作の面白さは、脚本の三条陸氏の話運びの上手さとガイアメモリのアイディアの豊かさによる部分が大であるのは疑いようのない事実なのだが、それをおいても、この「能力バトル + 探偵もの」という本作のフォーマットは大発明だったと言えるだろう。


 原作の『仮面ライダーW』がもともと非常に漫画的な設定やキャラクター造形の作品であったため、アニメ化向きの作品であったというのも重要なポイントだ。特に主人公の左翔太郎については、本作で声を演じる細谷佳正と、ドラマ版で演じた桐山漣とでは声質がかなり違うのだが全く違和感がなく、細谷氏の演技力の高さを見せつけられる形となった。そのため、『仮面ライダーW』を観ていた視聴者にとっては、『仮面ライダーW』の続編としてストレートに楽しむことができる作品となっている。一方で、本作ではメインキャラクターに新キャラクターのときめが参入しているが、彼女が前作を知らない視聴者と同じ目線に立っているため、彼女の目線を通して自然と『仮面ライダーW』の世界観を過不足なく作中で説明する構成になっており、多方面に抜かりのない作品となっている。実写のスーツの質感をアニメ絵にうまくトレースすることで当時のバトルシーンの雰囲気を高レベルで再現しつつ、本作で新登場するドーパントのデザインは当時のデザインラインを踏襲しながらも、実写では難しいデザインが試みられている点も高く評価したい部分である。


PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL

 車の姿をしたモルモット「モルカー」たちの日常を描いたストップモーションアニメ作品の第2弾。


 本シリーズのウリはまずなんと言ってもモルカーたちの可愛らしさ。羊毛フェルトで作られた柔らかい外観の可愛らしいモルカーたちが、「プイプイ」というモルモット独特の鳴き声をあげながら、よちよちとストップモーションで動き回る姿を見て、愛で、そして癒やされる。この見る癒やし、見る多幸感というのが本シリーズの一番の肝である。本作も前作で培われたキャラクターイメージを崩すことなく、ふわふわしたモルカーたちが縦横無尽に走り回り、目を楽しませてくれる。モルカーの可愛らしさの肝は無垢さと不憫さなのだが、本作でも困惑したり涙目になったりしながらも懸命に頑張るモルカーたちを堪能することができる。


 モルカーの可愛らしさに加え、1回3分という短い放送時間の中に詰め込まれたしっかりとした脚本や、キャッチーな各話のテーマ設定、コアなオマージュなどが前作の大ヒットの要因となったが、本作ではこれらの要素は前作と比較するといま一歩だった印象。前作と比較すると本作では、話のテーマがはっきりしない回が散見された。また、視覚情報だけで話を成立させていた前作と異なり、どうしても文字情報などで補足しないと伝わらない内容を含んだ脚本の回が多く、マイムだけで成立させるには込み入りすぎて展開が分かりにくい回も少なくなかった。制作期間の短さのためなのか、前作と比較して、本作ではそのあたりの煮詰め方がもう一歩だったのが少し残念に感じる。ただ不満はあれど、作品の印象を大きく毀損するほどの不満でもなく、なにより、非常に手間のかかるストップモーションアニメシリーズにも関わらず、このスピードで新作を出してくれたことを考えれば、本作も十二分に及第点の作品であったといって差し支えないだろう。


チェンソーマン

 悪魔と呼ばれる怪物が蔓延る世界。少年・デンジは死の淵で悪魔を体に取り込んだことにより、全身にチェンソーが生えた「チェンソーの悪魔」へと変身する能力を得る。公安の管理下に置かれた彼は、悪魔を狩るデビルハンターとして悪魔と戦う日々を送ることとなる。


 本作を視聴していて強く感じるのは、構図や色調、カメラワークなどの演出の様々な面において、実写映画的なアプローチが試みられているという点である。これに合わせ、声優陣の全体的な演技トーンも、一般的な大人向けアニメ作品と比較するとかなり抑制的になっているように感じる。ただこの点については、デンジや早川アキのような実写映画並のロートーンな演技のキャラクターもいれば、パワーやコベニのような分かりやすくアニメ演技のキャラクターもおり、キャラクターごとに揺らぎがある。それぞれのキャラクター性やキャラクター設定に依拠する部分も大きいのだが、それぞれのキャラクターへの各声優のアプローチの違いが見られて面白い。これらの登場人物の中でも、特にデンジの演技トーンのチューニングは繊細になされている。そもそも、このデンジのキャラクター性というのが非常に現代的で、常識や倫理観が欠如しているがゆえに随所にエキセントリックな言動を見せる一方で、正義にも悪にも全く関心がなく、食欲や性欲に忠実ながら、たいして欲深くもないという現代日本の閉塞感の中で生きる若者の精神性を反映したキャラクターとなっている。アニメ版の本作では、主演の戸谷菊之介が絶妙な演技トーンのコントロールを見せており、ケレン味のあるシーンでは派手に決めつつも、全体としてはアニメ演技に行きすぎない生っぽい質感の演技を通している。


 このように抑制的で冷たい空気感が本作の美点であり、各キャラクターの感情の動きを丁寧に描く脚本も相まって、各々が心に歪さを抱えた人物たちの群像劇として見ごたえのある作品となっている。特に今回のアニメ化では、デンジの同僚である早川アキと彼の先輩である姫野の関係性が素晴らしい。途中途中で回想シーンを挟みつつ、双方が持つお互いへの気持ちが徐々に開示されていき、2人の関係性は第8話で1つの結末を迎える。姫野が使役する「幽霊の悪魔」の演出も相まって、この回は非常に印象に残る回となっている。一方で、デンジはその性格がゆえに、1話から最終話に至るまでキャラクターとしての成長や心情変化がほぼ描かれないため、主人公の割にはあまり話の中心にいない印象を受ける。それもあってか、作品全体の大筋の物語があまり進まないままに話が進み、「ここから面白くなってきそうだなぁ」と思っている間に最終回になってしまった感が否めない。このあたりはそもそも、原作漫画の途中までのアニメ化であるのである程度やむを得ないところなのだろうか。


 前述のように抑制的な演出が光る本作だが、一方で、この地に足のついた演出がゆえに作品の空気感がバトルシーンの演出と若干噛み合っていないように感じられるのが少し気になるところ。本作はバトル漫画でもあるため、作品の随所に巨大な悪魔とデンジたちとのバトルシーンが用意されている。このバトルシーンはどれも、美麗な作画とスピード感のある演出やカメラワークが組み合わされたハイクオリティなものとなっており、世界最高峰レベルのアニメーションに仕上げられている。しかし、なんせそこに至るまでの各キャラクターの感情の流れの描写が非常に抑制的であるがゆえに、そこから一転して高度にアニメ的なバトルシーンへ移行されても、観ている側の気持ちがうまく乗っていけないのである。各シーンの頑張る方向が違うために、作品全体としてのバランスが取れていない。一方で、同じ悪魔の登場シーンでも、第8話や第12話の幽霊の悪魔のシーンのような動きの少ないシーンでは、作画のパワーと演出がうまくマッチングしていて非常に感動的な仕上がりとなっている。


 このように全体を通して本作は、実写映画らしい抑制的な演出とアニメ作品らしいケレン味がぶつかりあって喧嘩したような作品となっている。この2つの方向性がうまくマッチしていない部分も散見されるものの、一方で、二方向の間で作品の演出が揺らぐことによって、本作独自の独特な空気感が醸成されている部分も大きく、トータルではかなり見ごたえのある作品であると感じられた。


機動戦士ガンダム 水星の魔女 シーズン1

 人類が宇宙に進出して久しい世界。モビルスーツと呼ばれる巨大人型ロボットが広く普及し、宇宙開発や戦争用兵器など幅広い用途に利用されていた。辺境の星である水星で育った少女・スレッタ・マーキュリーはモビルスーツ関連産業に携わる人材を育成するアスティカシア高等専門学園に、愛機エアリアルとともに編入してくる。平穏な学園生活に憧れていたスレッタだったが、ひょんなことから学園の親会社であるベネリットグループの総裁の娘であるミオリネ・レンブランと婚約関係を結ぶこととなってしまう。これをきっかけにスレッタは、学園全体を巻き込む大きな争乱に引き込まれていく。


 とにかく話作りが抜群に上手いというのが本作の率直な感想だ。まずもって1クール通しての緊張感のコントロールが素晴らしい。本作の基本フォーマットは「スレッタの操縦技術とエアリアルのモビルスーツとしての性能が群を抜いて優れているので、バトルになれば絶対にスレッタが勝つ」という大前提のもと、「エアリアルがガンダムと呼ばれる特別なモビルスーツであることがバレてはいけない」、「弱い仲間たちと組んで戦わなければならない」などの枷を、スレッタやミオリネがいかに乗り越えていくかを描くというもの。このフォーマットの動かし方が実に絶妙で、ストレスのかけ具合とガスの抜き具合のバランスが著しく優れているので、適度にハラハラし、適度にスカッとしながら見ることが出来る。前述の通り、スレッタがエアリアルを操縦しさえすれば、相手モビルスーツを蹂躙するほどの戦力を発揮することができるため、バトルシーンのカタルシスが非常に強く、それでいて、エアリアルが勝てば勝つほどに、エアリアルのきな臭さも増していくという何重にも考えられた構成には実に唸らされる。


 さらに本作は群像劇としてのレベルも非常に高い。各々の登場人物たちの思惑や行動が複雑に絡まりあった結果、物語が悲劇的な方向へ加速度的に転がっていく9話以降は、それまでに積み上げてきた人物描写が一気に花開き、様々な化学反応が起こって1秒たりとも目が離せない。キャラクター同士のすれ違いをフル活用した推理小説のようなギミックが展開される作劇でありながら、ストーリーの都合にキャラクターたちの行動が引っ張られることもなく、ちゃんとそれぞれの人物の感情の流れもしっかりと描かれていて実に脚本のレベルが高い。スレッタならこういう状況ならこうするな、ミオリネならこうするな、というようにそれぞれのキャラクターが皆、血の通った人間として描かれるため、神の視点で彼女らを見つめる視聴者である我々は、最終回ラストで心が千々に乱されるのである。


 さて、本作のテーマについても述べたいところだが、現段階ではそれは難しそうである。シーズン1、シーズン2と銘打ってはいるが、最終回の展開を見るにどうにも本作は2クールで1つの物語として構成されているようであり、第1シーズンの最終話はあくまで全体の真ん中にすぎないようだ。そのうえ、スレッタとミオリネの恋愛、ミオリネとグエルのそれぞれの親との確執、ニカのスパイ活動といった第1シーズンで丁寧に積み重ねられてきた全ての展開を、本作は最終話で全て完膚なきまでに破壊してしまった。これらをいかにすくい上げて再構築するのか、もしくは破壊したままにしておくのか。ここの着地の仕方を見てからでなければ、本作のテーマ性については語れないだろう。いわば、スクラップ&ビルドのスクラップのところまでを描いたのがこのシーズン1なのである。12話をかけて1つ1つ並べていった巨大なドミノを最終話でえいと倒した本シーズン。視聴者の阿鼻叫喚をバックにけたたましく倒れ始めたドミノがどこに向かっていくのか、ぜひ、シーズン2で見届けたいところだ。

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