【映画感想】『グリッドマン ユニバース』

あらすじ

 都立ツツジ台高校に通う少年・響裕太。彼はかつて、異次元からやってきた巨人・グリッドマンと一心同体となり、街を襲う怪獣と戦っていたが、彼にはその間の記憶が一切残っていない。平和になった世界で、裕太はともに怪獣と戦った同級生の宝多六花へと好意を寄せていたが、告白を切り出すきっかけをつかめずに悶々とした日々を送っていた。そんな中、街に再び怪獣が出現する。裕太は怪獣を追って、裕太たちの世界に舞い戻ったグリッドマンと再度一心同体となって戦うが、そこにさらに別の世界の住人である麻中蓬たちが現れ、事態は混沌とし始める。(2023年公開、監督:雨宮哲)


評価

★★★☆☆ 3.6点


予告編


感想

1993年から1994年に放送された特撮ドラマ『電光超人グリッドマン』を原案としたアニメ作品『SSSS.GRIDMAN(2018年)』と『SSSS.DYNAZENON(2021年)』のクロスオーバー作品。本シリーズは、ロートーンな少年少女たちのドラマパートと、ドラマパートで蓄積された鬱屈を吹き飛ばす派手で爽快感のあるバトルパートで構成され、このコントラストが印象的だったが、本作もこのコンセプトをしっかりと受け継いだ作品となっている。視聴者が気になるTVシリーズの登場人物たちの後日談をガッツリと盛り込んだうえで、バトルシーンも劇場版の名に恥じない物量で詰め込まれており、TVシリーズを応援してきたファンにとってはご褒美のような作品となっている。


元のTVシリーズ2作は、巨大ヒーローたちのバトルがメインに据えられた作品でありながら、少年少女たちの繊細で生っぽい人間ドラマの比重が非常に大きく、かつ、そこが作品の最大のウリの一つであった。その作風ゆえ、明確な描写は避け、ある程度視聴者に解釈を委ねるような部分も多く、そこがさらに作品の味わいを深めていた。特に『SSSS.GRIDMAN』についてはそういった要素が強く、「ヒロインの宝多六花は主人公の響裕太に対して好意を持っていたのか」、「怪獣たちを生み出した元凶の少女・新条アカネは自分の世界へ帰ったあと、どうしているのか」などといった点は、描かれなかったがゆえに、それが鑑賞後の強い余韻へと繋がっていた。

しかし、本作ではこういった要素をあえてことごとく拾い上げ、しっかりと物語として答えを提示していく。往々にして、こういったスタンスの作劇は蛇足になりがちであるし、これによって、もともとの作品の良さすらもぶち壊しかねない。しかし、本作はこういった数々の要素を、「これが見たかった」と「これは予想してなかった」を非常に優れたバランス感覚で両立させながら、実に見事に回収してみせている。これほどまでに危ない橋をキチンと最後まで落ちずに渡りきるものかと驚くばかりだ。

TVシリーズ2作に登場したキャラクターは、「こんなキャラまで!?」というレベルで拾い上げ、それであれば、このキャラとこのキャラは並び立ってほしい、このメンツで共闘してほしいといったファンの要望をスカさずにしっかりやり切り、そのうえで、ちょっと予想しなかったような新キャラや展開まで納得感をもたせながら放り込んでいく。ここまでシリーズを追ってきた人にとっては垂涎のファンムービーだ。


本作は『SSSS.GRIDMAN』の世界観をベースに、『SSSS.DYNAZENON』のキャラクターたちがゲスト登場するような構成となっており、両作の登場人物たちが一堂に会するため、かなり登場人物の多いオールスター興行となっている。しかし、その一方で、本作では主人公の響裕太とヒロインの宝多六花のラブストーリーという大きな縦軸が物語に敷かれており、ただのオールスター興行にはとどまらない作品となっている。

とはいえ、物語の進展とともに世界滅亡へと事態が深刻化していくうえ、次々と登場人物たちが裕太たちに合流していくために、裕太と六花のラブストーリーの側面は一時希薄になっていくきらいがあり、縦軸をしっかり頭から終わりまで完遂できたかと言われると少し怪しい部分もある。物語の中で六花と同級生の内海将が文化祭の演劇の脚本を執筆するというくだりがあり、その中で、要素が多すぎて脚本の本当に書きたいことがなくなっていっているとツッコミが入る展開があるのだが、まさに、本作自体もその状況に途中陥っている。

ただ一方で、全ての事件が終わった後のエピローグでは、きっちりこの縦軸が話の中心に戻されており、かつ、この裕太と六花の関係性の落とし所、特にラストカットがこれ以外の正解はないというほどに素晴らしいものとなっているため、全体としては満足度の高いストーリー展開となっている。

また、TVシリーズにおいては、この二人の関係よりも、六花とアカネとの関係の方が深く描かれていたのだが、この関係性についてもおざなりにならないように実に繊細なフォローがなされており、この気配りも実に素晴らしい。さらに本作は、グリッドマンのパーソナリティの深堀りもなされているため、裕太と六花の関係性の物語でありながら、裕太とグリッドマンの関係性の物語にもなっており、この両者を非常に高度に両立させたストーリーテリングとなっている。


このように人間ドラマとして非常にボリュームのある本作だが、その一方で、作品の華である怪獣とのバトルシーンの物量も相当に気合が入っている。TVシリーズの時点でアクションシーンはかなりの完成度だったのだが、本作はさらに作画レベル、演出レベルが上がっている。

特に中盤以降は、ダイナレックスなどの巨大合体ロボが次々と参戦し、とてつもなくディテールの細かい巨大ヒーローたちが、これまたディテールの細かい怪獣たちと、街中でグルングルンとハイスピードに戦闘を繰り広げ、さらにこれを縦横無尽に動き回るカメラが追うという超高密度な情報量のバトルシーンが次から次へと繰り広げられるのだが、ここまで情報量が多いにも関わらず、キャラクターたちの位置関係や動作をはっきりと視認できるうえ、アニメーションはしっかりと重量が感じられるものになっており、映像の快感が非常に高い。

ヒーローものとして見たい展開、見たいバトルは全部見せてくれるうえに、さらにこちらが予想していなかったようなシーンまで見せてくれるため、ヒーロー映画としても上質なものに仕上がっている。

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